医師とともに模索する 医師とのじょうずなコミュニケーション その1

先月号まで2回にわたり、地域や多職種の連携が必要となった現代にこそ身につけておきたい「看護師に必要なビジネス・マナー」についてお伝えしました。
今回は、共に働くスタッフ間の人間関係にスポットを当ててみます。
看護師なら誰でも患者さんやご家族にやさしく接したいもの。
でも、職場の人間関係がギスギスしていたり、無用なストレスを感じていたりする状況では、人にやさしく接する余裕はなかなかできませんよね。
スタッフ間の人間関係、接遇の悪さに悩んでいる方も多いことと思います。
そのなかでも何と言っても悩みのダントツ1位は「医師とのやりとり」ではないでしょうか。
かつて、私も数年間は看護師をしていましたが、勤務医の先生方とのやりとりにはいつも頭を抱えていました(今もかもしれません、笑)。
今回から数回にわたって、医師とのよりよい関係性を保つためのコミュニケーションについて、医師参加型で考えてみたいと思います。
対談や座談会を通して、医師側のご意見も参考にしながら、スタッフ間のコミュニケーションをよりよく保つ具体的な方法を検討します。第1回目は、福岡県北九州市にある医療法人真鶴会小倉第一病院の接遇委員長である石井義輝先生と医師の接遇について話し合ってみました。
石井先生は私がかかわらせていただいている小倉第一病院の接遇委員会の委員長を務めていらっしゃいます。
医師が接遇委員長に抜擢されるケースは少ないですが、石井先生は発足当初から委員長として委員会を牽引されてきました。
さあ、どんな意見が聞けるのでしょうか。
皆さんも石井先生と対話している感じで楽しんでリラックスして読んでくださいね。

医者の世界はパワハラが蔓延
接遇のよい医師は育ちにくい環境

石井先生、医師って何で接遇悪い人が多いんですか?

石井先生
石井先生
いきなり聞きにくいこと、はっきり聞いてくるねぇ(笑)。だって僕らが若いころは接遇がいい外科医なんてほとんど見たことないもんねぇ。

何でそうなっちゃうんですかねぇ。「医は仁術」じゃないですか。博愛の精神はどうしちゃったんですか、博愛は!

石井先生
石井先生
うーん。特に外科医なんかは「治してナンボ」ってとこあるからね。腕がいいと、どんなに接遇悪くても患者さんが「ありがとうございます」って頭を下げてくれちゃう。外科医ならどんなに難しい手術でも「絶対成功させてやる!」って気も強いしね。そしてうまくいくと「ほうら、どうだ!」にもなるし。当時はまわりの先輩や教授のなかにも、接遇がいい人はすごく少なかったから、そういう人をモデルにしていつしか自分もそうなるのかもねぇ。

なるほど。環境要因が大きいってわけですね。でも、看護師は自分のチーム医療の一員じゃないですか。なのに、何でわれわれをボロクソに言ったりするんですか。ドクハラですよ、名づけてドクターハラスメント!

石井先生
石井先生
さすがに今の若い医者はそうでもないでしょ?僕らの若いときは医者の世界っていったらもうすごいパワハラなのね。教授に逆らったりしようものなら、「この近辺では働けないようにしてやる!」って圧力かけられたりね
(笑)。日々、ストレスとパワハラな環境。
また、そこに「看護師さんを顎で使ったら一人前」って
いう先輩がいたりして、それ見て育ったりすると疑問を感じなくなったりするのかもね。

な、な、なんですって! 看護師を顎で使って一人前って(怒)。

石井先生
石井先生
僕はありがたいことに環境がよかったから、そんなこと言われなかった。だから接遇いいでしょ(笑)。それに僕は医者になりたてのころ、バリバリの病棟師長さんがいて、おむつ交換やら清拭やら一緒にさせられたんだよね(笑)。これからの医者はこういうのができないとダメだって。あの経験は今となっては本当にすごくよかった。看護師の事情もわかるようになったしね。チーム医療って自分たち(医師)だけじゃできないって痛感したし。

そんなパワハラな世界なんですね。虐待を受けると虐待してしまう的な感じなんですかねぇ。

石井先生
石井先生
そう考えて許してあげて(笑)。外科系なんて特にそうかもしれないけど、やっぱ「腕でしょ」ってのがあって。「へたにやさしい? ペコペコ? そういったのに逃げんなよ」的なところもあるかもしれない。そんなことより「腕みがけ」っていう……。

何か少しだけ理解できてきたような……。オペ室で働いていたとき、手術の助手をしていた先生がよく居眠りしていて、怒鳴られないように起こしてあげたのに、術者になった途端、「あれ出せ、これ出せ、何回も言わせんな!」なんていばるようになって、本当に頭にきたことありました。何回も助けてあげたのにって(笑)。

石井先生
石井先生
そりゃダメだね、恩は返さないと。でも、新人のころなんか自信もないのに責任だけは大きくなるから、まわりに気を遣っている余裕がまったくないんだよね。もう必死。そういうのもあるかもしれない。

