クリニックや外来ナースに求められるコミュニケーション力

外来ナースに求める仕事とは
組織のなかでの外来の役割とは

読者の皆さんのなかには、クリニックや外来にお勤 めという方もいらっしゃると思います。今回は、「ク リニックや外来ナースに求められるコミュニケーショ ン力と資質」について、新宿駅前クリニック院長の蓮池林太郎先生とざっくばらんに考えてみたいと思います。
病院勤務を経て、自分自身でクリニックにキャリアチェンジをされた方もいれば、病院で働いていたら、 希望もしてないのに外来や検診部に異動になってしまった……という方もいらっしゃることでしょう。希望してクリニックに勤めたのに「何だか思っていたのと違った」という方は「クリニック経営者が、クリニックナースに求める仕事とはどんなことか」を、希望してないのに外来や検診勤務になってしまったという方 は「自分の勤める組織のなかでの外来、検診部の役割」や「自組織は、地域でどんな機能を求められているか」 を、読み取っていただけたら幸いです。  また、「自分にはクリニックや外来が合うかも」と思った方はぜひ、キャリア構築の一助としていただけたらうれしいです。蓮池先生もコンサルティングをやっている私も、仕事に燃えるクリニックや外来ナースを心から募集していますか(笑)。

クリニックや外来ナースに必要なものは
「笑顔×持久力」「愛嬌×持久力」

先生はクリニックや病院の外来や健診センター等のナースに必要なコミュニケーション能力ってどんなことだと思っていらっしゃいますか?

蓮池先生
蓮池先生
やっぱり「患者さんを励ますこと」、そし て「頼りにされるようなコミュニケーションがとれる」能力ですよね。 殺伐とした診察室に「太陽で照らすみたいな笑顔」の看護師さんがいると本当に助かります。患者さんは具合が悪くて不安な状態でクリニックにいらっしゃいますから、「大丈夫ですよ」などと看護師さんが励ましてくれることで信頼を寄せてくれます。 患者さんが、数あるクリニックから自分のところを選んでくれて、状態が悪いときに通ってくれるようになるには、看護師さんの力はとっても大事です。

そして、ご自身の著書では「持久力」そして「持久力」そして「持続力」が重要だともありましたよね。

蓮池先生
蓮池先生
そう!そうなんですよ。「持久力」と「持続力」がないとダメなんです(笑)。 面接でニコニコしていて「この看護師さん、いいな」って思って採用しても、その笑顔が持続しない人っているんですよ。クリニックや外来って、患者さんがとても多くて診察が終わらないってときもあるじゃないですか。そんなとき、患者さんばかりでなくスタッフも余裕がなくピリピリしてきますから、看護師さんに愛嬌をもって場を明るく照らすようにしてもらいたいんですよね。

たまに打つクリーンヒットではなくて安定的なヒットを、ですね。

蓮池先生
蓮池先生
そうです。「笑顔×持久力」「愛嬌×持続力」があるスタッフなら助かります。

笑顔は大事ですが、持久力や持続力もたしかに必要ですね。

蓮池先生
蓮池先生
そうです。スポーツに例えるなら、100m走ではなくマラソンみたいに毎日の積み重ねが必要とされます。
蓮池先生
蓮池先生
また、笑顔や愛嬌の持続力がない方には、「あまり自分をよく見せすぎないほうがいい」とも言いたいです。面接のときなどに普段の自分よりも愛嬌をふるまい過ぎると、こちらも期待値が上がってしまいます。 そうすると期待値が上がったぶん、下がるのが速いし、 後が続かなくなって本人もつらいと思うんですよ。 自分のキャリアなんだから、せっかく就職したら長くがんばってほしいし、実際以上に自分を見せずに面接に臨んだほうが双方のためだと思います。たくさんの看護師さんを採用して、そう思います。

うーん、深いです!等身大でいくってことが大事ということですね。

「頼りにされる」のも大事だが、やりすぎないことも大切

蓮池先生
蓮池先生
それと、患者さんに信頼されることは大事なんですけ ど、混んでいるときに患者さんとずっと世間話している看護師さんというのも困ります(汗)。

それはそうですよね。私が前に伺ってた総合病院の件深部にも困ったナースがいました。企業の健診診断などで、大勢の方が廊下で立って採血の順番を待っているのに(ソファーが足りずに座れない状態)、そのナースは1人の方に長時間かけて、すごく丁寧に生活指導をしているんですよね。そのナースは以前、病棟で熱心に生活指導をしていたらいいんですけど、他のスタッフから「いい加減にしてほしい」と苦情は出てしまって・・・

蓮池先生
蓮池先生
それは困りますね、そういうのがしたいのなら病棟などで退院指導に燃えるとか、地域包括ケアで患者さんの相談を受ける側になるとか、健康教育に熱心な病院に勤めるとかがいいんじゃないかと思いますね。混んでいるときに外来やクリニックで、そのようなふるまいをされると結構困ると思います。経営ということも考えられないと、外来やクリニックには向いてないかもしれないですね。

