座談会「燃えるチーム」のつくり方 前編

日本看護協会出版会「看護」連載「相手も自分も責めないコミュニケーション術」では現在進行形でお伝えする「燃えるチーム」のつくり方1現在進行形でお伝えする「燃えるチーム」のつくり方22回わたりにをお届けしました。

今回は特別編として、組織内・地域内で多職種が参加する燃えるチームをつくりあげ、在宅医療に貢献する2人の医師をゲストに迎え、その理念や工夫について掘り下げました。

参加者:高瀬 義昌(医療法人至高会 たかせクリニック理事長)
佐々木 淳(医療法人社団悠翔会 理事長・診療部長)
司 会:奥山 美奈(看護師・TNサクセス・コーチング株式会社代表取締役)

価値観・ビジョンの共有

私は現在、訪問看護ステーション開設をめざし、多職種連携を勉強中です。今回は、組織内でも地域でも多職種連携を実践されている第一人者のお二方に、その理念や工夫などを伺いたいと思っております。
奥山
奥山
高瀬先生
高瀬先生
私は地域包括ケアと言われる以前から小児科医をやっていまして、当時、限られた資源の中で診ていくには家族療法が大切だと思いアメリカに勉強に行きました。
高瀬先生
高瀬先生
そのとき家族療法のスーパーバイザーから、病院の中のドクター・ナース・コワーカーのチーム、在宅医療のドクター・ナース・コワーカーのチーム、それ以外のチーム、家庭、これらが水平面に並んでうまく回らないと在宅医療は実現できないと言われて、ガーンと頭をぶん殴られたようでした。
高瀬先生
高瀬先生
ドクターもチームの一員で、水平性・中立性・公平性が保たれているのはすごく大切なこと。
高瀬先生
高瀬先生
また、必ずしもドクターはリーダーでなくてもよく、チームビルディングがわかる人間がリーダーのほうがいいんだというのはそのとき学びました。
高瀬先生
高瀬先生
だから、自分のクリニックでもできるだけ指示的にならないようにして、チームでやっていくことの重要性を自分たちで理解し実践できるようなチームにしたいなと思っています。
うまく連携するには、指示的ではなく意見をくみ上げることが大切という理解でよろしいでしょうか。
奥山
奥山
高瀬先生
高瀬先生
スタッフ全員が真剣に取り組み、内在化されている思いがきちんとチームの中で顕在化してくることが理想です。
佐々木先生も普段から工夫されていらっしゃることをお聞かせいただけますでしょうか。
奥山
奥山
佐々木先生
佐々木先生
ベースに共通の価値観やビジョンの共有がどうしても必要だと思っています。どんなに腕がよくて人柄よくても、めざしている医療の方向性が違ったら一緒に仕事ができないので。
佐々木先生
佐々木先生
そのためにミーティングやグループワークもやっていますが、それ以前に採用の段階で価値観やビジョンが共有できるかをまず確認する。それが共有できていれば専門職として成熟していなくても一緒に勉強していけばいい。
佐々木先生
佐々木先生
目の前で起こったことにどう対処するかというとき、価値観やビジョンが共有できていれば自ずと取るべき選択は見えてきます。
佐々木先生
佐々木先生
逆に「何であなたそっち選ぶの?」という人がチームの中で出てくると協働ができないですね。
佐々木先生
佐々木先生
特にクリニックの場合、多職種は医師の仕事をサポートし一緒に診療するためにいるので、その根っこである医師が組織と違う方向を向いていると他のスタッフは、何をやっているのかわからなくなって辞めてしまいます。
佐々木先生
佐々木先生
また、サポートと言っても医師の指示に従う下請けではやりがいを感じられません。
佐々木先生
佐々木先生
自分たちの仕事が患者さんに対するかけがえのないもので、自分自身の頭で考えて動いたことで診療の完成度が上がっていると実感できる状況をつくることが必要です。
佐々木先生
佐々木先生
ミーティングもただ仲良くなるためというよりは、チームのビジョンに近づくために自分たちはどうあるべきかを考える場です。
佐々木先生
佐々木先生
その中では、自分の生活の中での優先順位、例えば「私は定時まで帰りたい」とか、そういうことをきちんと言うことができ、スタッフ一人ひとりが個として尊重されることが大切です。
佐々木先生
佐々木先生
ただ、それはチームが価値観やビジョンを共有していて患者さんの利益を最優先に行動ができるというベースラインがあることが前提です。
佐々木先生
佐々木先生
悠翔会は、診療所が15あるので、法人全体がバラバラにならないためにもこれが必要です。
高瀬先生
高瀬先生
大変だよね、数が多いから。
佐々木先生
佐々木先生
同じ方向を向くために、僕が1週間に1回ずつ各クリニックに行くなんてことはできないので、各クリニックのコアとなる方に価値観やビジョンをきちんと言葉で理解してもらい、それをメンバー全員で共有してもらいます。
佐々木先生
佐々木先生
コアとなるのは、各クリニックの院長や常勤スタッフです。医師だからといってリーダーシップが上手に発揮できるわけではないので。
悠翔会の理念を聞かせていただいてよろしいですか。
奥山
奥山
佐々木先生
佐々木先生
基本理念は、「かかわったすべての人を幸せに」というものです。
佐々木先生
佐々木先生
医療機関だから患者さんを幸せにするのは当然ですけど、患者さんを幸せにしようと思うと一緒に暮らしているご家族に幸せを感じてもらえないといけない。
佐々木先生
佐々木先生
また一緒にサポートしているスタッフや、患者さんをご紹介いただく事業所や病院にも悠翔会に仕事を頼んでよかったと思ってもらえるようなことをやっていかないといけないと思うんですね。
かかわったすべての人を、というのがいいですね。私は臨床看護師としては5年くらいの経験しかないのですが、当時の勤務医は指示的で、一緒に患者さんをよくするという感じになれなかった。
奥山
奥山
佐々木先生のところだったら私も働けるかなとか思いました。
奥山
奥山
ところで、採用後にすごく指示的だとわかった医師には、先生が指導されるのでしょうか。
奥山
奥山
佐々木先生
佐々木先生
若い医師なら可能性はあるかもしれませんが、基本的に医師は変わらないですね。
佐々木先生
佐々木先生
そういった方を長く留めるとスタッフが辞め患者さんに逃げられてしまうので、傷が浅いうちにお別れします。
佐々木先生
佐々木先生
以前は、背に腹は替えられないと採用したこともあったのですが、結局後が大変だとわかったので、今はじっくり腰を据えていい人が来るのを待つようにしています。
看護師から医師に対する苦情が出たときはどうしますか。
奥山
奥山
佐々木先生
佐々木先生
最初は医師本人から話を聞きます。看護師さんたちの表現もバイアスがかかっていることもあるので。
佐々木先生
佐々木先生
その結果、客観的にみて、やはりちょっとずれているんじゃないかと感じたら、それをフィードバックします。やり方を知らないだけということもあるので。
佐々木先生
佐々木先生
ただ根本からずれているなら、お互いに苦痛だと思うのでお別れします。でも2年前に1人辞めてもらったのが最後です。採用の際の姿勢を変えたので。
高瀬先生
高瀬先生
経験を積むとだんだんと選球眼がよくなってくるというのもあるでしょうね。
佐々木先生
佐々木先生
10人面接して1人取るかどうかです。
高瀬先生
高瀬先生
結構厳しい。
医師が多くなれば患者さんは増やせて、法人も大きくできるんですけど、患者を増やすことが目的ではなく理念の実現が目的なので、理念を体現できない人は採っても仕方がないですからね。

