定期的な組織診断で、課題とその改善策を的確に把握

ワンランクUPポイント
1、自組織を「ぬるま湯」と感じている熱い人が多い場合には、組織に変化を起こすことが必要。
2、NPS (簡易職員満足度調査)を用いて組織の課題と改善策を明らかにできる。
3、スタッフの満足度調査は短いスパンで継続的に実施することが大事。

熱い看護師が辞めない組織をつくるには◆1 熱い看護師が辞めない組織をつくるには◆2 「『水風呂』状態の組織の温度を上げて熱いスタッフの満足度を高める方法」や「自組織をまだまだぬるいと感じるような熱い看護師を辞めさせないためにはどんなことが必要か」ということを高橋伸夫氏の論文ぬるま湯的体質の研究ができるまで』を基に考察してきました。

今回はその記事を見て「スタッフは、自分の所属する組織をぬるま湯』と感じているのかどうか。そして、そもそも自分の所属する組織を患者さんやほかの看護師に「勧めたい」と思っているのかどうかを知りたくて、「『ぬるま湯診断とNPSを使った職員満足度凋査』と『上司のリーダーシッ プ』傾向特設アンケート」(以下:組織診断)を実施したという熱血師長さん」の事例をご紹介しながら、部署の課題を把握する必要性をお伝えしたいと思います。

スタッフの休職や人事異動が続く病棟での挑戦

熱血師長さんとは、青森市で唯一の緩和ケア病棟を切り盛りする青森慈恵会病院の田澤康子総括師長さんです。

元々8年半の緩和ケア病棟での勤務経験があった田澤師長さんですが、管理職として着任後、「大切なことを自分の言葉でチームに伝えられる自分でありたい」との思いから、緩和ケア認定看護師教育課程へ。

横山望副師長らに病棟を託し、家族ともしばし離れて猛勉強をしてこられました。しかし、田澤師長が不在の間に病棟では、激務からのスタッフの退職や休職が続き、新しく配属されたスタッフへの教育もままならない状況が生じていました。

現場に復帰した田澤師長は、スタッフが疲弊し、やりがいや楽しさを感じる余裕がなくなっいる様子を目の当たりにしました。

緩和ケア病棟の立ち上げから勤めていらした小枝淳一副院長が新しいチャレンジのため退職。(その後、佐藤裕美医師と丹野雅彦院長、興津勝大副院長がの新体制を牽引されています。)現場の不安が大きくなっていたこともあり、田澤師長は「どこ見て何に取り組むべきか現状を知るために」組織診断にチャレンジしました。

そんな中、私の管理職研修の指導案作成で最高得点を叩き出した外来主任の澤田佳菜絵さんが緩和ケアに異動となりました。今後ぐんぐん変わっていこうとしている緩和ケア病棟にとって絶妙なタイミングとなりました。

では、田澤師長が自身の緩和ケア病棟で実施した緩和ケア病棟で実施した組織診断を基に、結果から読み取れること、そして今後どんな改善が必要かを考えてみます。

組織診断結果

同病院緩和ケア病棟スタッフは「職務に満足感と充実感を感じているかどうか」「自分の仕事に充実感を感じていますか」のの問いに「はい」と答えている人が半数以上である一方、「チャンスがあれば転職、独立したいと思いますか」の問いにも半数以上の人が「はい」と答えています。

また、「上司がこうだと言えば自分に反対意見があっても従います」の問いには61.9%の人が「いいえ」。「職場の雰囲気をぬるま湯だと思いますか」の問いには66.6%の人が「はい」で、「仕事上の個人の業績、貢献の高い人は昇進、昇格、昇給を果たしていますか」には61.9%の人が「いいえ」と答えています。

さらに、「個性を発揮するより職場風土に染まることを求められますか」にも57.1%の人が「はい」と答えていることに注目したいと思います。

これは、職務に満足と充実感を感じている人の中には、所属する組織は「ぬるま湯だ」と感じていて、「個性を発揮するより職場風土に染まることを求められている」と思っている人がいると示しています。

でも同時に、「時には上司にもしっかりと反対意見を言わなければならない」と思っているとも読み取れます。またこうした人が「チャンスがあれば転職、独立したい」と考えているところに、自組織では個人の業績や貢献度の高い人がしっかり評価されないということ感じる出来事が起きれば、「退職」の二文字が頭をよぎるということもあるのではないでしょうか。

「ぬるま湯」状態の組織は変化を起こし「適温」に

熱い看護師が辞めない組織をつくるには◆2 でもお伝えしましたが、自分の所属する組織を体温が高い人(仕事に燃えていて改善意識の強い人)が「ぬるい」と感じるのは、「熱い」(もうお湯からでたいと思うこと)と感じるより「よいこと」です。

自組織を「熱い」と感じたら出ていく(退職する)しかないので「ぬるい」と感じるほうがいいのですが、「ぬるい」ままのお湯を放置すると、いつかは湯の温度が下がって「水風呂」(給料分しか働かない人が多い組織)になってしまいます。

