伝わる・心をつかむ言葉遣い

しっかりとした「言葉」と「表情」を使おう

このブログ読んでくださっているなかにはベテランナースの方もいらっしゃると思いますので、敬語については触れずに、ここでは自分の気持ちを相手にしっかり伝えることができる「Ⅰメッセージ」と相手の心を がっちりつかむことができる「Weメッセージ」という強烈なツールをお伝えします(表)。
普段、私たちが無意識で使っているのは「Youメッ セージ」で、あなた(You)を主語とした表現です。通常、私たちは会話のとき、必ずしも主語を言いませんが、 そのときの文脈やその場の空気で「そのメッセージは自分に発せられたものだ」と相手が判断することで、 その後のコミュニケーションが成り立っています。

「Youメッセージ」と「Iメッセージ」の正しい使い方

例えば「(あなたは)トランスうまくなったね」。これはYouメッセージです。相手を示すあなた(You)が主語ですが、私たちは普段、あなたという主語を省略して表現することがほとんどです。だから、自分がYouメッセージを使っていると気づくことはないかもしれません。
じつはこのYouメッセージは、上下関係が存在するときは特に疑問を感じませんが、伝える相手が年上の方や目上の方の場合には、「失礼なやつだ」と思われてしまうので注意が必要です。Youメッセージは「評価 されている」というニュアンスを相手に与えてしまいます。表にあるように、リハビリをがんばっている高齢者を称賛したいと思い、新人ナースが「○○さん、 ずいぶん歩けるようになりましたね」と褒めているシーンを想像してみてください。自分の孫くらいの年齢の若者が、人生の大先輩を褒めている……。上からの物言いですし、とっても感じが悪いですよね(笑)。
こんなときにⅠメッセージは役に立ちます。私は(Ⅰ)と主語を自分にして、気持ちを伝えるだけでとても簡単です。先ほどの場合も「私は○○さんがずいぶん歩けるようになって、とてもうれしいです。私も何かがんばらないと!って思います」と、こんなふうにⅠメッセージで伝えることができれば、好感度ばっちりです。

Iメッセージの最上級「Weメッセージ」

Ⅰメッセージがマスターできたら、次はWeメッセージにチャレンジしてみましょう。このメッセージもとても簡単。今度は主語をWe(私たち)と複数形にするだけです。表でいえば「ご家族の皆さんも○○さんがこんなに歩けるようになって、本当にうれしいっておっしゃっていました」というのがWeメッセージです。Ⅰメッセージも心が伝わってきてうれしいものですが、Weメッセージは複数の人たちが歩けるようになった姿を見て喜んでいると伝わるので、Ⅰメッセージを上回ります。学会発表のあと、「あなたの発表を病院全体で喜んでいます」とか「あなたの発表は関東を代表するものね」などと言われると、とってもうれしいのではないでしょうか。強力に相手を喜ばせた り、勇気づけたり、癒やしたりできるのがWeメッセージの特徴です。
しかし、Weメッセージは褒めるとき限定で使うのが鉄則。決して相手を注意するときなどに使わないこ とが大切です。例えば、「今年の新人は元気ないってみんな言っているよ」や「みんなそう思っていますよ」 などと言われると、一気にモチベーションが下がります。強力なメッセージであるからこそ、一瞬で相手を傷つけたり、落ち込ませたりしてしまうのです。なので、褒めるとき限定で活用しましょう。

「不安の動機づけ」をやめて、「可能性の動機づけ」をする

下の図は「お薬を飲む」という、同じ目標に向かっている表現です。左の「お薬飲まないと、血圧下がりませんよ」は「~しないと、~にならない」と不安をあおるような表現ですよね。これは相手を恐怖で命令に従わせようという言い方で「不安の動機づけ」といいます。右の「お薬飲むと、血圧下がりますよ」は「~すると、~になる」という表現ですね。相手の可能性を広 げる言い方で、これは「可能性の動機づけ」といいます。
敬語を使うのも大切なことですが、どんなにきれいな言葉を使っても不安の動機づけをされるのを人は嫌がります。私は指導者向けの研修で、先輩や上司に言われて傷ついた言葉を紙に書いてもらい、「なぜ傷ついたのか」を洞察してもらうことがあります。すると 「こんな失敗しているようだと、あなたはいつか患者さんを殺すからね」や「こんなのも看れないんなら、あんたオペ患なんて一生看れないよ」などと、不安の動機づけをされているというような事例が上がってきます。そして口々に「これじゃ、落ち込むワケだよね」と経験を分かち合い、「自分たちはこうした表現をしな いように気をつけないとね」と志を新たにします。こうした言葉で育ってきた私たちは気をつけないと、同じようなことを言ってしまう傾向があります
それは、耳に残っている言葉は再生しやすいからです。「虐待された人は、虐待するようになる」という話を聞きたいことがあるかもしれませんが、私たちの世代からこうした負の連鎖をやめていきたいものですね。逆も真なりで、可能性の動機づけで育った人は、 自分にも、かかわる人にも可能性の動機づけをすることが多くなります。「これ、全部食べられると早くお家に帰れますよ」と言いながら、食事介助をする先輩ナースに育てられた後輩は、やはりこうした声がけが多くなります。職場の風土とはこうしてでき上がり、循環していくものです。

自分の不安を解消することでよい言葉を発することができる

また、言葉は私たちの気持ちの状態を反映しています。不安の動機づけをしたくなるときというのは、じつは「自分が不安を抱えているとき」です。忙しい認知症病棟などで、「この部屋の患者さんに全部薬を飲ませて、隣の部屋も14時まで飲ませないと。終わるかな……」などと 不安で仕事しているときに拒薬などがあれば、ついつい早く飲ませようと不安の動機づけが出てしまいます。
こんなときに重要なのは、自分の不安を解消することです。「すみません、○号室の与薬をお願いできませんか」と同僚ナースやスタッフに協力を依頼し、 自分の不安をまずは解消することが大事です。自分自身のストレスマネジメントがうまくできれば発する言葉もよいものとなります

敬語や美しい言葉遣いだけではなく、言葉には魂を込めることが大切

「自分は一応、敬語を使っているからだいじょうぶ」。 そんなふうに思ってはいなかったでしょうか。敬語は相手を思いやっていることを伝える便利なツールですが、そこに心がこもっていなかったり、態度がともなっていなかったりすると「ていねいに言えばいいってもんじゃない!」と逆にクレームにつながったりします。「言霊」とはよくいったものです。敬語や美しい言葉にこちら側の「魂を込める」ことが大事なのです

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