「ソフト」に否定してくる人、ネガティブ思考の人とのかかわり方
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勝手に期待値を上げてしまうことが「がっかり」を生む
もの静かにほほえみ、うなずきながらこちらの話をじっくりと聞いてくれる人って素敵ですよね。私は社会福祉士(MSW)や相談員さんにこうした特性をもった人が多いように感じていますが、皆さんはいかがでしょうか。
でもなかには、見た目の印象も「やわらか」で、話の聞き方も申し分ないのに、絶対にこちらの言い分を否定してくる人もいます。
「見た目もキツくて、話も聞かなさそうな人」に否定されるのはあまりびっくりしませんが、「見た目がソフトで、やさしそうな人」に全否定されると案外ショックなものです。
患者さんやご家族のなかにも、「うんうん」とじっくり説明を聞いてくれているから大丈夫だろうと思っていたのに、説明し終わった途端に「検査には同意できません」と言ってくる人がいたり、入院中は関係がよかったのに、退院時アンケートにたくさんクレームを書いたりする人もいます。じつは、「やさしそうな人だな」と、勝手にこちらが期待値を上げて相手を見てしまうことが、がっかりの原因だったりします。
ここでは、見た目の印象もよく、表情管理やペーシングもじょうずなのに相手を否定する人やネガティブ思考の人についての理解を深め、こうした患者さんやご家族、スタッフとどうかかわっていくのがよいか、
また、あなた自身がこうしたタイプの場合は、何をどう気をつければいいのかを考えてみることにします。
偏見や勘違いから発生する「ハロー効果」
必要以上に評価が下がる「ロス効果」
フランスで行われた大胆な実験をご紹介します。それは、280人の女性のプロフィール(顔写真、自己PR、経歴、趣味、結婚歴、家族、出身地、年齢など)を400人もの男性面接官に履歴書として提示し、面接官に女性のパーソナリティを想像して評定してもらうと、ほとんどの男性面接官が判断材料として重視した ものは「顔写真」。美人であるときは「彼女はお人好し だろう」「嘘をつけないタイプだ」という高評価をつける率が不美人よりも7倍も多く、不美人に対して「頭はよさそうだが、意地悪で計算高いタイプだ」という評価を大多数の男性面接官がしていたというもの(ちなみに顔写真を男性に変えて、女性面接官に変えて実験してみても出た結果は同じだったといいます)。
この実験で「美人は天真爛漫で、不美人は意地悪」と いうまったく根拠のない評価を『人は見た目によって下している』という結果が立証されました。このように印象形成の際に起きてしまう偏見や勘違いを「ハロー(後光)効果」と呼びます。
でも残念なことに、このハロー効果の賞味期限は数週間。ハロー効果で実際以上の高い評価を相手にしてしまった場合、期待値がやたらと上がっているので下がる率も大きく速いのだそう。これは「ロス効果」と呼ばれます。俗に言う「美人は3日で飽きる」というやつですね。
健康問題を抱え悩んでいる患者さんやご家族は、医療者に「やさしさ」や「人柄のよさ」を求めています。私はこれまでのコンサルティングの経験から医療の場面では、「見た目がソフトでやさしそう」な人にこの「ハロー効果」が起きるのではないかと思っています。
「表情管理」「ペーシング」ができる人は、あとは期待に応えられる内面をつくる
ある病院の受付にとても親切なAさんという人がい ました。外来の投書箱にはよくAさんへの感謝の手紙が入っていました。
でも不思議なことに、投書箱にはAさんに対するク レームもまた実名で入ることが多かったのです。「医療機器メーカーの営業の人と話しているとき、Aさんに笑顔がなかった」「電話で話しているときの表情が険しかった」など、ちょっと厳しすぎるのではないかというような指摘もAさんに対しては入ることが多く、それを読むAさん自身、落ち込むこともありました。
受付をまとめている主任が「きっとこの字は、よく外来に来る○○さんのものじゃないか」と思う投書に対して、患者さん本人に直接話を伺ったことがありました。患者さんは「Aさんのことを待合室で よく見ているが、今日の対応を見てとてもがっかりした」と話してくれたそうです。主任が「他の受付スタッフ に、気になる対応をする者はいませんか」と聞いても、その患者さんはAさん以外のスタッフは名前すら覚えていな かったというのです。ある意味、患者さんはAさんばかりに「注目」していたわけです。
