奥山美奈対談(前編)【学生の力をぐんぐん引き出す「教師力」を養おう】
※看護展望 2015-472 Vol.40 no.5掲載、ブログにするにあたりメヂカルフレンド社より許可を頂いております。
今回は京北中学校・高等学校の校長などを歴任し、
2012年度には東京都より教育功労者の表彰を受けられた東洋大学の川合正先生と
「学生のやる気を引き出す教師のかかわり方」に関して考えていきます。
特に現在、障害児教育に力を入れていらっしゃる川合先生に、看護教員の間でも悩みの一つとなっている
発達障害の学生とのかかわり方に関する指導のヒントを中心にお話をうかがい、
教員と学生のよりよいコミュニケーションの形を探っていきたいと思います。
目次
学生の邪魔をしない教育
対話力、コミュニケーション研究の原点はある学生からの”まさか”の手紙
その原動力となっているものは何でしょうか。
コミュニケーションのなかでも特に僕は対話が大切だと思っているので、教師や親や学生の対話力を育てるような研修をしています。
原動力はというと、10年後、20年後の日本が危ないという危機感と、親や教師は学生の伸びる力を「邪魔しないで」という思いからかな。
ドキッとしますね。
学生って可能性をたくさんもっているから、教員側が邪魔さえしなければどんどん伸びるんです。
でも日本人はまじめな人が多いから「~しなければならない」とか「~すべき」だとか言って学生のやる気をそいでしまう。
そしてそれに気づいていない教員が多い。
だから教員の指導を急がないとと思って。
今、バリアフリー推進室という部署にも所属しているので「心のバリアフリー」を目指した活動もしています。
一昨年、障害児への差別をなくそうという国の動きが高まったこともあって、障害児教育、特に発達障害(自閉症、ADHD、LD等)の学生に対するよりよい対応を考える必要もあったので、その対応の研修会もしています。
現場はそれこそとってもお忙しかったと思うのですが、対話力とかコミュニケーションを研究しようというきっかけがあったのでしょうか。
新任のときから生徒指導部、すぐに部長に祭り上げられ鍛えられました。
今はそのやんちゃな彼らが様々な分野で活躍しているのですが、当時は本当に悪かった。
今思えばエネルギーの塊みたいな生徒たちだったのだと思います。
そういう生徒とのかかわりで、多くのことを学びました。
保護者とも勉強会をしたりして、子どもとの接し方で彼らの可能性はいくらでも伸びると思いましたね。
30代は教科の指導(国語)をがんばって一区切りもついた感じで自信満々で過ごしていました。
その子がわかるようにかみ砕いて教えたり、仲間からのいじめを止めたり、できないことは代わりにやってあげて守ってあげたりと、自分としては精一杯の努力をして3年間を過ごし、深くかかわり、自分でも満足感がありました。
そしていよいよ卒業式を迎え、彼は手紙をくれました。
僕は当然「感謝の手紙」だと思って読んだんですけど、内容はまったく違っていたんです。
「僕の一番嫌いな先生は川合先生です。わかったふりをして話しかけてきます。一番好きな先生はジャージを着て、僕に厳しい先生でした」って。
もう愕然として、本当に落ち込んでしまいました。
彼にとって「体育の先生は僕と普通に厳しく接してくれる。だから好き」ということだったのでしょう。
僕が良かれと思って彼に接していたことが彼にとっては本当に嫌だったのでしょうね。
特別扱いされたくなかったのですね。
結局、「僕は擁護しすぎで彼を自立できなくしていた」と気づかされました。
教育に自信があっただけに“これじゃダメだ”と40歳で大学に行き学び直したんです。
上智大学で心理学を5年、千葉大や東大でも学んで、心理学やカウンセリングなどを必死に勉強して48歳で教頭、50歳のとき3校の校長になったのですが、その生徒との出会いがやはり大きかったですね。
自分の失敗の経験なども手伝って、現在のように、かかわり方やコミュニケーションなどを教えるようになったのかなと思います。
成功体験だけが人を導くわけじゃないんですね。
発達障害の学生への対応のコツ
私自身、発達障害の子供をもつ親でもあるので、教員研修でいろいろな場面での対応のしかたなどをお話しする機会がよくあります。
奥山さんのお子さんが発達障害だったのですね。
では、具体的な指導方法をたくさんご存じですよね。
たとえば「目をみてゆっくり話すこと」や「肯定的に物事を伝える」などといったようなことですか。
それこそ8000円もする自宅の鍵をうちの娘は1年に3回は落とすような子なので、これ以上はなくさないように教え込まないと家計が圧迫されますし。
