新人・後輩・部下の上手なほめ方・叱り方

ワンランクUPポイント

  1. 行動のいいところを具体的に評価する「条件付き肯定」で、ほめて伸ばす。
  2. 叱ったり、注意するときは、あいまいな表現ではなく問題点を具体的に指摘する「条件付き否定」で伝える。
  3. 「無条件肯定」で相手の自己肯定感を高めるかかわりが重要。

 

とうとう新人の指導者になってしまった。教え方なんて習ってないし、新人にどう接したらいいのかわからない

 

私は教育支援先の病院や介護施設で、毎年こうした声をたくさん耳にします。3年目、4年目になるとつきまとう実地指導者という役割。また、指導者に任命されていなくても業務を遂行するには、新人とのかかわりは避けられないものです。よかれと思って指導していたら、新人が泣いた。適応障害で休職した。こんなことがあると指導するのが怖くなってしまうこともあります。

今回は、新人や後輩、部下の指導に対してちょっぴり苦手意識がある方に「上手なほめ方・叱り方」の方法をお伝えします。

いいところは具体的にハッキリとほめる(条件付き肯定)

1「報告するとき『今、よろしいですか。報告が1件あります』と結論から言っているからわかりやすいね」と評価した。

2「ナースコールが鳴ると、いつも率先して出ているよね、助かるよ」と感謝した。

3「忙しくて仕事が終わりそうにないと思ったとき、すぐ相談に来てくれるね」とほめた。

1~3は、下線部に示した新人の具体的な行動や条件をほめています。これを「条件付き肯定」といいます。いくつになっても、人はほめられると嬉しいもの。だから、ほめられた相手は「条件付き肯定」をされた行動や条件を増やしたり、強化したりするようになるのです。

 

直してほしいところは具体的にハッキリと叱る(条件付き否定)

4仕事が遅い新人に、効率的な方法を具体的に教えて「明日から時間外勤務を減らせるようにね」と注意した。

5感染の疑いが高い「医療廃棄物の処理の甘さを厳重注意」し、安全な方法を教えた。

6まつげエクステが長すぎる新人に「せめて半分の長さにしたら?」とリクエストした。

4~6は、下線部に示した新人の具体的な行動や

条件を叱ったり、注意したりしていますね。これを「条件付き否定」といいます。大人になればなるほど、人は叱られたり注意されたりすることを嫌だと感じます。だから、叱られた相手は、その「行動や条件を減らす」ようになるのです。

 

あいまいな叱り方は「名誉棄損」「人格否定」と捉えられる(無条件否定)

7反応が薄くて、何を考えているのかわからない新人に「そんなんじゃ、看護師としてやっていけないよ」とピシッと喝を入れた。

8几帳面に見えるが、物品の片付けがずさんな新人に、「あなたは結構、仕事が雑だから、気をつけないとダメだよ」と注意した。

9メモはとってはいるが、何度も同じことを聞いてくる新人に「何度も同じこと聞くんなら、メモしてる意味ないよね」と指導した。

7~9は、相手をとても傷つける「よくない叱り方」です。「名誉棄損」や「人格否定」といったハラスメントにもなりかねません。

7~9の下線部では、行動や条件を限定していないので、この発言は「無条件否定」となります。言われた相手は、傷ついただけで「どこをどう直せばいいのか」が具体的にわからないので、改善につなげられません。

無条件否定ばかりが続くと、新人の「もう辞めます」を引き出してしまいかねませんから、叱るときは4~6のような「条件付き否定」にすることが重要です。特に7は、言われた相手の未来の可能性を奪い、強力に支配する「暗示の言葉」(催眠言語)になってしまう最もよくない表現です。

私のコーチ認定では「暗示の言葉の使い方」を教えていますが、暗示を用いる場合は「相手をよい未来に導けるように」と教えています。「あなたは絶対、患者さんに頼りにされる看護師になるよ」というふうにです。

指導者の立場になったら、自分がもらった「無条件否定のセリフ」を書き出し、整理することを私は強くオススメします。なぜなら「人は教わったように教えるもの」だから。無条件否定のセリフが整理されずに耳に残っていると、無意識に表出して相手を傷つけてしまうことがあります。特に心優しい看護師は、相手を傷つけたことで自分も傷ついてしまう人が多いので、早めに整理しておきましょう。

 

