看護学生の悩み “社会人経験者”と“現役”の間の溝を解消したい!

看護学校が高校までと一番違っているところは、いろんな年代の学生がいるということですよね。
同年代の学生ばかりで進展しなくなった話し合いに、社会人経験のある学生の意見が入ると目からウロコ。
あっという間に解決することがあります。
でも反対に、年上の学生の強~い主張にクラスが仕切られてしまう……そんなこともあるようです。
今回は個性の強い年上の学生とのかかわりに悩むY・Aくんの悩みにお答えしましょう。

“社会人経験者”と“現役”の間の溝を解消したい!

Y・Aくん
Y・Aくん
みなっち先生、こんにちは。
僕はクラス委員長なのですが、クラスのなかで最年長のSさんのことで悩んでいます。
Sさんは38歳で、小学生と保育園児の2人の子どもがいます。
社会人経験も豊富で、この学校にはキャリアアップのために入学してきたそうです。
Sさんは委員長でもないのに話し合いを仕切ったり、係の仕事を勝手に変更したりします。
また、クラスの子をつかまえてはお説教みたいなことをするので、困って僕のところに相談に来る学生が多いんです。
それにSさんは、放課後みんなでグループワークの作業をするときに保育園のお迎えやアルバイトで帰ることが多くて……。
だからクラスのなかにはSさんに反感をもつ人がけっこういます。
せっかく一緒のクラスになったんだし、僕が何とかしなくては!と思うのですが、年上の方なのでやっぱり言いづらいです。
みなっち先生、どうすればうまくいきますか?

 

Y・Aくんに質問 Sさんはどうして自分の考えを押しつけるのだと思いますか?

 

ズバリそれは、Sさんが“自分は正しい”と思っているから
Sさんのセリフからもそれはわかります。
「看護学校に入学してきたのに看護師をやらないなんておかしい。そういう人は大学に行くべきだ」。
こういう表現をする人の考え方を“べき思考”といいます。
こういう人は「~すべき」「~しなければならない」というように物事を考えています
この思考は、マジメな人に多いものです。

確かに、社会のルールや「こうあるべき」という理想は大切です。
ルールをきちんと守る人や理想の実現に向けて頑張っている人を見ると、こちらもさわやかな気分になりますよね。
でも、どんなに正しい考えであっても押しつけられると、人はイヤな気分になります。
この“べき思考”は、その人が育った環境や受けた教育によって身につきます。
そして人生経験を多く積むことによって強化されるものなのです。
Sさんは、ほかの学生より人生経験が長いぶん、よけいにこうした考え方になってしまうのでしょう。

また、Sさんには幼い子どもが2人います。子育ての最中だということもこういった言動の誘因かもしれません。
幼い子どもには「お友達とは仲良くしなくちゃいけないよ」
「外から帰ったら手洗い、うがいをしなくちゃいけないよ」などと教育しますね。
つまり、Sさんは「友達とは仲良くすべき」とか、
「手洗い、うがいをしなければならない」と教える立場であるワケです。
その延長で、Sさんは
「自分は年上なんだから、自分の歳の半分くらいの学生たちにはいろいろと教えてあげなくちゃいけない」
という親のような気持ちで「~すべき」を押しつけてしまっているのでしょう。
もちろん、ほかの学生にとってSさんは親ではないので、言われるほうはたまったもんじゃありませんね。
でも、もしかすると、Sさんにとってそれらの言動は、愛情からの発信かもしれないのです。

Sさん
Sさん
どうして考えを押しつけてはいけないんですか?
その人が経験する機会を奪ってしまうからです
みなっち
みなっち

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確かに「~すべきだ」という人の見方が正しいということもあるでしょう。
でも、人はそれぞれに固有の時間を生きているのです。

たとえばSさんが新型インフルエンザにかかったとしましょう。
とても苦しくて「こんなことなら予防接種を受けておけばよかった」と、とても後悔したとします。
するとまだかかっていない人に、つい「絶対、予防接種をしたほうがいいよ!」とアドバイスしたくなると思います。
アドバイスされた人はインフルエンザにかかっても軽く済むかもしれないし、今年はかからないかもしれません。
次の年、「予防接種なんてしなくてもぜ~んぜん平気!」とタカをくくっていたら突然発症!
何日も実習を休む羽目になり、「あ~あ、やっぱり予防接種したほうがよかったなぁ」と思うのかもしれません。
こんなふうに、人はほかの人からアドバイスをされるより、自分で経験したほうが教訓を得ることができます。
人それぞれ、あることを経験するのにベストな“時”があるのです。
「~すべきだ」と考えを押しつけてしまうことは、たとえ正しいことであっても、
その人がいろんなことを経験する機会を奪ってしまうことになります。

“べき思考”のSさんに対して
どう対処すればいいのか解決策を考えてみましょう

 

[解決策その1]
クラス委員長の仕事とは何かをはっきりさせる

 

