熱い看護師が辞めない組織をつくるには◆2

ワンランクUPポイント
1、忙しすぎる「熱湯風呂」状態の組織から、スタッフを救うのが 管理者に必要なマネジメント。
2、スタッフの自組織の捉え方を知ることが離職防止につながる。
3、組織に不満を持つ人に「何があれぱ自組織を他の人に勧められるか」を聞けぱ、改善策を引き出せる。

組織風士と個人の働くことへの充実感の関係性を湯かげんで説明した高橋伸夫氏の『ぬるま湯的体質の研究が出来るまで」の論文を引用しながら、やる気のある熱い看護師が辞めない組織のつくり方を考えます。

今回は「湯かげん図」の中でも、「熱湯」ゾーンの着目。ここに当てはまるのは、働いている人の「体温」が低い(仕事に燃えてもいないし、現状を打破しようともしない)のに、組織の「システム温」だけが高い(異動や昇進、新規プロジェクトが多く新人、中途採用も多く入ってくるなど変化性向が大きい)状態です。

高橋氏は「熱湯」ゾーンは高離職率で、そのままでは組織の低迷と崩壊をもたらすと指摘しています。

「熱湯」組織の人には長居できない

高橋氏の論文に出てくる金融機関P社(経営破綻した離職率が高い「熱湯」組織)の解析データを、病院でも同じようなことが起こるのではないかという視点でひも解いてみたいと思います。

図表1は高橋氏がP社の経営側から調査を依頼され聴取したアンケート結果を基にした湯かげん図です。P社従業員402人の「ぬるま湯」比率は48.0%で他者より低く(「ぬるま湯」比率5割を切る会社はごく少数)、体温は平均的なのに、システム温だけが高いという結果が出ました。

高橋氏はこの図表を見て「体温が高いわけでもないのに、システム温だけが高いために(中略)従業員の『熱い』という悲鳴が聞こえてきそうな気がした」と述べています。

また、P社従業員のうち「現在の職務に満足感を感じる」と答えた人は33.3%と低く、「チャンスがあれば転職または独立したいと思う」と答えた人は78.6%に上ったとのことです。

調査当時のP社は金融業界では有名で、経営者にはカリスマ性もあり、マスコミでも注目されていたといいます。しかい、高橋氏のデータは、自組織が熱湯に入っているのに近い状態だと感じている従業員が多いということを示していました。

実際、飛ぶ鳥を落とす勢いだったP社は2000年に経営破綻しました。

高橋氏がP社の人事に聞いたところによると、P社は猛烈に忙しく、毎年新卒を採用しても同じ人数だけ辞めていくので職員が増えない状況とのことでした。

P社の経営者は当初「バリバリの優良企業のスピードと体質についてこられないヤツが辞めていくのだ。新陳代謝が遅いことはよいことだ」と思われていたようですが、そのうち「こいつはものになりそうだ」と期待するいい中堅社員が辞めていくようになったので不安になり、高橋氏に調査を依頼したという背景があったそうです。

「この病院は忙しすぎる」と感じた看護師が辞めていく

病院でもP社と同じことが起きているのではないでしょうか。
ただでさえ多すぎる委員会のほかに、どんどん立ち上がる新規プロジェクト。専門職であればやらなければいけない看護研究。

それでなくとも法令遵守ギリギリの人員でまわしている現場は、スタッフが体調不良で休んだりしようものなら大変です。そんな中、委員会やプロジェクトに人が取られれば現場は猛烈に忙しく、座って記録する間もないほどになります。

それでも患者さんと深くかかわり、やり取りができ、まさしく「看護」をやっている充実感が持てれば看護師は辞めないものです。
「ベッド再度以外の業務に追われればかりでは」病院の湯を「熱い」と感じ出ていってしまう看護師があとを絶たない。とても残念な状況になっていると感じます。

「熱湯」組織」からスタッフを救うのが管理職

人員不足による長時間労働や、十分な休日が取れない環境によって、「熱い」と感じている人が多いなら、早急に対処しなければ、退職が増えるばかりでなく、ストレス性の疾患に陥るスタッフが出てきます。

湯かげん図の「熱湯」ゾーンに人が少ないのは文字通り「熱湯」だからです。熱湯にそのまま浸かると全身火傷で死んでしまいますから、人はすぐに湯から飛び出るでしょう。組織も同じで出ない(退職)と死んでしまうのです。

「熱湯」と感じているスタッフに「今、辞められたら本当に困る。病棟が回らない。なんとかあと3ヶ月待ってくれない?」と引き止めているうちに、その人がストレス性疾患で休職になり、結局もっと人がいなくなった。

こんなふうにならないように管理職の立場にある方は経営層に訴え、「人を増やすこと」を約束してもらい、スタッフを「熱湯風呂」から救う必要があります。

それこそが管理職の外せない仕事で、管理職にしかできないマネジメントです。

スタッフが自組織をどう感じているかを分析する

図表2は、私が作成した「『ぬるま湯診断』と『NPSを使った職員満足度調査』と『上司のリーダーシップ』傾向特設アンケート」よる簡易職員満足度調査です。熱い看護師が辞めない組織をつくるには◆1でも自分の体温が高いのか低いのか、自組織のシステム温は高いのか低いかを調査する高橋氏もの「体感温度測定尺度」をご紹介しました。

私はその要素を、NPSを測る質問も入れておきました。このアンケートは無料で公開していますので、ぜひ、ご自身の組織がどうであるか知りたいという方は測定してみてほしいと思います(集団で測定し、組織のコンサルティング。スタッフが自分の所属している組織を他の人に勧めたいと思っているかどうか、そしてその組織の温度をどう感じているのか(所属する組織を「熱い」と感じていれば離職が多くなります)を知り、対策を取ることがスタッフの離職を食い止めることにつながるからです。

「何があれば勧められるか」を聞くのがポイント

図表2の1つ目の質問に「勧める」と答えた人は、自組織に満足している人ですので、2つ目の解答欄に記述する勧める理由は、組織のよい評価として受け取れるでしょう。1つ目の質問に「勧められない」と答えた人は、3つ目の解答欄に「何があったら勧められるか」を記述します。

これはそのまま組織の改善点になりますから、このニーズを満たすように可能なものから改善していけばスタッフの満足度は上がっていきます。

3つ目質問のポイントは、「なぜこの組織を勧められないか」とという理由ではなく「何があれば勧められるか」を聞いているところです。

組織に満足していない人に「勧められない理由」を聞いてしまうと「文句や不満ばかり」を聴取することになります。ですから、否定文ではなく肯定文で聞くことが大切です。

文句や不満を書くのは簡単です。でも、「何があれば勧められるか」を書くということは組織の「改善点」を考えることになり、結構、頭を使います。

いつの間にか「勧められない組織」についてしっかり考えるようにリードすることができます。

熱い看護師が辞めない組織をつくるには◆1では体温が高いスタッフ(看護に燃えている熱い看護師)組織を「ぬるま湯」だと感じるときにどんな改善をすればよいかを紹介しました。

今回は、熱湯ゾーンに近いスタッフが多く位置する組織は、どのようなことが必要かを分析し、早急に対処していかなければどんどん人が辞めていくということをお伝えしました。例に上げたP社は、高橋氏が調査を終えたころにはすでに経営破綻が起きてしまいました。P社のような憂き目に合わないためにも、現状分析が必要だと思います。

高橋氏の研究やアンケート調査がその分析の一助になれば幸いです。

 

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