新任教員はなぜ去ってしまうのか(前編)

※看護展望 2015-1 Vol.40 no.1掲載、ブログにするにあたりメヂカルフレンド社より許可を頂いております。

「教え方を教わらない」まま現場に立つ怖さ

新任教員を取り巻く環境について筆者の体験から思うこと

 

私は5年一貫教育校の教諭を経て、民間の看護専門学校(以下、看護学校)に教員として転職しました。
転職後にまず驚いたのは、3月31日まで看護師として勤めていた人が、十分な教育もなされないまま4月1日から
教員としてバリバリ活躍しなくてはならない
ということでした。

私が最初に勤めていた学校は、5年一貫教育を行っている県立高校だったので採用後は教育公務員となります。
採用試験合格後は同県の新人教員が一斉に集められ、初任者研修が1年間しっかりとありました。
看護だけではなく、国語、数学、理科、社会、英語、体育といった普通教科の教員も強制参加
授業研究生徒指導の方法を身につける研修はもちろんのこと、
団体行動でコミュニケーション力を養うためと称した「山登り」などもありました。
また、教員1年目は学校でも初任者として扱われます。
まずは学年付(学年に所属し担任の補佐などを行う見習いのようなもの)や副担任などの役割を与えられ
じっくりと1年間は先輩教諭の指導を見て学べるようなシステムになっていました。

こうした環境下で育った私には、転職先の看護学校の新任教員の受け入れ体制がとても乱暴に思えました。
ただ、教員研修やセミナーでこの話をした際に、多くの先生方が涙ながらに共感してくださるところを見ると、
筆者が勤務していた看護学校ばかりでなく、
多くの学校で新任教員の受け入れや教育システムにはまだまだ課題があるのだろうと思います。
そのため、本来は教員に向いているような人をしっかりと育てられずにその人が退職してしまったり、
煩雑な業務にとにかく慣れようとして疲れ果て、教育のおもしろさを実感する前に離職してしまったりと、
こんなことが起こっているのではないでしょうか。
新任教員が学校現場に定着するにはどんな受け入れ体制やしくみがあればよいのか
教育のおもしろさを実感するには新任教員自身にどんなスキルがあればよいのか
どんなことを学べばよいのかを現場目線で考えてみたいと思います。

学校現場こそOJTが必要だが……

看護教員の働く場所は主に学校実習場です。

学校生活では座学や試験校内演習や学校行事などで学生の知性と感性を育て
臨地実習では専門職業人として必要な知識、技術、態度、あり方を育てるため、
学校と実習場で指導をするというスタイルになります。
看護師の経験を生かして実習場での指導はなんとかなるにしても、
授業やテストの作成に評価、さらには、学生の生活指導や問題行動への対応といったことは、
いくら教員養成の研修を受講したとしても、経験がなければ初めはかなり難しいと思います。
筆者は高校で教員をしていたとき、新任の先生方とも数多く仕事をしてきました。
いくら教育学部を卒業して倍率何十倍ともいわれる教員採用試験を突破した人でも
初めて学生の前で連絡をしたり授業をしたりするのはとても緊張するようでした。
何十時間もの教育実習を経て教員になった人でも、
初めて教壇に立つと本当にしどろもどろで、学生からばかにされたりからかわれたりします
そんなときは学年主任が助け舟を出して新任教員がうまく学生に溶け込めるようにサポートしていました。
また、日々の授業や生徒指導の実際を見せながら
先生だったらどう指導する?
この学生をどんな方法でどう伸ばす?
などと考えさせながら育てる。そういう風土がありました。
そうしているうちに新任の先生方も日々一歩ずつ教員らしくたくましくなっていかれる。
そんな場面を見ると、やはり「学ぶとは真似ることから始まるのだな」ということを実感させられるような毎日でした。

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ほめ方・叱り方 ④ 恐育から共育へ

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縦割りの課での業務が教員としての指導力をあげる

ほかの教育機関でうまくいっている方法は積極的に取り入れる

 

高校では1人の教員が学年という横軸で学生を見るのと同時に、
生徒課教務課進路課総務課保健課、といった縦割りの組織に所属し、
○○高校の一人として対象の学生を見るというシステムがありました。
このしくみは学生を客観的に見ることができるようになることと同時に、
教員としての指導力を高めるのにとても役に立っていたと思います。