そうなんです。そのナースとはその後に面談して 「生活指導は大事ですけど、大勢の受診者が待っていてるときは、そちらを優先できませんか」とフィードバックしました。すると、「私は病気にならないよう に指導することが生きがいだし、“本当の看護”だと 思ってきました。私の看護観を否定される覚えはないです」と怒ってしまいました。
そしてよくないことに、そのナースは採血が下手で、別に細くもない血管の患者さんの採血を何度も失敗するんですね。困った同僚が、隣で自分の手技を見せながら育てようともしたんですけど、プライドが傷ついたのか、今度は絶対に失敗しないようにと、細くもない血管の患者さんの腕をですよ、必ずホットタオルで温めるようになって、1時間で6人くらいしか採血できなくなってしまったんです。もう検診部の廊下は長蛇の列でした。
1時間に6人ではさすがに職能の部分で問題だと、再度師長が面談したのですが、「私の採血は痛くないと患者さんに評価されています。私の自分の看護の質を下げたくはないです」と指導を受け入れてくれませんでした。このナースはこのあとすぐに退職となりました。
小規模のクリニックや病院の検診部には、人事評価制度がないところも多く、そうした職能の部分を評価するしくみがないと、こういうときの指導は難しいなぁと実感したのを覚えています。このナースは自分の勤めている病院で、健康教育や疾病の予防に関する啓発活動を行っている部署があればそこに異動願いを出すとか、健康センター的な施設に転職するとか、自分のやりたい看護や仕事ができる場所に行くことが大事で、組織で求めていない役割を何とかで通そうとしたところでうまくいかないと思います。

採血がうまくて、点滴の針を一発で入れられる技術が必要

蓮池先生
蓮池先生
私見ですけど、クリニックや外来では、採血は1回で、点滴は一発で血管に入れる技術がない看護師さんは向いてないと思います。
蓮池先生
蓮池先生
特にうちのクリニックは新宿にあるので、患者さんは企業に勤めている人が多いです。そういう人たちは仕事の合間に来るなんてことがほとんどで、点滴はスッと一発で入れて治療して会社に戻してあげないといけないので、そのような技能がないと正直厳しいです。 技術がしっかりしてないと、患者さんにも信頼されません。
蓮池先生
蓮池先生
そういう意味でも、ベテランさんがクリニックに応募してくるというのは妥当な気がしました。やっぱりクリニックは、新卒では難しいです。

職能という部分ですね。それって大事ですよね。入院施設のある病院なら自分が点滴を失敗しても、他のスタッフにやってもらうということができますけど、外来って1人の医師に1人のナースってケースがほとんどですから、そのナースができないと大変ですね。

蓮池先生
蓮池先生
そうです。医師は医師でたくさん患者さん を診ているので、そういうことができる看護師さんでないと勤務医も自分が大変になるので、納得しないというか……。

それ、すごくわかります。よく看護技術に自信がない学生が、妙にコミュニケーション力をみがくってことがあるんですけど、そこより最初は技術でしょ!と思うことがありますもの。

蓮池先生
蓮池先生
あははは。それ、ありますねぇ。やはり、患者さんは痛いことをたくさんする看護師さんをよくは思わないので、技能はしっかりしておかないとですね。
蓮池先生
蓮池先生
あと、患者さんが看護師さんを頼って顔を見に来て、 話したいような雰囲気のときもあるんですけど、大勢の患者さんが待っているようなときはやっぱり診療を優先して、逆に空いているときに、その患者さんを見かけたら「この前は、混んでいて声をかけられず、すみません」なんて言えるくらいの機転が利く看護師さんが外来やクリニックに合っていると思います。
蓮池先生
蓮池先生
ちのクリニックは、スマホで検索(新宿クリニックなど)すると上位に挙がってくるので、毎日新規の患者さんは100人くらいになるんです。検索で来られた患者さんが、クリニックの近所の患者さんが優遇されて、自分は後回しにされたなどと感じると、すぐにネットでクレームを投稿したりするんですよ。それの返答いかんでは、さらにクレームにつながったりするので、丁寧に返答して逆にファンになってもらうとかしないといけなかったり……。
蓮池先生
蓮池先生
クリニックでは、そういうのも大事な仕事だったりするんですね。今は、近所のクリニックだから患者さんが集まるとかいう時代ではないので、ネット対策なんてのも大切だったりします。昔とは変わってきているんですよね。だから、検索して来られる患者さんを大切にすることも考えなくてはいけない。そういうこと(経営)にも気を配れる看護師さんが、クリニックでは優秀な人だと評価されたりします。そんな時代なんですね。

なるほど、奥が深いですね。目の前の患者さんとラポールをとる(相互に信頼している状態でいる)のも大事ですけど、ネットという目に見えない患者さんの存在も意識しておかなくちゃいけないわけですね。

