患者さんやスタッフへの説明・指導時に「やってはいけない4つのこと」

相手に不快な思いをさせないために説明・指導で何に注意すべきか

看護師として現場で仕事をしていると患者さんやご家族に病状について説明したり、退院指導をしたりすることがありますね。また、ベテランになってくると指導者としてや管理者としてスタッフに説明や指導をする場面も増えます。皆さんもこれまでいろんな場面で人に「指導」を受ける機会があったと思います。その中で「なんでそんなに上から言われなきゃなんないの」と感じたり「一方的に意見を押し付けられた」と思ったりしたことがあったのではないでしょうか。人に説明したり、指導をするということは相手のあることなので結構むずかしいことだったりします。特に指導する対象が年上であったりする場合はなおさらです。
私は教育コンサルタントとして接遇委員会の指導などをしていますが、先日も患者さんのクレームを耳にする機会がありました。その内容は「自分の子どもくらいの歳の看護師から命令されて不愉快だった」という声でした。看護師はその仕事柄、患者さんの命を守るため厳しい内容の指導をしなければならないシーンもありますが、シビアな内容の指導が相手にとっては「ただ不快なだけのもの」になってしまうのはとても残念ですよね。
こんなふうにならないためにも今回は、人に説明や指導をする時に注意したいことをご紹介しようと思います。患者さんやご家族はもとより後輩や部下の指導時にも参考にしてもらえたら嬉しいです。

①笑いながら教える:
相手は「ばかにされている」と感じているかも

教育コンサルタントとして病院に関わっていてよく耳にするのがこの意見です。私もこうしたクセのある人をとても不快に感じます。「こんなことも知らないの?」なんていう本心が言葉になって表出してしまっています。こんな人、たしかにいますよね。こしたくせは、「自分は人よりも優秀だ」という自己認識をもっている人に多いように思います。でもそれはほんのちょっと優秀なだけ。本当にすごい人は「実るほど頭を垂れる稲穂かな」のことわざどおりに謙虚な人が多いものです。
何かを極めた方というのは、人としての余裕という のか、人格の魅力というのか、オーラがじわっとにじみ出ていて、指導されても「ばかにされている」とは感じません。それが「知性」というものなのかもしれませんが。また、前述した「ほんのちょっと優秀だ」という自己認識をもつ人が、みんながみんな「人をばかにしているのか」というとそうでもありません。
私は元教員でもありますが、同僚にとても生徒の面倒見がよいM先生という人がいました。M先生はいつも生徒を気にかけてかわいがっていましたが、何か教えるときにこの「笑いながら指導するくせ」がありました。あるとき、M先生の授業評価アンケートに1人の生徒が「先生のこのくせが気になる」と書いたことがあ り、M先生は落ち込んで私に相談をしてきました。話を聞くと、M先生は生徒の未熟さを愛しく思い、保護してあげたいという気持ちが強すぎ、それがどうやらそのくせにつながっているようでした。自分の指導する姿を自分で見ることはなかなかできません。本人は悪気がなく無意識であっても、人を不快にしてしまうことはあります。
ですから、指導する側に立つようになったら、自己研鑽(じこけんさん)に励むことはもちろんのこと、M先生のように自分の思い入れが高じると、逆効果になることもありうるということを念頭に置く必要がありそうです。こんなことを予防するためにも、自分の指導に対してアンケート聴取をするなど積極的なフィードバックを受ける機会をつくり、謙虚な姿勢を保ち続けることが大切です。