子どもが小さい頃に『読んで学べるADHDのペアレントトレーニング』(明石書店)という本に出会い、その本を片手に泣きながら子育てしてました。
この本はすごく参考になることばかりで、高校生の個人指導にも学級経営にも大いに役立ちました。
だとすると、ペアレントトレーニングや教師研修が大事になりますね。
発達障害の生徒や学生に合わせた授業、かかわりを強化しようと心がけることで、教員がそれまで以上にていねいに説明できるようになったり、肯定的に表現することができるようになったら、意図しない健常者の生徒の学力も恐ろしく伸びたということがありました。
結局、健常者だってていねいな物の言い方や肯定的な説明のしかたのほうがわかりやすくて理解度が深まるから、すごく伸びるということなのだとわかりました。
「こんなことならもっと早く強化すべきだったな」と思っています。
生徒指導課だったので、警察のお世話になったり、停学になったりする学生ともかかわってきましたが、そのなかでも自分の子供の教育が一番難しかったです。
道路を横切ろうとしたとき、「飛び出しちゃダメでしょ!」って否定的に叱ると、言われている内容よりも私の怖い顔の表情だけが印象に残るようで「もうママに嫌われた」と大声で泣き出してしまう。
結局、彼女には叱っても指導が入らなくて、肯定的に表現したり楽しい雰囲気をつくってあげたりしないと伝わりません。
「道路で飛び出したらひかれちゃうんだよ!痛いんだよ!」って真剣に言っても伝わらないんですよ。
つまり脅しが効かないんです。
こっちは車にはねられちゃ大変だって不安でたまらないのに、「大きいトラックさんを早く行かせてあげようね。どんな荷物を乗せてるんだろうね」と穏やかで興味を引くように言わないと伝わらない。
彼女を育てるのは本当に精神修行になりました。
発達障害の子は、部屋や使った物を片づけられないって特徴があって困ってたんですけど、あるとき気がついたんです。
言われてることよりも私の表情のほうが気になるっていうことは、もしかして視覚教材なら彼女に伝わりやすいんじゃないかって。
それからハサミとか消しゴムや縄跳びの写真を撮って部屋の道具箱に張り付けたら、なんとおもしろがってそこに入れるじゃないですか。
彼女はパズル合わせのような感覚だったのかもしれませんが、結果としてお片づけができてしまった。
視覚、聴覚、体感覚と相手の優位な感覚に向けた伝え方や教材をつくることの大切さがわかったんですね。
ある意味、どんな授業研究よりも自分自身の指導力アップにつながったと思います。
ご苦労されたから今があるのですね。
僕も対話力をつけるための講演で「肯定的に物事を伝えるように」と教授や教諭に教えているのですが、なかなか難しいみたいです。
まだまだ、「~しなければならない」という教え方で学生の自発性の芽を摘んでる人が多いです。
教える側もそういう義務的な縛りのような動機づけで育ってきたからなのだと思います。
そうやって義務的な教育をやっても結局はマイナスになると気づけると、教員の成長も早いのですが。
肯定表現で物事を伝える大切さ
1.大きなことは、小さなことに言い直す。
2.抽象的なことは具体的なことに言い直す。
3.否定的なことは肯定的表現に言い直す。
というのがありますよね。
私もとっても共感します。特に3番ですが、私も学生にこれができるようになってほしいと力いっぱいメッセージを送ってきました。
上の文章の表現は「~しないと~にならない」「~しないと~できない」と不安をあおるような言い方で「不安の動機づけ」、
下の文章は「~すると~になる」「~すると~できる」という可能性を感じるような表現なので「可能性の動機づけ」と名付けました。
どちらがお薬を飲もうと思うかと言えば、やはり可能性の動機づけのほうだと思うんですね。
ある私の教え子が実習場で初めて受け持った患者さんが亡くなって泣いてしまい、その日の行動計画の修正が遅くなってしまいました。
そのとき、ほかの教員がその学生に「臨機応変な対応ができないと、いい看護師になれないよ」と喝を入れたらしいんです(図2)1)。
学生は傷ついてしまって、「もう学校を辞めたいんだ」と相談に来ました。こういった指導は、患者さんの死に初めて直面した学生にはかなり酷だと思うんですよね。
「臨機応変な対応ができるといい看護師になれるよ」と言うこともできると思うんですけどね。
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<引用文献>