勤務医の「メンタルケア」ができるカウンセラーナースは院長もリスペクト

蓮池先生
蓮池先生
あと、勤務医をうまくリードしてくれる看護師さんにはホント、給料をたくさん払いたいくらいです。患者さんが大勢待っていたりすると、勤務医も焦ってイライラしてきたりするんですけど、そこを掌握して「先生、今日も本当にお疲れ様でした。こんなたくさんの患者さん診られて、 さぞ、お疲れですよね」なんてねぎらってくれたりすると、ちょっと気難しい医師なんかも表情が和らいで、 一生懸命に診察できたりするんですね。これは本当にそうなんです。
蓮池先生
蓮池先生
言葉は悪いけど、気難しい医師でもカウンセラーみたいな看護師さんの采配次第では、たくさんの患者さんをこなしたり、仕事ができるんです。そういう面で看護師さんの力って偉大だなぁってあらためて思います。医師が辞めるのはコスト的にも非常にダメージなので、こういう采配ができる看護師さんはのどから手がでるほど欲しい人材ですね。

医師のカウンセラーになれるナースは、クリニックではとっても重宝されるんですね。何だかわかる気がします。これは病院とかでも同じかもしれません。 私がかつて婦人科病棟のナースだったころ、アルバイトで当直に来ている医師がいて、急患が来ると「何で 基礎疾患がある患者さんを僕が診なくちゃいけないの!?」とナースにブーブー言っていましたが、今思えば、その医師は自信がなかったのかもしれないな、とも思います。ちょっと私はやさしくできませんでしたけど(笑)。

蓮池先生
蓮池先生
きっとね(笑)。あとは勤務医ともなんだけど、コメディカルとも仲良くやってくれる 看護師さんがいいなと思います。経営的にもものすごく。
蓮池先生
蓮池先生
また、スタッフの採用で紹介会社を利用すると、たいていは年収の20%前後の紹介料を支払うことになっています。なので、スタッフにはなるべく長く働いても らわないと経営を圧迫します。そうしたコスト意識をもった看護師さんがいてくれるとありがたいです。うちは患者さんのことを「患者さん」って呼びますけど、 看護師さんは「看護師様」って呼んでいるくらいですから(笑)。紹介会社でスタッフを入れたことがあると、 直接応募の方がなんてありがたいことか。 あと、スタッフは急に何人か辞めてしまうことがありますから、紹介会社の人とも僕はよい関係を築いています。あのクリニックには紹介しないなんて思われたら大変ですから。看護師さんも業者さんであっても、 しっかり対応してほしいと思います。

そうですよね。ある病院で人気のある受付のス タッフがいたんですけど、その人にはなぜか患者さんが名指してクレームを書いてくるんですね。接遇もいいスタッフなのでなぜなんだろうと不思議でしたが、 ある患者さんが「〇〇さんはいつもすばらしい対応し てくれるのに業者(薬剤メーカー)に冷たい対応をしていてがっかりした」と書いてあったんですね。それで、「患者さんはそのスタッフに期待していたから、逆に業者に冷たい対応したことで裏表があると感じてしまったのか、期待値が高いと落ちるのが速いというけど、こういうことなのかもしれない」と思いました。 あらためて人には平等に接しないといけないな、と思います(外部の人とのかかわりについては『「ソフト」に否定してくる人、ネガティブ思考の人とのかかわり方』をご参照ください)。
最後に、勤務医の医師やアルバイトの医師が患者さんに対してとても冷たいとか(逆に患者さんにセクハラなど)の場合、ナースはその医師に幻滅したりして、 離職につながったりするんですが、いったいどう対応したらいいんでしょうか?

蓮池先生
蓮池先生
患者さんにキツい対応の医師がいる場合は、すぐに院長などに報告してほしいと思います。トラブルやクレームになる前に、早期発見しないといけないので。教えてもらえれば、その医師と2人のときに院長からフィードバックできますし、先方のプライドも傷つかないかと思います。 医師は一般的にプライド高い人が多いので(笑)、気を遣いながら精いっぱい注意します。

蓮池先生はそうした勤務医にしっかり注意してくださるんですね!すばらしいです。ナースの声で多いのは、「院長や理事長に、勤務医のパワハラや患者さんへの対応の悪さを相談したのに、何もしてくれなかった」というもので、こうした幻滅が組織を辞めるきっかけになったという話はめずらしくありません。 なので、あらためて蓮池先生のすばらしさがわかりました。

ざっくばらんにいろんなお話が聞けてとても楽しかったです!ありがとうございました。「気難しい医師のメンタルケアができる、カウンセ ラーみたいな看護師さんはのどから手が出るほど欲しい人材」という言葉は印象的でした。ナースは患者さんはもとより、医師にとっても癒しの存在なのかもしれませんね。

 

 

 

 

 

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