組織活性化プロジェクトチームの作り方とその成果 

ワンランクUPポイント

  1. 顧客満足度向上と職員満足度向上を一緒にかなえることをめざしたチームの取り組みを紹介。
  2. 直接雇用に切り替えて人件費を大幅に削減。
  3. 定着率を上げるために教育力を上げる。

すごいプロジェクトチームの発足

お伝えするのは、私が教育支援にうかがっている 介護老人保健施設「カントリーハーベスト北本」のプロジェクトチームの組織活性化の成功事例です。

「FCプロジェクトチーム」のFとはフューチャーでCはカントリー。「未来のカントリーを作り出すプロジェクトチーム」の略です。

「FCプロジェクトチーム」(以下:FCチーム)は「利用者さんにもっとケアをやってあげたいと思っても人がいなさすぎてできない」「派遣が多く常勤者が不在になることがあり、管理が行き届かない。ひとりひとりが勝手に楽なやり方をしてしまったり、勝手なルールを作ったりしてしまい利用者へのサービスの質が低下してしまう」こうした悪循環をやはり利用者さんのために改善したい。そんなスタッフの思いと経営者の思いがひとつになり、発足しました。顧客満足度向上と職員満足度向上を一緒に叶えることを目指したチームです。

メンバーは理学療法士のWさん、北海道から通勤しているめずらしい働き方の看護師のSさん、介護員のKさん、ケアマネージャーのFさん、そして外部の支援者の私を入れた5名です。

私はこうしたプロジェクトチームを教育支援先の病院や介護施設で数多く立ち上げ、顧問をさせて頂いてきました。その中でもこのFCチームの作り出した成果は他のプロジェクトチームの比ではありません。組織にどれだけ貢献したかということを「貢献金額」と言いますが、チーム発足からたったの2カ月ですでにウン百万という「貢献金額」を生み出したFCチーム。

こんなチームはどんなふうに作っていくのか、チーム変遷に必要な条件、そして、作り出した貢献金額までの道のり、チームが今後、目指すことなどをここではご紹介させて頂きたいと思います。
コロナ禍が長引き、病院や介護施設等の経営の悪化やスタッフの離職など暗いニュースが多い昨今ですが、集合研修をyoutubeにアップして職員がどこでも学習できるようにしたり、組織の経営に貢献しようと派遣スタッフを直接雇用に切り替えるためにアプローチをしたり、入居者や加算を増やす取り組みをしたりとやる気のある職員が組織を牽引しているという成功例をご紹介することで皆さまに希望をお伝えすることができればと思います。

直接雇用を増やす取り組み

介護老人保健施設「カントリーハーベスト北本」の立地は最寄り駅から少々離れていて、決して電車通勤者が通いやすいとは言えません。近隣の人口密度も低く住民の方々の高齢化も進んでいるため、スタッフはどうしても派遣が多くなってしまうという実情がありました。

私はTNサクセス・コーチング(株)という会社を経営していて人材紹介や派遣もやっています。そんな私が言うのもなんですが、組織の直接雇用に比べると、どうしても派遣スタッフの時給は高くなります。通常の看護師のアルバイトなら時給が1600円や1800円というところですが、派遣になると一気に3000円や3200円といった時給になってしまいます。

これは我々のような派遣会社が利益を法外に釣り上げているというわけでもありません。常用派遣登録者の雇用や派遣先開拓のための営業スタッフの人件費に派遣社員への教育費(人材派遣は綿密な研修の実施が義務付けられています)や突然、派遣先に行けなくなったときのための代替要員の雇用、個人情報保護のための広めの面談室の設置などによる事務所費用などがかかるため、そのくらいの時給を設定しないと会社を維持できないという理由からどうしてもそのくらいの時給の設定になってしまうというのが正直なところです。

直接雇用の看護師ひとりの1日の日給が12800円くらいなのに対し、派遣看護師の日給は24000円ほどになります。つまり2倍。どんなに働きやすい環境であったとしても生身の人間を雇用している限り、職員の急な退職はさけられません。つねに採用率を上げる取組み(採用プロジェクトチーム運営など)をやってなければ、なかなか直接雇用は増えることはないでしょう。そうなると、急な離職に対して人員基準を満たすため、人材紹介や派遣会社を活用せざるを得ないという状況になってしまいます。