生徒課

具体的にいうと、新任のときは、まずは生徒課に配属されます。
生徒課は主に学生の生活態度の指導を行う課です。
学校の決まりを守り、学生として望ましい生活を送れるように指導をします。
学則に沿った身なりや髪形かどうかを見るため、定期的に服装や頭髪検査などをするような課です。
読者の皆さんも少なからず高校生の頃、前髪をもっと短く切りなさいとか、
制服のスカートの丈が短すぎるなどの指導をされたことがあったのではないでしょうか。
そういった日々の学生の生活指導は生徒課が担当します。
ほかには夏休みや春休みなどの長期休み中の過ごし方
(22時以降は外出はしない、赤点がある学生のアルバイトは禁止[どうしてもしたいときは届け出を出す]、など)や
遅刻にカンニングに万引きなどの問題行動に対して、停学などの処分を決め、指導をする
反省に応じて停学を解き、クラスに復帰させ馴染ませる
こうした生活の指導を行う生徒課に新任教員が配属されることで、かなりの生徒指導力が身に付きます。
生徒課で3年ほど修行を積ませてから担任をさせるなど、
担任をさせた後もしっかりと生徒指導ができるように配慮されていたと思います。

教務課

教務課は、カリキュラムや日々の時間割の調整、定期テストや評定など、学習に関すること全般を管理する課です。
定期的に学習時間調査などを行い、家庭学習の習慣化を促したり、
勉強の仕方がわからない学生には学習の仕方そのものを教えたりしながら、
学生がしっかりと学べるようなサポートをします。
生徒課の後に教務課に配属されると、一層学校のしくみがわかり、学生の学習面でのサポートができるようになります

進路課

進路課では模擬テストの実施進路相談進学先の学校訪問就職先の開拓訪問
試験対策として小論文の添削や面接の練習などを担当する課です。
卒業生が勤めている病院を訪問して活躍している姿を見ると、学生の未来をありありと思い浮かべることができ、
学校と就職先のつながりも理解できるようになります。
ですので、あらためて学生時代に身につけさせないといけない態度やあり方、学力などがわかり、
日々の学生指導にも力が入ります。進路課を経ることでは、このような視点が身につきます。

総務課・保健課

総務課は学校行事全般を司り、学生に礼節を教えます
保健課は主に体調不良の学生の擁護健康診断の実施健康管理
メンタル面でサポートを必要とする学生の支援や、校内美化の促進などを行います。
近年は不登校や過呼吸、リストカットを繰り返す学生が増え、教員の対応力の向上が叫ばれています。
保健課は学校医と連携を取りながら、教員は具体的にどんな対応をすべきかを示していくという役割を担います。
また、保健課の対象は学生のみならず学校で働く教職員でもあるのが、すばらしい点です。
新任教員が行き詰まりを感じたり、だれかに支えてほしいと思ったときには、
保健室に行き養護教諭の先生にじっくりと話を聴いてもらったりすることができるのです。
教員も人間ですから、悩んだりつらくなったりすることもあります。
そんなとき、中立の立場で教員自身を支えてくれる場が身近にあるということは非常にありがたいと思います。
私も新人の頃は、よく保健課の先生に支えてもらい、どれだけ力になってもらったかわかりません。
看護学校のように保健室がない職場であればなおのこと、同僚や先輩が親身になったり
メンタルをサポートできるしくみをつくったりすることが重要ではないでしょうか。
結局、保健課に所属することもまた学生の心身のサポートをするうえで貴重な経験になります。
さらに教員自身のメンタル面も含めた健康管理ができるようになることも教員としての持久力をつけるうえで大切だと思います。

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【性格分析ファイル(自己成長エゴグラム)】
なぜ、あの学生がかわいく思えないのか? 教員だって人間ですから(笑)
自分と合う学生、合わない学生はいるものです。
学生や他の教員との相性を見るには「オーバーラップエグゴラム」をオススメします。
まずは、50問の質問に答えて、自分自身のエゴグラムを完成させてみましょう。
課題をもって生活すれば、エゴグラムは自由自在に変えることができ、その意味で「自己成長エゴグラム」といいます。
大人しすぎてカンファレンスで発言できない学生、逆に挑戦的な自己主張をしすぎの学生がなぜそうなのか、わかります。
クラス全員のデータを見て、騒がしいクラス、大人しすぎるクラスがなぜできるのかもわかるので、集団分析にも看護研究にもオススメです。

