どちらがいいの?「優しい看護師」VS「厳しい看護師」

患者と家族にじょうずに向き合うための方法
看護師のコミュニケーションスキル「優しい対応」と「厳しい対応」

照林社「エキスパートナース」8月号

照林社「エキスパートナース」8月号

優しくおだやかな対応で患者さんやスタッフにも好かれる看護師のA。しかし、患者さんやご家族が大きな決断をしなければならない時や、患者さんの急変時などリーダーシップを発揮しなければならない場面などでは、ちょっぴり「頼りない」・・

ここでは、あらためて「優しい看護師」と「厳しい看護師」の言動の違い、そしてそれらの対応がどんな時に適するのかを考えてみます。

 

 

優しい看護師(非指示的)と厳しい看護師(指示的)の言動の違いとは

上記は私がコーチングや研修で活用している指示的な非指示的な言動を分類した表です。患者満足度調査などでもよく、満足の理由として、「スタッフが優しいから」という答えが上位にきますが、私は「優しい対応」のことは「非指示的」、「厳しい対応」のことは「指示的」と捉えています。非指示的な対応(優しい)とは、穏やかにゆっくりと耳元で話しかけたり、優しいまなざしと言葉で人を励ましたり、勇気づけたりする言動を指します。一般的に人は看護師に「優しさ」を求めるものですが、逆にビシッと言ってもらいたいという時もあります。患者さんやご家族に選択肢を示して選んでもらう必要があるときなどは、ハキハキと短時間でいろんな情報を伝えなければならないときもあります。厳しい選択肢を選んでもらうときには、あえてクールに振る舞うこともあるでしょう。こうしたときは、指示的な対応(厳しい)が望ましいと思います。

数年前、娘が都内のとある病院に入院し「手術」を受けました。1時間程度で終わる手術でしたが、先端恐怖症があって注射を大の苦手とする娘にとっては一大事。ルート確保の時点から大暴れで退院指導も反発的な態度でした。そんな娘にタイプの違う看護師がそれぞれ的確な対応をしてくれたおかげで無事に予定通りに退院することができました。

入院の受け入れとルート確保をしてくれた看護師は非指示的な優しいタイプの看護師。手術当日から退院までを担当してくれた看護師さんはクールで「できることはできるが、できないことはできない」と、ビシッと物を言う指示的な人でした。娘ははじめ、この看護師を怖がっていましたが、結果的に、この指示的な看護師が術当日~退院までを担当してくれたおかげで、娘の甘えが出る場面がなくスムーズに退院することができたのだとも思います。

先端恐怖症の娘は、小学校の2年生の時からまともに採血や注射ができませんでした。これまでかろうじて注射ができたというのは中学1年生の時で、ケガでどうしても皮膚の縫合が必要で麻酔をした時と、急性虫垂炎で緊急入院した時のたったの2回。今回の入院でも大人4人がかりで押さえつけても暴れて採血すらできずにいました。それでも非指示的な看護師が「注射って嫌だよね、怖いよね。わかるよ。看護師さんだって本当はしたくないって言いたいんだもん。でも患者さんにたくさんお注射やってるのにそんなこと言えないよねって我慢してるんだよ。」と、大声で泣きわめく娘にこの上ない優しい声をかけてくれました。その言葉を聞いて娘もだんだん素直になりましたが、それでも注射はやはりできません。情けなくて私も泣けてきました。なぜならこの日のために、親子でもできるだけ限りのことをしてきたからでした。藁にもすがる思いで「注射が怖くなくなる」という自己暗示(動的催眠)をかけてくれる民間のカウンセリングルームに入院前日まで毎日通いました。(5回のカウンセリングで5万円と高額)それでも術当日はやっぱり怖くて逃げ出そうとするため、午前中に精神科を受診。デパス2錠を処方してもらい飲ませてなんとか午後から入院。親子でなんとか手術ができるようにと努力しながら臨んだ入院だったのです。

 

非指示的(優しい)な対応は患者の不安を軽減し、持っている力を引き出すことができる

1時間たっても点滴ができず、私も娘も「やっぱりダメか」とあきらめかけていると、看護師が、おだやかな話し方で「絶対に入るから大丈夫。もう1回だけがんばろう」と声をかけながらチャレンジしてくれました。すると、なんと18Gの留置針がすんなりと入ったのです。「注射できた!」と、娘は大声で喜びました。

 

指示的(厳しい)対応は対象の甘えを抑えることで、持っている力を引き出す

手術当日の看護師は指示的で娘に淡々と術当日の流れを説明するタイプでした。留置したルートに点滴をつなごうと左手に触ろうとすると、「やめて!」と娘が、看護師の手を払いのけたので私が「すいません。この子先端恐怖症なんです」と言うと、看護師は娘に「あ、そうですか。でも点滴しないと手術できないけど?」と、クールに話しかけました。娘は「優しくこっちに見せないで包帯とってください!」と要求。「できるかぎりそうします」と言い、淡々と点滴をつないでくれました。抜針時に暴れようとした娘にも、その看護師は「じゃあ、このまま針を刺して帰るんですね」と言うと娘は、「それは嫌です。でも痛くないように抜いて下さい」と要求。しかめっ面をしながらもスムーズに抜針もできました。

どんなときに役に立つか

「指示的」、「非指示的」な対応は上記のように状況に応じてそれぞれ役に立つことが分かります。不安が強い患者の入院を受け入れるときには非指示的に治療に対して決断が必要な時には指示的に、急変時のリーダーシップや新人指導時には指示的に、といった具合にどちらの対応もできるというのがベターです。よく新人を教えるときはティーチングが大事なのかコーチングなのかと聞かれることがありますが、仕事がわからない時点で何かを「引き出そう」としても無理な話です。まずはティーチング(指示的)で仕事の手順や様々なことを教え、一通りできるようになった時点で「この場合、患者さんの個別性を考えるとどうしたらいいと思う?」などと、優しく非指示的な対応で考えを引き出すようにすると上手くいきます。
私はコンサルタントとしてベテランのスタッフに関わる時には非指示的にしていますが、新人と関わるときには指示的にとそれぞれ関わり方を変えています。なぜ状況に応じて使い分けるようになったのかというと、私自身の経験によるところが大きいと思います。経験豊富なベテランスタッフで編成された新規プロジェクトチームに「あれこれ」言うとやる気を失わせてしまうことが多く、非指示的にある意味「任せっきり」にした方がプロジェクトがどんどん進むことがほとんどでした。

患者にも部下にも慕われているプロフェッショナル看護師はどちらの関わり方もできる人たちではないでしょうか。意識的にどちらの対応をも取れれば人の決定や成長を促すことができるのですが、そもそも指示的なタイプの看護師は「自分は指示的だ」と認識していないということもあります。キツい対応になっているのに自分が「キツい」とは思っていない。「人は甘やかすと調子に乗る。だから優しくしない方が本当の意味で優しいのだ」とか「褒めると手を抜くから褒めない方が伸びる」などの持論が邪魔して優しい対応が(非指示的に)できないというようなこともあります。そんなときはまず、その看護師が自分は指示的か非指示的のどちらの対応を取ることが多いのかを自己認識させることからスタートすることが大事です。

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