経営者の顔をもつ医師と一緒に考える医師とのじょうずなコミュニケーション

医師とのコミュニケーションが良好でないと、私た ちナースが患者さんやご家族に、いつも気持ちよくか かわることは難しいものです。そんなナースの悩みを 解決すべく、2021年4月号では「医師と一緒に考える」、 5月号では「本物のチームとは何かを考える」として、 2回にわたり医師とのじょうずなコミュニケーション について触れてきました。  今回は理事長や院長といった経営者の顔をもちなが ら診療も続けていらっしゃる医師とのじょうずなコ ミュニケーションについて、皆さんと一緒に考えてみ たいと思います。

「優先順位を考えられない」スタッフは、観察力や共感力が低い

中村先生、今年も元気な新人看護師さんがたくさ ん入って来られましたね!さて今日は、「医師とじょうずにコミュニケーションをとるにはどうしたらいいのか」を先生とディスカッションさせていただきたいと思います。
まずは、現役医師として看護師のコミュニケーションについて思うこと、続いて教育熱心な病院として知られる小倉第一病院の理事長として、経営者サイドから看護師に求めることをお聞かせ願いたいと思っています。 医師として働くなかで、看護師のコミュニケーションで「困ったこと」や「いいなと思ったこと」を教えてください。

中村先生
中村先生
まずは、困ったこと。「これ、大事なことだからみんなにも言っておいてね」と、1 人の看護師に伝えても、その内容がほとんど共有されないことですね(汗)。でも、これに関しては口頭だから伝わらないのかなと思い、2004年からグ ループウェアで共有するようにしてずいぶん改善されてきたんですけれど、それすら見ないスタッフもいるんです。でも、往々にしてそういうスタッフはミスも多いなって思いますね。

グループウェアで共有することにしたら、ある程度は改善されたんですね、それはよかったです。お知らせを見ないスタッフって、自分のことで手一杯できっと余裕がないんですね。業務内で「今、見てきて」とか、グループウェアを見る時間をつくってあげなきゃならないんですかね(泣)。何だか自分の時間で確認している意識が高いスタッフに申し訳ないような……。

中村先生
中村先生
あと、もう中堅なのに、優先順位が低いことを忙しいときに頼んでくる看護師さん。 正直、「それ、今じゃないといけないの?」って思っちゃいます。新人ならばともかくなんですけど。

先生と密に「優先順位の確認」を行うことが大事なんでしょうか。

中村先生
中村先生
常々言っているので、ほとんどの人は中堅ともなれば優先順位がわかるようになるんですけどね。一部、空気が読めない人が……。 それから、忙しいときに頼んでくる人って「言い方」にも問題あることが多いんですよ。話している最中でも唐突に入ってきたり、そもそも攻撃的な物言いだったりして……。共感力が低いというか、間も悪いんですよね、そういう看護師さんって。

あっ、コーチングでいうところの「ペーシングができていない人」。つまり「ノーペーシングな人」なんですね、そういう人って
信頼を得る話し方・聞き方テクニック「ペーシング」

中村先生
中村先生
あっ、そうそう。その「ノーペーシング」なんです。そういう人って相手の立場に立ってやりとりしていないし、観察力も弱いんだと思うんですよ。だから、患者さんからもクレームをもらったりしますね。

あと、「物言いがキツイ人」には表情管理を教えないとクレームにつながっていくので、ロールプレイの様子を動画に撮ってみるなど、自分の対応や表情を俯瞰するクセをつけるといいと、研修で行っている方法も紹介しました。先生の病院では、ロールプレイは研修でたくさんやらせてもらっていますけど……。
患者さんの期待に応える表情とは?「表情管理」

中村先生
中村先生
もちろん奥山先生に研修を行っていただい ているので、ずいぶんコミュニケーション力は高まっています。観察力や共感力が低い人は、「自分にばっかり、先生はあたりが強い」と思っているかもしれないんですけど、コミュニケーションって双方向だから自分のことも振り返ってほしいと思うんですよね。自分に課題はないのかとか、まわりのスタッフに聞いてみるなどしたらいいと思うんですよね。

相手の立場を考える力がコミュニケーションのをスムーズにする

生は、医師会のお仕事や対外的な役割も多くて大変ですよね。そういう先生のかかえている仕事や役割をしっかり理解していれば、先生が何を優先しようとしているかわかってくるんじゃないでしょうか。

中村先生
中村先生
そうですね、僕なんて医師会ではまだまだ若いほうなので、資料を準備しないといけない役割などを担っているので、けっこう大変だったりします(笑)。就職してすぐにそういうことを察してくれるように育つスタッフも、大勢いるので助かります。

「今日、先生は医師会の会議だから、診療後にすぐ出ないといけない。準備があるといけないから、確認事項は明日にしよう」とかですね。相手の立場を考える力があるスタッフとのコミュニケーションはうまくいきますよね。

中村先生
中村先生
そうなんです。そういう配慮をしてくれるスタッフは本当にありがたいです。あと、萎縮気味の新人や後輩にかかわるときに、「一緒になって悩んであげる」スタッフを見るとうれし くなります。ああ、このスタッフは自分が新人だったころの気持ちを忘れていないんだなって。
中村先生
中村先生
でも、そんなふうに接してくれる先輩看護師が多くてやさしすぎるのか、自分より1つ、2つ年上の先輩看護師に対して、逆に新人看護師がなれ合い的な態度になったりしていて、そんなところはどうしたらいいのかな、とも思います。コミュニケーションが活発なのはいいんですけどね(汗)。

