池西靜江先生と看護教育を語る(前編)

※看護展望 2015-1172 Vol.40 no.13掲載、ブログにするにあたりメヂカルフレンド社より許可を頂いております。

今回は看護教育の大先輩である池西靜江先生に、これまで明らかにされてきた様々な看護教育の実態について
率直なお考えをうかがいました。
看護教育のトップランナーは、今の看護教育についてどう考え、何を語ってくださるのでしょうか。
すべての看護教員の皆さんへ送る熱いエールをぜひお読みください。

池西靜江氏
国立京都病院附属看護助産学院、京都府立保健婦専門学校を卒業し、臨床経験後、看護教育の道に進み、看護教員歴37年を経て、2013(平成25)年3月(専)京都中央看護保健大学校を退職する。その後、看護教育を応援するために個人事務所を開設し、現在に至る。

 

反転授業が秘める力

今回は池西先生をお招きいたしまして、看護基礎教育全般について、様々なお話をしていきたいと思います。
池西先生、本日はよろしくお願いいたします。
奥山 
奥山 
池西先生
池西先生
こちらこそよろしくお願いします。

まずは学生への教育方法についておうかがいしたいと思います。
これまでの連載ではたびたび、学生の卒業時に必要な看護実践能力を身につけさせることができないということが問題視されてきました。
池西先生が現在研究を重ねられている反転授業は、これまでの技術教育が抱えてきた問題を解決することができるのではないかと注目を集めていますね。
奥山 
奥山 
池西先生
池西先生
技術教育で大切なことは、まずは体験をしてみて自分のできなさ加減を知り、“自分にはこの技術が必要だから習得しなくてはならない”と、思えるように内的動機づけをすることなんです。
しかし、今の学生を見ていると、技術の練習をしなくてはいけない理由を見いだすことができていない。
“技術試験があるから”、“先生に怒られるから”といった、それこそ外的な動機づけにしかなっていないのです。
練習は試験に合格をするためだけのものになり、試験に合格したらそこで練習は止めてしまいます。
そして、数か月後には忘れてしまっている。そんな技術教育ではいけませんね。
学生を“技術を磨く”という気持ちにさせるということが大事だと思います。

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この対談記事が記載されています。
看護展望2017年11月号 Vol.42 No13 通巻530号 メヂカルフレンド社
↓クリックするとメヂカルフレンド社のサイトをご覧になれます。

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技術実践の時間を増やすために

池西先生
池西先生
学校の教育は時間が決められています。
テキストにわかりやすく書いてある部分までを授業で時間を割いて教えていると、どうしても技術実践が、すごく短い時間で終わってしまい、あとは「自分でやりなさい」、「テストするからがんばりなさい」となってしまう。
そうなってしまうと、学生はこの技術が自分にとって本当に必要なのだということがわからないまま授業が終わってしまいます
それではいけないのです。
そこで目的や方法など、テキストに書いてある部分を、きちんと学生に事前学習で学んできてもらいます。
教員がテキストの内容に添った技術のデモンストレーションを自分たちで撮影して、学生たちに配信してあげるのも効果的ですね。
以前であればデモンストレーションのビデオが学校に1本しかなくて、それを学校で見て、自宅に帰ってテキストを読みながら思い出して……という作業でしたが、今はみんなスマホは持っているし、タブレットだってあるという状況ですからね。
動画と一緒にテキストの手順書を見ると、書いてあることがいっそうよくわかりますよね。
そして実際に自分が動けるような手順書を作る。
学校に来たら、どうしてこの技術を行うのか、どうやってこの技術を行うのかということは理解している。
イメージトレーニングはできている。では、作ってきた手順書を基に技術を実践してみようということが可能になります。
授業は実践の時間に充てたいですね。
そうすると、1回の実践では「1回しかやってないのだから、できなくてもしょうがない」と思うでしょうが、2回、3回と実践をしていくと「これは練習をしなければできないかもしれない」と思ってくれる。それが一番大事だと思います。