そんな状況を打破するため、FCチームはまずは「組織の直接雇用者を増やすことが急務だ!」とし、がむしゃらに派遣スタッフを病院の直接雇用に切り替えてもらえないかという説得をはじめました。(派遣会社にとっては1番さけたい状況と言えるでしょう。汗)メンバーの必死の努力の結果、なんと看護師は2名、介護士1名が見事、直接雇用に転換することになりました。

派遣看護師の時給が3200円とすると×7.5時間で、一日24000円。これに22日間をかけると528,000円で、年間640万円ほどの支払額となります。夜勤も行う常勤看護師の年収が420~500万円とすると140~220万円ほどが職員を直接雇用に切り替えると経費削減となります。プロジェクトチームで3名の職員の切り替えを促進できたので、その貢献金額は
看護師1人の年収分くらいになります。

FCチーム発足2カ月でこの成果を作り出すことができてしまい私も驚きました。私が関わらせて頂いたチームの中では1番の貢献金額を生み出す成果を上げてくれました。FCチームの活動を知り、直接応募の採用面談の申し込みが増えてきたということもあり、今後の成果も大いに期待が持てます。

 

プロジェクトチームリーダーの理学療法士のWさん 勤続年数は10年以上

組織の長の存在が現場を正しく導く

プロジェクトメンバーのK副主任は昇格して(R3年)から、スタッフへの育成面談の始めるようになりました。開始の理由は、スタッフから「話を聴いてほしい」「相談に乗ってほしい」との要望があったからといいます。そうした面談の中で前述した「直接雇用」を促す話をすることもできたそうですが、副主任という立場を頂いてからそうした表立っての相談が多くなってきて、成果もでていることをふり返り、「やっぱり立場って大事なんですね」とはK氏。「今までは自分なんかまだまだなんだから」という思いがあり、役職などを引き受けることをためらったこともあったと言います。

ですが、相談を持ち掛けてくるスタッフの話を傾聴することで現場に「どんな改善が必要なのか」ということがあらためてわかってきた。でもそれを改善するには、一般職や指導職の職位では難しいことが多く、(改善案を提案しても鼻で笑われるなど)組織をよりよくしていくためにはやはりそれなりの立場が必要なのだということがわかってきたと。私も同感でしっかりと現場を「マネジメント」していくにはリーダーシップが発揮できるような前提がなければ上手くいかないと思ってきました。

FCチームの顧問をさせて頂くことであらためてそのことを私自身も再確認することができました。K副主任の次の課題は、育成面談がしっかりとできることなのだそう。これまでは「直接雇用を増やして組織の人件費率を下げる」ことに集中していたので、スタッフのモチベーションを上げて組織に残ってもらうことに終始していて規律性や協調性に問題のあるスタッフへのフィードバックがおざなりになっていたので、今後はしっかりと個人のスタッフの課題をもフィードバックし、成長させるような面談ができるようになりたいと話してらっしゃいました。

役割が人を育てるとはよく言ったものですが、介護副主任のKさんを見ていると本当にその言葉が耳に響いてきます。とくに小規模の事業所などでは「うちは役職とかをとくに設けていないんです。横のつながりで上手く行っているので。」というところもありますが私はやはりしっかりと役職者を決めて「組織にしていく必要性」を感じています。FCカントリーのメンバーもタイムリーにそれを感じているのではないかと思います。

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プロジェクトの今後の方向性について

チーム発足から 2 カ月が経過した時点で、今後の方向性を考えるために、私はプロジェクトメンバーとディスカッションを行いました。以下ではその内容をお伝えします。

チームのミッションは「教育力を上げる」

奥山:「チームのミッションには『教育力を上げる』というものもありますよね。

W:(プロジェクトリーダー):「人が入ってきても大切に育てなければすぐに辞めてしまう。常勤が少なく派遣が多いとなると新人の教育担当者の固定ができない。その都度、違う誰かに業務を教わることになるし、『えっ?そのやり方って誰が教えたの?そもそも違うんだけど』ということも多くなる。
そして新人は『人それぞれやり方が違っていて一体どうしたらいいんですか』と迷いながら、せっかく入ってきたのに最後は辞めてしまう。この悪循環をなんとかしないといけないんだよね」とは、

