熱い看護師が辞めない組織をつくるには◆1
ワンランクUPポイント
1、現状に甘えず頑張る「熱い看護師」は組織の現状を「ぬるま湯」 だと感じていることもある。
2、管理職は「熱い看護師」が「適温」に感じるような組織に変革 していくことが重要。
3、働く充実感と組織風土の関係性をはかり、業務改善に活用。
本連載でもたびたび取り上げてきた、やる気のある看設師がきちんと活躍できる組織風士のつくり方。
今回は、働く充実感と組織風士の関係性を「湯かげん」にたとえた研究を引用しながら、よい看護師が辞めない職場づくりの方策を解説します。
目次
熱い看護師とはどんな人のことか
ここで言う熱い看護師とは、「患者さんのためにもっとこうしてあげたい」と、寝る間も惜しんで「いい看護をしよう、医療の質を高めよう」と頑張る人のことです。
朝から急変でバタバタしているのに、午後にちょっとだけ時間ができると「あっ、○○さんの洗髪できそう」と、すぐに患者さんのところに行くような人。ようやくもたったリフレッシュ休暇も学会参加。いつも「患者さんのこと」を中心に考える看護師の鏡のような人がよくいます。
私もかつて病院に勤務す看護師でしたが、こんな仏さまのような先輩が何人かいました。私は今でもコンサルティング先でそんな熱い看護師にかかわれます。その方々の言霊が琴線に触れ「よし、私も頑張ろう」と、こちらもエネルギーをたくさんもらえるので本当にありがたいです。
倫理観が高く、現状に甘えず「もっとやらなきゃ」と思う熱い人は、所属する組織の現状を「ぬるま湯」と感じているかもしれません。
組織風土と働く充実感の関係
図は高橋伸夫氏の「ぬるま湯体質の研究が出来るまで」という論文で発表されている「湯かげん図」です。高橋氏は組織の風土と個人の働くことへの充実感の関係性を「湯かげん」(お風呂に入ったときの肌感覚)で説明しています。
高橋氏は、仕事に燃えて現状を打破し、いろいろなことを改革していこうとする気持ちの強い人(熱い人)とは「体温が高い人」のことを言い、図の縦軸の上のほうに位置するとしています。体温の高い人(熱い人)にとっては、それに見合った組織の温度(システム温)がないとき「ぬるま湯」に感じます(C社)
逆に「体温が低い人」(仕事に燃えておらず給料分しか働きたくないという「冷たい人」)が、温度の低い組織(変化が少ない組織)にいるときは「水風呂」に入っている状態と言えます。(F社)。
働いている人が熱くない(仕事に燃えていないし。現状を打破しようともしない)のに組織の温度だけが高い状態(異動は昇進、新規プロジェクトが多く新人、中途採用も多く入ってくるなど変化性向が大きい)は「熱湯」ゾーン。ここに当てはまるB社は、高離職率でそのままでは組織の低迷と崩壊をもたらすと言っています。
I社は人の体温と組織の温度の両者が高いため「適温」とされ、人も組織も変化性向が大きく、一体となって変化することを指向したゾーンとしています。
熱い看護師の「本当はよい考え」
「水風呂」に位置する冷たい看護師がつぶす
感染委員会に所属する熱い看護師が「最新の感染対策を取り入れよう」と言ったり、業務改善に燃えている看護師が「接遇改善のためのアンケートを聴取しよう」と提案したりすることを、水風呂に浸かる冷たい看護師は、現状を何も変えたくないので「今まで通り」を主張します。
「これまでだってこのやり方で感染は起きていない。なんでやり方を変えなきゃならないの?」「アンケートなんて提案してる人が接遇委員会で勝手に取ればいいでしょ」が本音です。
冷たい看護師の比率が高い病棟なら、「こんなに忙しいのに何を言っているの」と一瞬で熱い看護師の意見はたたきつぶされることでしょう。そして、熱い看護師は「本当の看護」がやれる病院を求めて去っていきます。
こうして「いい人が辞めていく現象」は起こります。
やはりここで、「忙しいけれど患者さんのためにやっていきましょう」と管理職が組織の温度を上げる(変化を起こす)ことが重要なのです。組織の温度を上げる(改善する、アンケートを取る)ことができれば、熱い看護師が適温に感じる組織をつくれます。
変化を嫌がる冷たい看護師は、最初にうちは辞めていきますが、冷たい看護師の中で怖くて意見を言えなかった「ホントは熱い看護師」が、やりがいを感じる(適温になる)ようになり、次第によい組織にいなっていきます。
冷たい看護師の主張ばかり擁護し、変化を起こさずにいれば、冷たい看護師率はどんどん上がっていきます。それはなぜか。
「出ると寒いし」と、ぬるい風呂に長く浸かっているとどうなるでしょうか。確実に風呂の湯の温度は下がり、いつの間にか水風呂になって、入っている人の体温も下がり冷たくなっていきますね。
「どうせ言っても変わらない」と、熱い看護師は意見を言うことを諦め、いつしか給料分の仕事しかしない冷たい人になっていきます。冷たい看護師のつくった水風呂状態の組織風土で生き残るには、自分も冷たくなるしかないからです。
体温とシステム温はどうはかるのか
図表2は研究のために高橋氏の作成した質問文です。システム温を問う質問は、チャレンジする風土があるかどうか、高い業績を上げたものが昇進するような変化があるかどうか、個性を発揮するより組織風土に染まることを求められるかどうかなど組織の変化性向を聞いています。
体温を問う質問は、問題意識を持って改善をしているか、従来のやり方・先例にとらわれない仕事をしているかどうかなど「どのくらい仕事に燃えて改善しながら進んでいるか」をはかっています。
私は教育コンサルティングを行う中で、高橋氏の作成したこの質問を基に各部署でアンケート調査を実施しています(アンケートは携帯電話からも回答できるように作成。無料で公開していますので興味がある方お問い合わせください。)
アンケートの結果は下記のようなフィードバックに活用しています。
例えば「4階病棟は、仕事が大変でついていけない、辞めたいと思っている(熱湯ゾーンにいる)人が5人で対処が必要。2階病棟は、スタッフは忙しい忙しいというけれど『ぬるま湯』だと感じている人が7人もいる。だから看護研究を推進しても大丈夫でしょう」などです。経営学の専門家である高橋氏のこの研究は精度が高く、組織の現状を把握するのにとても役立っています。
ある組織で聴取したアンケートでは、病棟のケアワーカーが「ぬるま湯」ゾーンにいるという結果で出ました。看護助手業務もこなすケアワーカーの仕事はとても忙しいなずなのに、なぜ結果が「ぬるま湯」なのか、私は不思議に思いました。
ケアワーカーと面談し思いを聞くと、「レクリエーションだ少ないこの組織の仕事は『ぬるい』。本当はもっと多くレクリエーションをしなければ介護とは言えない。看護助手業務は本来の仕事ではない。看護助手とは呼ばれたくない。ケアワーカーと呼んでほしい」という答えが返ってきました。
この言葉で、利用者に寄り添う本当の介護がしたいという気持ちが強い「熱い人」なのだとわかりました。すぐに私はレクリエーションを増やすことを提案させてもらい、今では週に1度のレクリエーションは当たり前というふうに風土が変わりました。次に取ったアンケートでは自分の組織は「ぬるま湯」だと答える人は激減し「適温」が増えました。
このような組織の課題を解決することにこの研究および質問は活用できます。適切に組織の温度を上げていき、よりよい仕事をしようとする質の高い人が充実感を覚えて働ける環境を用意したいものです。