それはすばらしい教育方法ですよね。
私も教員時代は、学生に看護技術をがっちり教えたいと思っていましたので、限られた時間内でしっかりと技術を教え込むための授業について模索をしていました。
そんなとき私は、学生がみんな持っている携帯電話を使えば効率的な授業ができるんじゃないかと考えたんですね。
まずはベッドメイキングなどを私がデモンストレーションしてみせて、その様子を携帯電話で撮影してもらう。
そして、「次の授業で、技術テストをするから、デモンストレーションを参考にして練習してくるように」と告知してみたんです。
そうすると、みんな「えー!」とはいうもののおもしろそうに毎日実習室で練習してました。
奥山 
奥山 
動画で撮影して技術テストをすれば先生方の労力も減らせるし、学生も興味をもって学べ、技術も身につくし、“これはもう一石二鳥の教育方法じゃないか!”と、自信をもって教員会議で提案したら、ベテランの先輩たちから
「動画が流出したらどうするのか」
「携帯電話をもっていない学生にはどう対応するのか」
と質問攻めにあいました。
新しいことをすると何か悪いことが起きてしまうという前提でしか発想ができなくなってしまっている……。
便利な道具がいっぱいある今の世の中なら、教員は自由な発想でおもしろい授業をどんどん作り出していくことができるし、それこそが教育の醍醐味なのに……。
これでは新しい発想なんかしないほうがいい、提案も何もやらないほうがいいや……ということになりますよね。
ただ、ITなどを使った画期的な技術指導については、池西先生をはじめ、積極的な先生たちも数多くいらっしゃいますので、反転授業の普及をきっかけに、看護教育界全体がこれから大きく変わっていってほしいと願っています。
実際、この連載を読んでくださった神戸の看護学校の先生方からすぐにITを取り入れた授業の方法を知りたいと弊社に研修の依頼をいただきました。その学校ではすでにタブレットを何十個か購入されていました。
奥山 
奥山 

“考えられない学生”はどうして生まれるのか

これもよく出る話ですが“最近の学生は考えられなくなった”という意見については、どうお考えになりますか。
奥山 
奥山 
池西先生
池西先生
1年生で基礎看護技術を教える時期を例にしますと、現在の看護教育では、患者設定をして、考えさせようとする技術教育を取り入れていますよね。
考えさせようとすることはいいのですが、まず、私は手順に沿ってきちんと技術を行うという段階のトレーニングを積むことがもっと必要だと思います。
おおむね手順通りに技術を行うことができたところで、患者の状況設定をして、さあ考えて対応してみようとしたほうが、基礎がきちんとできて、応用につながると思います。

そのとおりですね。
まずは注射であれば、点滴とルートの準備、“血管の選定”、“駆血”消毒、針の挿入といった一連の動作をとにかく反復させることが大事です。
練習、練習、練習です。そしてこの一連の動作が「無意識にできるようになった段階でないと、学生には次のことなんか考える余裕は生まれません
ただでさえ、オロオロしているのにここで“血管が奥に入っている患者にどう対応するの?”なんていわれると思考が停止してダンマリに化してしまうわけです。
手を出したら何が起こるかわからない。だから、手を出さない、何もしないという行動につながり、他人からするとそれが“考えていない”動かないと見えてしまっているのかもしれません。
奥山 
奥山 
池西先生
池西先生
元々、考えることが苦手な学生たちが多いのですから、まずは技術を習得することをがんばり、その後、状況設定という応用に進むという、一定の段階性があるといいですよね。