~メンバーみな、うなずく~

K:「本当にそう思います!私が来たときも、みんな仕事の教え方がバラバラで困りました」

S:「私も私も。ホント、そうです。私なんて勤務経験が長くて老健は他にもたくさん経験してきたからまあ、こんなふうにやっていれば大丈夫かな、って自分で判断できたからいいですけど、これ、新卒なんかが入ってきたらとても困ると思うんですよね」

F:「ホント、そうですよね。しっかりこの人から教わってねって環境がつくれたらいいですよね。」

W:「そのためにも直接雇用とか常勤を増やさないといけないんだよね」

S:「これみて勉強してね、っていう教科書みたいなものもあったらいいなって」

奥山:「プロジェクトでは、各職種別のラダーの整備を始めてますもんね。それも教科書的なものに含まれます。あと、急ピッチで進めている『人事評価と共育マニュアルの整備』

K:「はい、そうです。今、介護の方もようやくラダーを作成し始めました。やっぱり指標みたいなのがあるとホントに仕事がやりやすいし、教えやすいと思います。これまでT主任と作りたい、作りたいって言ってたんですけど、日々の業務に追われてなかなかできなくて…。このプロジェクトで看護のラダーができたので、よし、介護もって。ずいぶん変わってきてます。プロジェクトがなかったらなかなかできなかったと思います。これまで何度も作ろうよ、作ろうよって言っててできなかったですもん。Sさんがテレワークでいろんなものとにかくたくさん1日でババッと作ってくれてホント助かってます」

F:「目の前の仕事で手一杯ってなるとなかなか進まないですよね。嬉しい悲鳴ですけど最近はグンと入所者が増えたので、その手続きとか業務とかに追われちゃいますもんね」

S:「そうですよね!すんごい入所者さん増えましたよね、最近」

W:「営業がんばってるからね(笑)」

全員:すごい!

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テレワークでプロジェクトに必要な書類作成

W:「鈴木さん、すごいよね。北海道からのテレワークでこれあったらいいのにな、っていう書類めちゃすぐに作ってくれてここ何年間の悩みが一気に解決された。それがすごい。いろいろ作ったよね。」

S:「ホント、めちゃくちゃ頑張って作ってますからね。ここ2カ月で作成したのは看護業務マニュアル、高齢者施設用のラダー、インシデント、アクシデント、事故報告書、苦情報告書(利用者からの)、入所者向けの「施設利用案内」の作成、入所のご案内のリニューアル版、看取りに関する手引書、共育マニュアル(制作続行中)ですね。」

全員:すごい!

奥山:「Sさんは北海道に旦那さんのお仕事でお引越しされて、今、現住所は北海道ですよね。でも、14日間を埼玉にでてきて看護師として実務をして、残りの8日間の勤務は北海道でテレワークという勤務ですよね。それこそ新しい時代の働き方ですよね。ポストコロナ時代の!テレワークは集中できますか?」

S:「はい。すごくできます。やっぱり現場にいるといくら部屋にこもって作成しようとしても『すいません、ちょっと急変があって、来てもらえませんか』『スタッフの〇〇さん、体調悪くて帰ってしまって入浴介助やってもらえませんか』とかで呼ばれることが多くて結局、全然、制作物が進まないっていうのが実情なんで、テレワークってすごくいいなって思います。」

奥山:「それはホントにそうですよね。私も執筆とか一人でこもってやらないと進まないからわかりますよ、それ。弊社もコロナ禍で事務職はテレワークとかになったけど、やっぱりテレワークは人によるかな、とも思います。さぼる気になればできるからね。」