どちらかというとかな 接遇のよいAさんに、なぜこうしたことが起きるのかと不思議でしたが、物腰のやわらかい親切なAさんだからこそ、患者さんの期待値は高まり、こんなふうになっていることがわかりました。
病棟での患者アンケートでも「この看護師なら聴いてくれるだろう」と思う人に悩みを打ち明けたのに親身になってもらえなかった。こんな記述のときには、よく看護師の実名が入っていることがあります。やさしそうに見える人や物腰のやわらかい対応をする看護師にはハロー効果で患者さんの期待値が高まり、それゆえにロス効果も大きいのではないか、私はそんなふうに思っています。
自身がこのタイプだという人は、まずは以前この連載でもご紹介した「表情管理」と「ペーシング」ができている自分は素晴らしいと認めてあげましょう(「表情管理」は2020年5月号、「ペーシング」は2020年7月号を ご参照ください)。期待している相手が期待に応えて くれないことは、相手を思いのほか傷つけることを念 頭におきながら、さらに患者さん、ご家族の期待に応 えられるような内面をつくっていくように心がけましょう。
否定の背景には、自分でも止められない「ネガティブ思考」が存在することがある
悲観的な意見の多い患者さん、スタッフのなかにも委員会やカンファレンスなどで後ろ向きな発言ばかりする人がよくいます。せっかく退院するのに再入院したときのことばかりを考えている患者さんや、最悪のケースを想定しすぎて手術に踏み切れない患者さんなどもいますね。
スタッフ間のカンファレンスでも、今から新しいことにチャレンジしていこうというときにネガティブな発言ばかりする人がいると、やる気が削がれます。私のところにコーチングを受けにくる人のなかにもネガ ティブ思考が過ぎる人もいます。こうした人に「ネガティブな思考をすることから何を得ていますか?」と 質問すると、「最悪なことを想定しておくと、最悪なことが起こっても乗り越えられると安心する」という答えが返ってきます。
「せっかく新しいことに挑戦しても失敗するんじゃないか」「自分の恐れていることが起こってしまうんじゃないか」と先読みして、不安や恐怖にかられる。「もし~になったら」というように、考えても答えが出ない 思考が頭の中でグルグル回って本人も止められずに苦 しい。苦しさのあまり「ネガティブな考え」を吐き出すことによって不安を軽減したり、周囲の人から「そんなこと起こらないよ」と否定してもらうことによって 安心を得たりしているのです。
未来は不確定要素が満載です。何事も必ずうまくい くという保証はありません。結局は「未来はつくっていくもの」であり、最後は「エイ!」と勇気を出して進んでいくしか答えは出ません。ネガティブな人はこの割り切りができていないのです。
否定からは何も生まれない。患者さんにも自分にも前向きな言葉がけを
でも、実際に進んでみると意外と心配していたよりもいろんなことを乗り越えていけたりもします。「案ずるより産むが易し」とはよくいったもので、人間は思ったより強いものです。
「もし再入院になったら……」とネガティブ思考が止まらずに悩んでいる患者さんには、「そのときだって、今みたいにちゃんと乗り越えていけますよ」と入院か ら退院に向けてさまざまなことを乗り越えてきた患者さん自身の強みに焦点を当てて自信が得られるような声かけをするようにしましょう(過去の成功体験に焦点を当てるというコーチングスキル)。
また、あなた自身がまわりの人たちにネガティブ思考を否定してもらい安心しているようなところがあるなら、それは周囲への「甘え」であると認識しましょう。そしてこの思考グセを手放すようにしましょう。不安がない人など存在しません。言わないだけで誰しも不安に押しつぶされそうになる自分と戦っているのです。 そしてまわりにネガティブ毒を撒き散らす代わりに、自分が自分に向かって「未来はつくっていくもの。大丈夫。私なら乗り越えられる」と自分に暗示をかけるようにしましょう。
言葉にはパワーがあります。携帯やパソコンの背景 画面にこの言葉を書いた写真などを貼り、努力しなくてもこの言葉が目に入ってくるようにするのがオススメです(ストラクチャー構造)。否定からは何も生まれ ません。まずは自分を勇気づけ、ネガティブな思考を手放すことから始めていきましょう。