中村先生の病院は、福利厚生の手厚さでも有名ですが、このコロナ禍で恒例行事の旅行や勉強会に食事会など、コミュニケーションを図る機会が減ってしまいましたよね。

中村先生
中村先生
うちは院内外の勉強会などが多くて、 そのときに先輩、後輩がよく交流を深めてくれているなと思います。結束の固さは当院の強みでもあるので、コロナ禍でも少人数でソーシャルディスタンスをとりながら、機会を設けるように工夫しています。

チームワークは大事ですから。そういう機会が多い小倉第一病院はすごいと思います。また、「学習する組織」をめざしていらっしゃるので院内外での勉強会が多いし、委員会もたくさんあって活発ですが、それらに対するスタッフの反応っていかがでしょうか。

中村先生
中村先生
勉強会の参加率も高く、みんな懸命に勉強しています。少数ですが、患者さんに直接かかわらないことは看護の仕事じゃないって思っているスタッフもいるようですが、委員会や研修は患者さんと直接かかわる仕事ではないけれど、いい医療を提供するための「時間投資」だという観点でみてほしいなと願っています。

経営者として、看護師のコミュニケーションに思うこと

看護師が多職種とかかわるときに、気になるところはありますか。

中村先生
中村先生
看護師さんの仕事って患者さんの命に直結することが多いので、どうしても他部門に緊急のお願いごとが多くなることがあるんですが、「患者さんの病状にかかわるんだから、しかたないでしょ」的な依頼のしかたになっていることがあって……。多職種に対して、もっとやさしく接してほしいなと思うことがあります。もちろん配慮できるスタッフもたくさんいますけど。
中村先生
中村先生
多職種のなかでやっぱり看護師ってリーダーシップを発揮すべき職種なので、もっとやさしくまとめあげてほしいなって思います。

ああっ、元看護師としては、耳が痛いです(笑)。今度は看護師と患者さんとのコミュニケーションで、感じていらっしゃることを教えてください。

中村先生
中村先生
若手の看護師が自分よりずいぶん年上の患者さんのことをニックネームで呼ぶことがあって(汗)。「~すべき」という思考が強い人や団塊の世代の方々などにもそういうのが出てしまうので、ヒヤヒヤすることもあります。
中村先生
中村先生
フレンドリーすぎるやりとりをしていると、セクハラ を誘導してしまうこともあるんですよ。うちは透析中心の病院なので、年間、1人の患者さんに150回くらいは会います。なかには距離が近すぎるやりとりを、「自分に気がある」と患者さんが勘違いしてしまって、結果的にセクハラが起きてしまうなんてこともあるので、コミュニケーションって本当に距離感が大事だと思うんです。

年間、150回も同じ患者さんに会うってなかなかないですもんね。自分のコミュニケーションに関しては、新人時代くらいしかフィードバックされませんから、自分の距離感は大丈夫かなとか、振り返ってみることが必要ですね。

中村先生
中村先生
そうなんですよ。トラブルになってからでは遅いし、前提に自分のコミュニケーションのとり方に関しても課題があるのかもしれないと考えないと、また同じことが繰り返されますから。

なるほど、考えさせられます。コミュニケーショ ンには前提がありますからね。

中村先生
中村先生
あとは、「上から発言」ですかね。うちの病院の患者さんは食事療法が必要な人ばかりなので、食事指導なんかがあるわけですけど、その指導が強くて脅しになってしまうスタッフがいます。すると、患者さんは指導に対して「返事をしない」という態度になったりして……。慢性期疾患の難しいところでもありますけど、患者さんが受け取りやすい指導をしてほしいと思っています。

先生、最後に新病院の完成も間近ですが、スタッフをまとめるのに工夫していることはありますか。

中村先生
中村先生
新病院建設に向けて、想いなど口をすっぱくして何度も言っていても、なかなかスタッフ全員に伝わらないものだなって感じています。
中村先生
中村先生
以前、理事長だった父のことを「何度も同じことを言っ てくどいな」と思って見ていましたが、自分も同じようになってきました(笑)。でも、リーダーとしては新鮮な気持ちで、こんな病院にしていこうねと、くどくても何度も何度もスタッフに夢を語りたいと思ってい ます。リーダーとして医師として、自分から発信しなくてはとがんばっています。
中村先生
中村先生
病院移転の業務も増えて、スタッフも大変だと思うのですが、病院の未来を見据えてがんばってやってくれていて、経営者としてありがたいと思っています。 病院経営のことやあり方を一緒に考えてくれるスタッフの存在は財産です。

新病院建設に向けて、スタッフもさらに一丸となれるときですね。私も新病院にうかがうことを、心から楽しみにしています。中村先生、今日はどうもありがとうございました。

経営者ならではの視点を中村先生に語っていただきました。病院移転などの変化に対しても柔軟に対応し、 他のスタッフをリードしていく姿勢が、病院経営者が求めるスタッフ像なのだとあらためて思いました。逆にいえば、経営者サイドはそうしてわれわれの態度や能力をシビアに評価しているのだと言えそうです。

 

 

 

 

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