S:「誠昇会でのやり方は電話をいつでもでれる状態にしておくことと、すぐにzoomとかができるような環境にしておいて緊急でカンファレンスとかが必要になったら私がアドレスを作って送るなどしています。あとは奥山先生からアドバイス頂いて作成した書くだけでPDCAサイクルが回るようになっている業務日報を書いて仕事の質をあげるふり返りをすることと、ボリュームにもよりますが、一日に最低6つのワード資料を制作して成果物として納めるのを目標にしています。」

奥山:「組織でも初めての試み(北海道からの常勤&テレワーク)だからその都度、相談しながら進めるって感じですかね。」

S:「そうです、そうです。」

奥山:「ちょっとテレワークの話題になってしまいましたが、「職員の直接雇用と定着率を上げるために、教育力の引き上げが重要で、その一環として、教科書的な物やマネジメントに必要な物を制作し始めたが、とても進んでいるっていうことですね。」

全員:「そうです」

自発的な研修参加率80%超え

K・W:「職員の中にもまだまだ『ハラスメント的な言い方』をする人もいるみたいでいろんな物の整備も必要なんですけど、「共育マニュアル」を早く作り上げて、「こういう言い方はハラスメントになるからよそう。とか気をつけてくれたらなって思っています。物やシステムがそろっていても結局人が人を教えるので、「教える人が優しい」っていうのが職員の定着には重要なポイントになってくると思いますから。直接雇用の職員なら「その言い方はよくないから改善して」って言いやすいんですけど、たくさん派遣で人が出入りしてしまうと管理職でもその人と1回も会ったことがないっていうこともででくるので、指導が行き届かないんですよね。

奥山:なるほど。だから先月の全体職員研修は「ハラスメント予防」だったんですね。コロナ禍だからzoomでやっていますけど、考えようによっては簡単に録画ができるから、お休みの職員は後でみれるからいいですよね。こんなやり方もコロナの蔓延をリソースにしたと言えますね。

F:「YouTubeのチャンネルを作ったのでそこにアップして職員だけが見れるように限定公開にしています。結構、見てるみたいですよ。」

奥山:「画期的ですね!自発的なe-learning化ですね。すごい、すごい。」

S・W:「YouTubeもすごいんですけど、もっとメンバーが驚いているのは80%を超える研修参加率なんですよ。みんな勤務終わってから自発的に参加してんですよ!」

奥山:「参加してもいいし、しなくてもいいっていう前提での研修なのにその参加率ってすごいですね。私、お邪魔している病院や組織では自主性に任せた研修でそこまでの参加率ってないと思います。あらためてすごいですね。どんなふうに声かけているんですか」

S:1カ月前くらいにポスターみたいなものを作成して、掲示して出れない人はYouTubeで見てもいいし、もちろん自宅からでても顔出ししなくてもいいですよって言ってます。ただ、出てくれた人は把握したいので、出欠の確認だけはコメント欄に「鈴木でます」とか入れてもらうようにしてますけど…。」

F・K:「逆に、zoomとかやり方が不安だから休みだけど職場で見たいってわざわざ来てくれる人もいるんですよね。嬉しいことに。」

S・W:「そうなんだよね、ハハハ。強制しないと「みんなで受けたいから」って出てくる。人間って不思議ですよね。(笑)そして、みんな学びたいって気持ちが強くあったんだなって、感心してます。企画するのも楽しくなりますよね。参加率高いと。」

奥山:なんだか、相乗効果ですね!人には「心理的リアクタンス」っていうちょっとあまのじゃく的なところがあって、強制されると逆をやりたいっていうのがありますからね。自分で決める、決めたっていうことを大事にするというところがあるので、そういうことかもしれませんね。「出てもいいし、出なくてもいいですよ」「来てもいいし、来なくてもいいですよ」ってね。偶然に「じゃ、行こうかな」って。

全員:なるほど!なんかわかる気がしますね、それ。

奥山:研修参加率80%の維持と「共育マニュアル」の完成でさらに人が定着する組織を作りましょうね!我々も、今のところキツイ言い方になっている人達も「教わってように教えてるだけ」ですから、「教えることで共に育つ」共育をめざしていきましょう。人間、完璧な人なんていないんだからゆっくりと成長していけばいいと思います。

全員:うなずく

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