②専門用語ばかりを使う:
相手にとっても一般的な言葉を使おう

先日、私の会社にホームページをつくる業者が営業にきました。その人は「LPつくってプロダクトローンチやれば完璧ですよ」と言うのですが、みなさんは、この意味がわかるでしょうか。私は「??」でした。あとから調べたらLPというのは「商品ページ」のことで、 プロダクトローンチとは「商品を売り出す前から見込み客を集めて爆発的に売るマーケティング手法」なのだとわかりましたが、言われているときはさっぱりわ かりませんでした。この会社の前の担当者もこんなふうだったのですが、皆さんなら何を言われているかわからない人から商品を買いたいと思うでしょうか。 答えはNoですよね。「わざわざうちの会社まで来てくれたし、ニコニコして感じがいい人だったので買ってあげたい」とも思うのですが、高額なサービスだし、いまいち踏み込めない。結果、売れないわけですが、ここでその人も「自分のセールスの何が悪かった のか?」と自己を振り返ることをしなければ、ずっと「売れない理由」はわかりませんよね。でも、わざわざ私も人を傷つけるようなことを言いたくはないので、理由がわかっていても機会がなければ言わないわけです。
①の項目でも、指導する立場になったら「アンケート聴取が大切」と書きましたが、こうした理由からもフィードバックを受ける機会をつくることはとても大事です。自分の属する世界で「プロダクトローンチ」は常識でも、他の世界で生きている人にとっては違うのです。きっと皆さんにも「この説明の仕方(使う用語も含めて)で相手には伝わるはず」と思っても伝わらなかった、という経験があるだろうと思います。
それは、そのとき使った表現や言葉が「一般的でなかった」という証です。相手の属する世界でこの言葉 は「一般的であるのかどうか」と考え、「相手がわかる言葉で説明や指導ができる」という能力がある人が 「説明や指導が上手な人」であるのです
われわれ医療者は専門用語をたくさん使いますよ ね。例えば褥瘡は「床ずれ」、細菌は「ばい菌」というふうに一般的な言葉を使うことが「わかりやすさ」の キーポイントです。「患者さんに何回も説明したのに全然わかっていなかった」なんていうときには、「無意 識に専門用語を多用していたのではないか?」と振り返ってみるのも1つの方法です。人は自分が理解できていなくても、説明している相手に気を使って「うん うん」とうなずいて聞くことも多いからです。

③子ども扱いした表現や言葉を多用する:
「わかりやすい=幼稚な言葉」ではない

専門用語の多用は相手の理解を阻むと前述しまし た。説明や指導することが多い人に向けて、「10歳の子どもでもわかるように説明せよ」と言われることが多いのですが、私はこの言葉の意味を誤解すると逆に相手を不快にしてしまうので、気をつけないといけないと思っています。上記の表現は「それだけわかりや すく伝えよ」と言っているのであって、幼稚な言葉を 使えという意味ではないということです。
風邪が疑われる患者さんが「来週から出張なので二次感染の予防に抗生物質が欲しい」と言ったとしましょう。ここで、処方薬を手渡すとき「ばい菌を殺すお薬が出ましたよ」なんていうのはおかしいわけです。
この患者さんは「風邪が二次感染を起こす」と知っていますし、もしかすると「風邪はウイルスが引き起こすもので、ウイルスを直接叩く抗ウイルス薬はない。 二次感染を予防するには抗生物質が有効だ」というくらいの知識をもっているのかもしれません。そんな方に「ばい菌」なんて表現は幼稚すぎて合いませんし、「ばかにされた」と感じることもあります。相手がしっか りと知識をもっている場合は専門用語が一般的な表現となりうるのです
相手が理解できる言葉や表現を使用できることを 「一般化」と言います。相手の生活や背景をできるだけ理解し、使用している言葉をしっかりと受け止めるこ とでこの「一般化」する能力は高まります。

④相手の話を否定し、自分の意見を押しつける:
大事な退院指導が無意味になるかも

私が看護師だったころの経験ですが、糖尿病で血糖コントロールができずに教育入院となった患者さんに先輩看護師が退院指導をする場面に同席する機会がありました。先輩看護師がひとしきり指導を終えたあとで、患者さんが「でも仕事で営業だから飲みにいく機会は減らせない。血糖コントロールができるかは正直わからない」と言いました。するとその先輩は声を荒げて「そんなこと言ってると本当に死んじゃいますよ、 いいんですね」と言いました。そのとき、患者さんはその先輩にそれ以上は何も言い返さずに退院しましたが、半年後に高血糖で再入院してきました。私はこのとき、「この先輩の退院指導は結局、自分の意見を通しただけだったのではないか」と思いました。
われわれ医療者は、自己陶酔や自己満足の指導になっていないか、よほど注意しておく必要があるのではないかと思います。退院指導は、「患者さんには患者さんの生活があり、それを尊重しながら『何をどう していくか』『どうできるか』を医療者と患者さんが正直にディスカッションできる場」でなければ意味がないでしょう。医療者には、患者さんはとても遠慮をしているものだということをあらためて再認識しておかなければ、こうしたことが続いていくと私は思います。
今回ご紹介しました「やってはいけないこと」を参考 に、皆さんが患者さんと深い信頼関係を築いてくださ ることを願っています。

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【月刊】エキスパートナース2020年10月号「これからのナースに必要な力を伸ばす連載」より

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