本当のチーム医療ができるように
医師も看護師もわかり合える環境が必要

命を預かるのだから責任重大ですよね。そう思うと、医師のなかには医局に住んでいるんじゃないのって人も多いですもんね。当時は「どんだけ病院好きなの?」って陰口言っていましたけど、よく考えたら医者が少ないから勤務が大変なんですよね、きっと。働き方改革も叫ばれるようになりましたしね。

石井先生
石井先生
そうなのよ。医者になりたてのころなんてホントに給料も安いし、激務だし帰れないしで、それはそれは大変な世界なんだよ。僕らのころの研修医は「1日いくら×月
20日ちょっと」みたいな給料だったら、時給計算したらファストフードのバイトのほうが上だったりしたからねぇ。医者の労働環境ってホント、よくないんだよ。そして、身近にいる看護師くらいにはわかってほしいって甘えもあるのかな。「先生、大変ですね」とかさ。

うーん。看護師のころに、こういう話をちょっと聞いていたらよかったです。そしたらもう少し横暴な医者も許せたかも。でも石井先生は、接遇いいじゃないですか。医師が接遇委員会の委員長になるってまだまだ少数派ですよね。

石井先生
石井先生
これから、こんなふうに本当のチーム医療ができるように、医者も看護師もわかり合えるようにしていかなくちゃいけないと思う。僕らは看護師さんがいないと正直、困るし。ただ、世代ってやっぱりあるから、僕らくらいの世代から変えていかなきゃいけないと思う。医者の学んでいるカリキュラムも僕らのときとも違うしね。
でも「医者って医者の言うことしか聞かない、医者の
言うことも聞けない」ってとこあるのね。だから僕は、
接遇委員長を引き受けたワケですよ。患者さんはもち
ろんだけど、一緒に働くスタッフへの接遇も大切にし
て、本当の意味でもっともっとディスカッションして
チーム医療をやっていく時代なんだということを、僕
らで発信していけば変わってくるよ。あきらめずにが
んばりましょう。

そうですね、いい関係ができているところからまずは発信していくことでしょうかね。私はクリニック開業時の接遇トレーニングなどもよくお引き受けするのですが、開業される先生ってとっても親切で、接遇もいいんですよね。経営にもかかわってくるから真剣になれるんですかね、きっと。医師と患者さんのことを本音で話し合って、少しでもいい看護を提供したいって心から看護師は思っているので、今後ともいろんな方面で一緒に発信していってください。よろしくお願いします。

現場に出てもコミュニケーションスキルをみがき続けることがキーポイント

石井先生の本音トークが聞けたところで、あらためて考えてみると、若い世代の医師は石井先生のおっしゃるとおりで、コミュニケーションがとりやすい方が多いかもしれません。医学部の教育課程のカリキュラムも影響がありそうです。
また、現場に出てからどんな勉強をされているかも、大きくかかわってくると思います。SDMということを勉強していらっしゃる医師と話す機会がありましたが、やさしくてとても説明もわかりやすくてビックリしました。読者の皆さんのなかで、この分野を学んでいらっしゃる方には釈迦に説法かもしれませんが、少し説明させていただくと、SDMとは医師と患者さんが医学情報のほか、価値観や生活のことなど個人的・社会的な情報についても共有したうえで治療方針を話し合い、その最終決定を医師に任せるのではなく、患者さんがともに行うプロセスのことで日本語訳は「共同意思決定」。パターナリズムではなく、現代は医師にもコミュニケーション能力の高さが求められているのだと再確認しました。
私が看護師だった数十年前はインフォームド・コンセントなんてことが少し言われてきたくらいで、まだまだ患者さんにもやさしく接する医師は少数派だったように思います。そう考えると現代の医師は説明もうまいし、話を聞いて一緒に考えてくれるような人も増えてきたように思います。読者の皆さんが、「こういう勉強をしている医師は話を聞いてくれる」などの情報がありましたらぜひ、教えてくださいね。
ちなみに弊社TNサクセスコーチングの認定コーチをおもちの医師は3人ですが、皆さん、傾聴力が高く、コーチングもお得意です。ファシリテーション力(会議などがスムーズに進行、成果が上がるように支援すること)も抜群です。チームコーチングのスキルトレーニングを導入しているクリニックや病院のチーム力は、格段に違います。特にチームコーチングは共通言語ができるので、一体感が生まれ、目標を共有できるのでおすすめです。こう考えると、就職してから現場のコミュニケーションに必要なスキルの勉強を続けることがスタッフ間の交流をうまくいかせるコツなのかもしれません。
「うちの病院もうまくいっているよ、取材にきて!」というところはinfo@tn-succ.biz 奥山までご連絡くださいませ。

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【月刊】エキスパートナース2021年3月号「これからのナースに必要な力を伸ばす連載」より

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