無条件否定のセリフの整理方法

1.「無条件否定」のセリフに「→(矢印)」をひっぱり、「条件付き否定」に変換する

無条件否定のセリフを条件付き否定にする作業(コーチングでは「分離」)をすると、「私はこんなふうに無条件否定のセリフを言われて辛かったから、自分が叱るときは『条件付き否定』にしてあげよう」と「マインドセット」することができます。

心に余裕が出てくると「もしかすると、あの先輩も無条件否定の中で育ったのかもしれないな」とキツイ先輩のことを許せたりもします。人間って不思議ですね。

こうしたマインドになったとき、「恐育」は「共育」になり得ます。これが私のオススメする「無条件否定で叱られたことの整理法」です。

 

2.「叱られたけど、今となっては感謝に変わっていること」を書き出す

これらを思い出すことは、傷ついた経験を昇華(防衛機制)してきた自分を積極的に発見することになります。

そのため図表2のように考えることで、「たしかに先輩のあの言い方はキツかったけど、自分の成長には必要なことだったのかもしれない」と「マインドセット」ができるようになります。今振り返っても理不尽な言動に関しては「自分はそうならないように」と反面教師として捉えてきた自分にも気がつきます(昇華)。

また、「叱られた経験をリソースにすることができた自分もまんざらでもないな」と自分を誇らしく思うことができ、自身の自己肯定感が高まります。

さらに、傷ついた当初は「あんな言い方、許せない」と憤っていたのに、今は「感謝」しているわけですから、怒りが風化するには「時間」が必要なことにも気づきます。

そしてここが肝心なのですが、「叱られた経験も、いつかは感謝に変わる」と体感することで、バシッと「叱る役割」を担えるようになります。恨み心から感謝に変えることが重要です。嫌われたいと願う人はいないでしょう。かつてキツイ指導をしたその先輩は、リスクを負いながらも我々の成長のために一歩を踏み出してくれた人です。今度は、指導者として自分に順番が回ってきたのです。しっかりと新人や後輩を育てる役割を担っていきましょう。

 

相手に自己肯定感を与える最上級のメッセージ(無条件肯定)

無条件否定は相手を傷つけますが、無条件肯定は相手に自信とエネルギーを与えます。無条件否定が相手をどん底につき落とす「悪魔のメッセージ」だとすれば、無条件肯定は「天使のメッセージ」です。そして無条件肯定は、いいことをした・しないといった具体的な行動や条件にかかわらず、相手にメッセージを送ることができる強力で簡単なコミュニケーションスキルでもあります。

無条件肯定のセリフの例を見てみましょう。

10「あなたが病棟に来ると、まわりがパッと明るくなるね!」と話しかけた。

11「あなたが受け持つと患者さんの笑顔が多くなるよね!」と伝えた。

12うつむいてインシデント報告書を書いている新人の頭をそっとなでた。

13受け持ち患者が亡くなり、がっかりしている新人に「最後に看取ってくれた看護師があなたでよかったって患者さんはきっと感謝してるよ」と声をかけた。

10~13では、「あなたは部屋回りが早いから助かる」とか「独り立ち早くてすごい」などの具体的な行動や条件を付けていません。無条件肯定は「私はあなたを認めてるよ」と、その人の存在自体を承認する表現です。こうした言葉をかけられた相手は「自分はここにいてもいいんだ」と「自己肯定感」が高まります。

新人が退職するとき、よく「自分の居場所がなかった」と言います。「仕事ができている、役に立っている」という自己効力感が低い新人のときだからこそ、自己肯定感を持てるようなかかわりが大切になるのです。

* ほめ方・叱り方を考えるときは、「条件付き肯定・条件付き否定・無条件否定・無条件肯定」の4つ型を意識するとうまくいきます。条件付き肯定は、具体的な行動や条件を付けてほめること。条件付き否定は、具体的な行動や条件を叱る・注意すること。無条件否定は、相手を深く傷つけるので条件付きの否定に直して叱ったり注意しましょう。逆に無条件肯定は相手の自己肯定感を高めることができます。 「愛の反対は憎しみではなく無関心である」は、マザーテレサの言葉ですね。具体的に叱るのは、相手の言動を見ていないとできません。つまり「あなたのこと、ちゃんと見てますよ」「あなたに関心がありますよ」というメッセージにもなります。1つの失敗もせずに新人が育つことはありません。無条件否定を避け、恐れずに指導をしていきましょう。

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