だから、体温の高い熱い人が多く、所属する組織を「ぬるま湯」と感じている場合には、組織温度(システム温)を上げて「適温」にする必要があります。

組織温度とは、具体的にいうと「組織の変化」度合を表す指標のことです。高橋氏の研究によれば、新人がバンバン入ってきて変化が大きく、さまざまな新しい取り組みが行われているような状態は「組織温が高い」といい、その逆で組織に変化が少ない状態を「組織温が低い」と言います。

今回、組織診断にチャレンジした同院ケア病棟のスタッフは、仕事に満足感と充実感を持っていて、組織をまだまだ「ぬるま湯」と感じている熱いスタッフが多かったので、組織の温度を上げる取り組みが「働きがい」をうむことにつながります。

まさに田澤師長の組織診断は「組織に変化を起こす」ことが必要な絶妙なタイミングの実施となったと私は思います。

組織の課題を把握し、具体的にどう改善するか

組織の課題を把握するには、私の作成した組織診断に組み入れているNPS(簡易満足度調査)の結果を生かすと簡単かと思います。

組織診断には「貴方の家族や友人に自分の所属する病院や施設への受診をどのくらい勧めますか」を11段階で評価する評価する項目を設けています。

組織の推奨度=満足度として数値化することで、「次回は満足度を2段階あげよう」と目標を立案しやすくなります。

次に「勧める」と回答した方には、「どのような点において勧められますか」と尋ねてみます。その回答は組織のよいところ、つまり「強み」ですから維持していくように努めればいいですし、スタッフを褒めるポイントとなります。

「勧めない」と回答した方には、「何があれば勧められるか」を尋ねます。その回答は具体的な改善点として受け止め、可能なものから解決をはかっていけばよいでしょう。

皆さんが「自分の病棟で働くスタッフの満足度」を調査したいと思ったなら、あらかじめスタッフに「組織」を「病棟」と置き換えて答えてほしいと話しておけば、これを自分の病棟の職員満足度調査として活用することができます。

NPSは8点以上がその組織のファンという捉え方をしており、中心傾向の強い日本においては少々、辛口の評価基準です。

職員満足度調査結果

田澤師長はこの職員満足度を実施し、「一緒に働こうと勧める理由」と、勧められないと回答した者には「なにがあれば勧められるか」を確認しました。

緩和ケアスタッフ「やりがいがあるから」「生死に関わる部署で自分を見つめ直せる機会がもらえるから」「働くスタッフが自部署で一緒に働こうと勧める理由は「やりがいがあるから」「生死にかかわる部署で自分を見つめ直せる機会がもらえるから」「働くスタッフが一生懸命だから」というものでした。

これらの記述により、同院緩和ケア病棟が現在、「働きがい」のある部署だということがうかがえます。また、回答が「8点以下」のスタッフの「何ががあったら勧められるか」の答えも改善点と捉え、可能なものから解決していくように動けば、数カ月後にはさらに職員満足度は高まります。

ポイントは、今のところあまり「自部署で働こう」と人に勧められないと回答した者に対して、がっかりしすぎないことです。人間は弱いものですから、どうしてもマイナスな意見に傷ついてしまい、本質を見失ってしまいがちです。

期待値が高ければ、その分評価は厳しくなりやすいものだというふうに捉えて、改善に気持ちを持っていくことが重要あ「あり方」だと思います。

職員満足度調査は継続的な実施が重要

職員満足度調査等は、まずは「実施すること」そして「継続すること」が何よりも大事です。看護師の離職率は低くはありません。ですから、5年に1度実施する職員満足度調査などはほとんど意味をなしません。

部署の課題を把握し改善をはかりながら3ヶ月後、半年後とスタッフの満足度を聴取していくからこそ、自身の取り組みや工夫がよかったのかどうかがわかります。その結果と向き合いながら、よきものは維持し、改善すべきものは解決をすることが重要です。

ダイエットにチャレンジしようとするとき、まずは現在の体重を知らなければ、数カ月後「痩せたのかどうか」を確認することはできませんし、妥当な目標も立てられません。

聞けば当然のことのようですが、ダイエットはしたいけれど、現状に向き合うのが怖くて「体重計に乗らない人」は実は結構います。

組織診断に置き換えると「スタッフの本音を聞くのが怖くて調査なんてできない」とい状態です。しかし、院内には改善委員会なるものがあり病棟からも委員を出していたりします。であれば、委員会でめざす改善目標は妥当なのか、結果が出ているのか、どこまで改善すれば達成できたとするのか、結果は出ているのか、どこまで改善すれば達成出来たとするのか、はたまたそれは自部署の改善にどれだけ寄与しているのかを検証しなければいけないと思います。

その前提としてまずは、自組織のスタッフの満足度と解決してほしいと望んでいる課題が何かを把握しておく必要があります。その意味でも今回の田澤師長の一歩を踏み出す姿勢は素晴らしいといえるのではないでしょうか。

TNサクセスコーチング Magazine

メルマガ登録する

関連記事一覧