看護学生のためのコミュニケーションLesson 奥山美奈著 メヂカルフレンド社
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どうして肯定的に言えないんでしょうか。
でも、その教員もきっとそんなふうに厳しく育てられたからそんなもんだと思っているのでしょうか。
「育てたように子は育つ」って言いますしね。
ようやく最近では「学生のやる気を引き出そう」なんて言われるようになりましたけど、私が学生のときなんかは、看護学校って本当にもっともっと厳しかったです。
不安の動機づけなんてもんじゃなかったですね。
ある意味、軍隊みたいでした(笑)。
看護師に合わないという理由で同級生が何人も辞めさせられたりしましたし。
でも不思議とみんなついていきました。
そう考えると今の看護学校は、ちょっと甘くなっている気もしますね。
でも肯定的に表現できる人とそうでない人は、何が違うのでしょうか。
このなかで説明すると肯定的に表現できるっていうのは“エンゼルタイプ”の人です。
自己肯定、他者肯定のあり方で人と意見が食い違っても「なるほど」と聞いて、自分の意見も上手に伝えることができるような人。
こういった人が肯定的な表現が難なくできる人だと思います。
“のび太タイプ”は自己否定、他者肯定で「自分はダメだけどみんなはすごいなぁ」と見ている状態。
この状態では自分を受け入れることができないし自信もないので、いろんなことですぐに落ち込んでしまいます。
ですので、相手を元気にしてあげる余裕がないし、自分が切羽詰まったときは他者にも否定的に変貌してしまう気がします。
自己肯定、他者否定の“ジャイアンタイプ”が物事を否定的にしかも断定的に言ってしまう人でしょうね。
自己否定、他者否定の“デビルタイプ”は論外で肯定的な表現なんて「別に興味ないし、意味ないし」という感じでしょうか。
結局、自分のスタンスがあって言葉が出てくると私は思っているので、表層の言葉というよりその人の“あり方”が大切なのではないかと思います。
まずは教える側が自己肯定、他者肯定(エンゼルタイプ)のスタンスがとれるようになることが大切ではないかと思います。
みんなエンゼルタイプを目指せばいいんですね。
今の日本の教育はのび太とジャイアンをつくってしまっているのかもしれない。
せっかく学生が自発的な発言をしてもジャイアンが「勉強もしてないのにそんなことばかり言って」なんて叱ってつぶして、のび太をつくっているのかもしれませんね。
でも、世のなかはやっぱりエンゼルタイプみたいな人ばかりではないから、どんなふうにしてジャイアンとかかわっていくかも教えないといけないでしょうね。
だから私は否定的な言葉を自分の頭のなかの会話(セルフトーク)で変換することを教えることが大事じゃないかなと思ってきました(図4)3)。
人の口には戸を立てられないんだから自分が否定を肯定にひっくり返せる力をつけていこうと。
これができるようになれば周りに否定的な人がいればいるほど肯定する機会に恵まれ、肯定する力が鍛えられますよね。
厳しい人にも存在価値を見いだせます。
苦手な人がいても家に帰れば離れられるけど自分とは24時間一緒です。
だから自分自身と仲良くやれることのほうが大切なんだと学生に話しています。
嫌な人を避けるのではなく、心を強くしてあげる。
こういったかかわりはまさに生きる力をつけてあげることにつながります。
そして、否定的に物事を言ってしまう教員や指導者にもぜひこのことを伝えたいです。
まずは、教える側がのび太ではいけない。
ジャイアンでもダメなので、自分と他人をいつも肯定的にとらえられるようにしておく。
つまりエンゼルのあり方を目指していけばいいということですね。
健康で幸せを自分自身が感じていなければ人を癒やしたり元気にしたりできません。
まずは自分のあり方を整えることが大事なのだと思います。
教育も看護も同じですね。
川合先生は対話力を教えていらっしゃる先生だけにとっても聴き上手で褒め上手。
話すたびにどんどん私自身がいい気持ちになってしまい、川合先生のお話をもっともっとお聞きしたかったのに
私のほうがたくさん話してしまいました。
教師力の基本を身をもって教えていただきました。(後編に続く)
1)奥山美奈:知識と実践がつながる看護学生のためのコミュニケーションLesson,メヂカルフレンド社,2011,p.22.
2)前掲1)p.77.
3)前掲2)p.27.
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