本当の意味での技術教育が終わってから、応用編を学校で少しトレーニングしてあげれば臨床に出たときも挙動不審に思われないと思います。
たとえば、まずは“点滴をつなぎ替える”というところまでは無意識にできるようにして、次に重複課題。
点滴をつなぎ替えている最中に患者に呼ばれたら何を優先するか。
点滴のつなぎ替えが優先か、患者対応が優先か、だれかの助けを求めるのか、というような設定を教員どうしが協力して経験をさせるといいと思います。そしてその経験を経てから実習に出すといいと思います。
何時間授業をしたから、あとは勉強してくれと放り投げられて実習に行くんですから、学生が実習に行きたいと思うわけがないですよね。
奥山 
奥山 
池西先生
池西先生
そうですね。
応用の応用が臨床の現場ですから。私たちはそういった段階性をもう少し大切にしたいですね。
思考は大事ですが、思考と技術の確実な習得を同時に求めることで、学生にしんどい思いをさせてしまい、技術習得に興味をもたせない一つの要因になっているのではないかと思います。
中途半端にいろいろなことを同時に、しかも短い期間で行おうとしてしまっているような気がとてもします。

 

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【性格分析ファイル(自己成長エゴグラム)】
なぜ、あの学生がかわいく思えないのか? 教員だって人間ですから(笑)
自分と合う学生、合わない学生はいるものです。
学生や他の教員との相性を見るには「オーバーラップエグゴラム」をオススメします。
まずは、50問の質問に答えて、自分自身のエゴグラムを完成させてみましょう。
課題をもって生活すれば、エゴグラムは自由自在に変えることができ、その意味で「自己成長エゴグラム」といいます。
大人しすぎてカンファレンスで発言できない学生、逆に挑戦的な自己主張をしすぎの学生がなぜそうなのか、わかります。
クラス全員のデータを見て、騒がしいクラス、大人しすぎるクラスがなぜできるのかもわかるので、集団分析にも看護研究にもオススメです。

一度ダウンロードすればデータを消して、半永久的に活用できます。
ダウンロードは info@tn-succ.biz にお問い合わせください
*分析の解説を希望される方はもお気軽にお問い合わせください。

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教員は学生に考えさせているか

 

私は学校に教育研修を依頼されることが多いのですが、参加者の先生からよく「今の学生は思考過程がなってない」という悩み事を相談されます。
そこで私は「学生がどんなふうに考えたらいいんですか」と聞いてみます。
だいたいの方が「具体的にはないです」と、考えさせたいものが答えられないんですね。
正直、拍子抜けしてしまいます。
教員も学生に考えろというのであれば、自分も真剣に何を考えてもらいたいのか、自分なりの正解をもっておく必要があると思います。
正解にたどり着くためには何を調べてもらいたいのか。すぐに正解を欲しがるなと指導するのであれば、なぜ正解を求めることはダメなのか。
そこがなくては学生も何を求められているのかわからず、さらに考えることができずに悩んでしまう。
奥山 
奥山 
池西先生
池西先生
そうですね。私もメヂカルフレンド社で出版した『考える看護学生を育む授業づくり1)という書籍でも書いているのですが、教員はもっと“考えさせる”ということを、学生にさせなくてはいけないと思っています。
今の学生は“短絡的思考”で物事を考えがちです。
たとえば、だれかから「患者さんがあまり話さず暗い表情をしていたけれど、散歩に行ったら表情が明るくなって話すようになった」と聞くと、“そうか。落ち込んでいる患者さんは散歩に行くと明るくなるんだ”と思ってしまう。目の前のこの患者さんは何を望んでいるのか、どうしたらよいかということを考えられないんです。
考える力が育てられていないので、人に答えを聞いて、そのままマネすることに疑問を感じない。
ふだんの生活では考えることができても、看護の場面では専門的な知識が必要ということも原因の一つだと思うのですが、ことさら考えることができないんですよ。

1)新井英靖,荒川眞知子,池西靜江,石束佳子編著:考える看護学生を育む授業づくり;意欲と主体性を引き出す授業方法,メヂカルフレンド社,2013.

池西靜江先生と看護教育を語る(後編)はこちら

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