変わらない人が変わる環境

ビジョンや価値観は共有できているのにコミュニケーションスキルがないという人もいると思うんですね。
奥山
奥山
看護師さんに多いのは、熱い思いを持っているからこそなんですが、患者さんによりよい生活をしてもらいたい、だから間違っていることは正さなきゃ、みたいな。周りから見ると、いい人なんだけど、当たりが強いよね、うまく会話できないよね、みたいな方。
奥山
奥山
佐々木先生
佐々木先生
各院長には、やらないと処罰するとか、やったら褒美を与えるとか、人を外からの力で変えようとするな、ということを外部研修で学んでもらいます。
佐々木先生
佐々木先生
人は変えられないことを理解した上で変わりたいと思える環境をどうつくるか、つまり変われるのはあなただけだよという研修です。
佐々木先生
佐々木先生
後は採用のときにもコミュニケーションスキルを重視しています。
外部研修をしているものとしては、どうしたら進んで研修を受けてもらえるかが課題です。なんで私だけこんな研修を受けなければいけないの、という不満はでませんか。
奥山
奥山
佐々木先生
佐々木先生
あなたイマイチだから研修受けにいきなさいと言われれば誰でもいい気はしないから数字を見てもらうようにしています。
佐々木先生
佐々木先生
医師の場合は、受け持ち患者さんの要介護分布、がん患者さんの割合、どれぐらい急変し、どれぐらい入院しているか、電子カルテだからリアルタイムに出るんです。
佐々木先生
佐々木先生
急変の割合が高くて救急車呼んでいるというデータを見ると、もしかしたら予測的なレスキューオーダーが出せていないんじゃないかとか自分で考える。
佐々木先生
佐々木先生
これは院長も同様で、離職率、総残業時間、患者数に対する残業時間を法人全体の平均と比較してもらい、問題意識を持ってもらう。変わらなきゃと思っている人に研修受けてもらわないと意味がないんです。
定量的な指標以外の評価はどうしていますか。
奥山
奥山
佐々木先生
佐々木先生
患者さん、職員からの360度評価のフィードバックもしています。
高瀬先生
高瀬先生
ただ360度評価はある程度規模がないとできないよね。
佐々木先生
佐々木先生
小さいチームだと一人が極端な評価を付けると、わかっちゃう。わからないようにするのはすごく大事ですね。
高瀬先生
高瀬先生
悠翔会くらいの規模になるときちんとした評価軸を持つことができるから、ある意味やりやすい。
佐々木先生
佐々木先生
明確な軸がないと求心力を維持することはできないし、逆にみんなで仕事をする意味がない。めざす方向性が別なんだったら別々にやればいいんですよね。

関連記事一覧