一度ダウンロードすればデータを消して、半永久的に活用できます。
ダウンロードはこちら
*分析の解説を希望される方はこちら

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自分のクラスの学生がほかの教員から叱られたとき感謝できるような風土を

縦割りの課の役割と得られることに関して詳しく書きましたが、
結局のところ学校の業務を機能的に様々な角度から体験することは、学校のしくみを深く理解することにつながり、
その理解が日々の学生指導に生きてくるのだといえるのではないでしょうか。
自分の学年ばかりを見ていると愛着がわき「うちのクラスの学生をほかの学年の教員が叱った」というようなときに、
正直、おもしろくないということも起こります。
高校では縦割りで生徒を見ているので「教員みんなでひとりの生徒を育てている」という意識が高く、
ほかの教員が自分のクラスの生徒を叱ってくれたときは「ありがとうございます」と感謝する風土があったのではないかと思います。
対して、民間の看護学校の職員室では
「○○先生、うちのクラスに文句を言うのいいけど、自分はちゃんとできてるつもりなのかな」
などの愚痴をよく聞きました。
学年の結束が強すぎて、ほかの教員が自分のクラスの学生を叱ることを受け入れられないような風土があったように思います。
学年を超えて学生を育てる風土をつくっていこうとするとき、
前述した高校の縦割りの課のしくみはずいぶんと参考になるのではないでしょうか。
看護学校では縦割りの業務はここまでしっかりと組織化する必要はないかもしれませんが、
進路指導は全体の学年でやっていこうだとか、保健課に変わる役割をつくってみようか、
などと取り入れていけるところからやってみるというのもよいのではないでしょうか。

 

看護学校は専門教育なのだから、そもそも生活指導などの基礎教育はやる必要がない?

 

以前、問題行動が多い学校では、
前述した生徒課という組織をつくってみたらどうでしょうかと提案させてもらったことがありましたが、
看護学校は専門教育なんだからそもそも生活指導などの基礎教育はやる必要がないんだ
とおっしゃる看護学校の先生がいました。
「基礎教育で徹底すべき」といえばそうでしょうが、私は必然性で考えればよいのではないかと思ってきました。
目の前の学生が提出物の期限を守れない、遅刻が多い、服装が乱れ気味だとか、すべてにおいてだらしないのだとか、
しっかりと生活を送る力がないというのであれば、そのまま社会に送り出すのは心配です。
ですからそういった「生きる力」を育てて卒業させればよいだけではないかと思うのです。
専門教育といえども最近の学生たちを見ると、実年齢よりもずっと幼いなと感じることがあります
私は教育コンサルタントとして病院の看護師の採用にかかわることも多いですが、
しっかりと「生活する力」がない新人を入職させてしまうと病院では本当に苦労します。
また、患者に迷惑がかかります
ですので「基礎教育ですべき」などの論議はひとまず横において、
育っていないのであれば、育てて卒業させる」のが現実的で大切なことなのではないかと思います。

 

新任教員を育てる環境づくりが大切

 

しかし、こんなふうに手取り足取り育てられても、やはり初担任となれば眠れぬ夜が続きます。
学生から授業がわかりにくいと言われては落ち込み
学生と気持ちをぶつけ合い向き合えたと思っていたら、不登校になってしまった。
自分の指導のせいではないかと過度にショックを受けたり、モンスターのような保護者の対応に悩ませられたりと、
こうした日常に心身ともに疲れ果ててしまうのが新任の頃です。
このとき、周りに親身になって支えてくれる先輩がいるかどうかが新任教員の離職を左右すると思います。
臨床では新人には実地指導者がつき、一人立ちできるように1年間くらいはしっかりと育てると思いますが、
学校現場もせめて3か月は指導者がついて学べるようになればよいのにと思います。

 

新任教員に教える力をつけさせ、教える喜びを味あわせる

 

これまで新任教員を受け入れる学校側が参考にしてほしい内容について書いてきましたが、
次は新任教員自身が身につけておくと教育の面白さを実感できることについて考えてみたいと思います。

 

【新任教員はなぜ去ってしまうのか(後編)】~医師が最も講義を受けたい教授 高橋泰教授対談~はこちら

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