患者さんの期待に応える表情とは?「表情管理」

患者さんの視点で整える「表情管理」の必要性

表情管理とは「その場面や状況にあった表情で、そこに存在すること」をいいます。
例えば、採血に自信がない新人が患者さんのところに行くとき、見るからに「自信のなさそうな表情」をしていたら、患者さんは「この人、失敗するんじゃないか」 と一気に不安になりますね。だから看護師は自信がないときでも、「患者さんを不安にさせてはいけない。 あれだけ練習したんだからだいじょうぶ。1回で入る !」と、自分に言い聞かせて表情を整え、患者さんのところに向かうのだと思います。
こちらの感情を表情に出して相手を不安にさせない ように配慮すること、これが「表情管理」です。
もちろん、気をつけていても不安が表出してしまうことはあります。しかし自分の表情が相手に及ぼす影響」を、「相手の視点から考えて整えよう」とする「在り方」が何より大切。その気持ちが相手に伝わり関係がよくなるのです。またこうした「在り方」で生きている人は振り返りができるので、徐々にその場面、状況に合った表情ができるようになります。逆にいうと、そうではないスタッフが「クレーム」を受けることが多くなるのです。 表情管理のゴールは、他者視点で自分自身を俯瞰することができるようになることです。

患者さんや家族からの「クレーム」は成長のチャンスととらえよう

普段、自分では自分の表情は見えません。私たちの表情がその場面や文脈に合っているか、適切かどうかを判断するのは患者さんであり、ご家族です。大切なのは、表情の評価者は相手方であるということを忘れない姿勢でしょう。「今の表情や態度はよくなかった」 ということを教えてもらう機会が、すなわち「クレーム」です。
繰り返しになりますが、自分には自分の表情は見えません。なので、相手から フィードバックを受けないと気づかないことが出てくるのです。こう考えると、 患者さんやご家族からいただく「クレーム」は単なるマイナスではなく、自分を知るよい機会であり、さらなる成長の チャンスだととらえることもできますね。

失敗したときにクスッと笑ってしまい、相手に「笑われた」とクレームを受ける人

持続点滴をするときなど、一度で血管に入らないときや処置がうまくいかなかったときに、うっすらと笑ってしまう人がよくいます。この笑いは「ゲラゲラ」というのではなく、「ちょっとクスっと笑った」という感じのものです。
じつは、自分が失敗したときに笑う人 は結構います。患者さんから他のスタッフに「〇〇って看護師が、点滴失敗したのに笑っていて不愉快だった」とクレームがあり、本人に注意することとなりますが、最初、本人は無意識でやっている言動なのでびっくりします。「失敗したときに何を考えていたの?」と聞くと、たいていは「自分ってダメだなぁと思っていました」といった答えが返ってきます。
これは、「何度も失敗するダメな自分をあざ笑っている」という状況なのですが、そのようには相手に伝わりません。患者さんは「こっちは痛い思いをしているのに看護師に笑われた」と感じます。こうしたことが典型的な表情管理失敗の例だったりします。よくまわりにいますよね。では、こうした人はどう改善したらいいのでしょうか。

「表情」と「感情」のつながりを感じながらしっかりと観察するクセをつける

自分の感情をメンテナンスせずにそのまま表情に出してしまう人は、人の表情から相手の感情を読み取ることが苦手です。むしろ苦手というよりも、「感情」と「表情」のつながりを感じながら相手とコミュニケーションをとってこなかった、というのが本質です。
それなら今後はそこに焦点を当てて、人とかかわっていったらよいのです。「今、患者さんはうつむいて目を合わせず話している。きっと悲しい気持ちなんだな」というように、人の表情から感情を察するようにします。そして、「こんな気持ちのときはどんな表情で近くにいてほしいものかな」と考えながら、患者さんのまわりにいるご家族の表情を見てみます。関係がうまくいっている患者さんとご家族の表情がその場面、文脈に合っていることがわかると思います。それをモデルにします(モデリング) 。

患者さんが医療者に望む表情で対応すること

そして今度は、表情管理ができにくい場面での自分の気持ちをくみ取るようにします。例えば、「この人、 血管細いなぁ。だいじょうぶかな……。失敗したらどうしよう」と心の声(セルフトークといいます)が聞こえている場面で、「自分は今、不安なんだな」と自分の気持ちをくみ取り、不安を軽減させるようにします。 「今日はやさしい○○さんがリーダーだ。1度で入らなかったら正直に自信がないと話して代わってもらおう」といったように。
すると、自分自身への信頼が戻ってくるので気持ちが安定します。失敗しても決して自分をあざ笑うのでなく、「今回は失敗してしまったけれど、これをバネにしてがんばろう」と自分自身を受容しましょう。自分が自分の味方になるのです。失敗したとき、自分をあざ笑うという習慣を手放すことが大事なのです。
そして次に、「不安な表情は、患者さんをも不安にする。しっかり表情をマネジメントしよう」と自分に言い聞かせてから、患者さんの元に行くようにします。 自分の表情は見えないと前述しましたが、相手の表情を通して「自分が今、どんな表情をしているのか」を想像することはできます。向かう相手は鏡なのです。あなたの表情管理がうまくいっていれば、患者さんもこちらを信頼した表情をしているものです。
皆さん、失敗したとき自分のことをあざ笑う人を好きになれるでしょうか。なれませんよね。失敗したとき、クスっと笑う人は自分自身とうまく調和していないことがほとんどです。つまり自分自身を好きではないし、自分の気持ちも大切にできません。また自分の気持ちをくみ取る習慣がないので、自分を信頼することができません。自分ひとりすら信頼できない人は、 相手を信頼することができませんし、大切にすることも、気持ちをくみ取ることもできません。
相手の立場に立って自分のことをふり返ることができるかどうかというのは、かなり根源的なことで、まずは「自分自身と信頼関係がとれているか」を表すことだったりするのです。たかが表情、されど表情。コミュ ニケーションの前提は自分です。自分と調和できる人が、対峙する相手ともうまくコミュニケートできるのです。
表情管理をするというのは、患者さんがわれわれ医療者に「こんなときはこんな表情であってほしい」という願いをくみ取り、こちらが形(表情)にするコミュニ ケーションだということなのです。

「表情管理」のトレーニング ロールプレイでスキルを磨こう

今はとてもいい時代です。コミュニケーション力を高めたいと思えば、自分自身の対応を録画して見ることで、すぐにスキルアップできます。私の行う接遇トレーニングなどでもクレーム対応のロールプレーをしてその様子を録画してもらい、自分の表情や態度を見てもらってい ます。
自分の対応を客観的に見ることで、「相手の表情にペーシング(相手が悲しそうなときは悲しそうな表情、相手が楽しそうなら楽しそうな表情に合わせること)ができてないな」 とか「自分は早口で言葉が聞き取りにくいな」など、 いろいろな課題に気づくことができます。看護師役、 患者役になって、いろいろなペースの人と組んでロールプレイをしてみると、人それぞれで話すスピードや声のトーンが違ったり、ゆっくり間をとって話す人やせっかちでうなずくのがやたら多かったりする人がいるとわかりますし、何より自分自身の非言語的なク セに気づけます。
「百聞は一見に如かず」とはよく言ったもので、自分自身を見つめることが一番、表情管理のトレーニングになるのです。携帯電話ひとつあれば十分撮影可能ですから、表情管理をもっと身につけたい方やよくクレームを受けてしまうという方はぜひ、試してみてください。

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