Y・Aくんの相談メールには、
「Sさんは委員長でもないのに話し合いを仕切ったり、係の仕事を勝手に変更したりします」とあります。
そこでY・Aくんに質問です。
クラス委員長の仕事って何でしょうか?箇条書きでいくつか書き出してみましょう。

書き出せましたか?Y・Aくんならきっとたくさん書き出せたと思います。たとえば……

クラスの話し合いの司会・進行
クラスの役割や係の仕事の確認
クラスで起こった問題の解決をリードする

……などでしょうか。
それぞれの学校でクラス委員長の役割というものが決まっていると思いますので、先生に確認してみるのもいいでしょう。
もし、はっきりと決まっていなかったら、Y・Aくんのクラスで
上記のような役割はクラス委員長がする」とみんなで話し合って決めればいいのです。
効果的な話し合いをリードすることをファシリテーションといいます。

たいていの学生は、上記のような役割はクラス委員長の仕事だと思っています。
でも、Sさんはそうは思っていないのです。
掃除を忘れて帰ってダメ出しされた人も、はっきりとわかっていないでしょう。
そう、ココが問題なのです!
みんながクラス委員長の権限や役割をきちんと理解していたら、Sさんも暴走できないでしょうし、
掃除を忘れてダメ出しされる人も、「それはクラス委員長が言うことだと思うけど?」と言い返すことができます。

 

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[解決策その2]
Sさんと腹を割って話す

 

Sさんを説得するとき、できれば、Sさんの気分を害さないような言い方ができたらステキですね。
たとえば、
僕のすべきことを代わりにやってくれてありがとうございます。
これからは僕がクラスの話し合いや係の仕事の確認などをしっかりやるので、Sさんは見守っていてくださいね

なーんて、こんなふうに言ってみてはどうでしょう。
私が看護教員時代に受け持ったクラスでも、実は同じようなことがありました。
これはそのときのクラス委員長が実際にこんなふうに言ってうまくいったというセリフです。
ですからきっとY・Aくんも、Sさんにうまく思いを伝えることができるはず!
こんなふうに言えたらSさんのことも傷つけず、みんなの気持ちも守ることができるでしょう。
そして、さらに頼りがいのあるクラス委員長としてみんなに一目置かれるようになると思いますよ♪

POINT
Sさんがよく使う言葉「すべき」を取り入れて、Sさんに受容してもらいやすくします。

  

 

[解決策その3]
先生からSさんに「放課後の作業も大事な学習なので参加するように」と話してもらう

 

グループで放課後残って作業しなくてはならないときに、
「保育園に迎えに行かなきゃいけないから」
「私は自分で学費を払っていてアルバイトがあるから」
といった理由で帰ることに関しては、うやむやにしてはいけません。
Sさんがこれ以上クラスメートに反感をもたれないようにするためにも、
きちんと参加してもらうようにしたほうがいいでしょう。

ただ、これはやっぱり教員でないと言いづらいことだと思います。
Sさんを傷つけず、クラスメートとの仲も悪くならないように伝えることができる先生を選んでうまく話してもらいましょうね。

 

 

[解決策その4]
患者さんの事例とイソップ童話『北風と太陽』を読み、クラスで考える時間をとる

 

担任の先生など信頼できる先生にSさんの言動を話し、協力を仰ぐのも一つの方法です。
こんな協力の仰ぎ方はどうでしょう。授業や実習準備の時間などを使って、事例の検討をするというものです。

次のような事例についてグループで話し合う時間をとります。
自分だったらどんなふうにするか、どうやったら患者さんに受け入れてもらえる指導ができるか、などについてみんなで考えます。

事例「みんなでよりよい患者指導のあり方を考えてみよう」
実習で受け持った糖尿病患者さんが間食をやめられず、血糖値が下がりません。
本人は「間食していない」と言い張るのですが、HbA1cの検査値も高く、間食をしているのはほぼ間違いありません。
あなたが患者さんの部屋の環境調整にいくと、ゴミ箱にお菓子の包み紙が捨ててありました。
その包み紙を拾って「これ、食べたんですか?」と確認すると、「お見舞いに来た家族が食べた」と言います。
困ったあなたは、間食がもたらす弊害についてのパンフレットを作成して指導しようと計画を立てました。
できたてのパンフレットを片手にさっそく指導を始めようとすると、なんと患者さんは
「間食、間食ってうるさい!食べたいものをガマンしなくちゃならない気持ちが
あんたなんかにわかってたまるか!もう出て行け!」と怒ってしまいました。

 

ひとしきり意見が出尽くしたら、次にイソップ童話の『北風と太陽』という物語を打ち込んだプリントを渡し、みんなでそれぞれに読みます。
皆さんはこの『北風と太陽』のお話を覚えているでしょうか。
物語のあらすじはこうです。

<『北風と太陽』のあらすじ>
北風と太陽はどっちが旅人のコートを脱がせることができるかで競争します。
最初は北風の番です。
北風は「ようし、みてろ」と、ビューっと強い風を吹かせてコートをはぎ取ろうとします。
すると旅人はコートを脱ぐどころか襟を立てて寒さをしのごうとしました。
「なにくそ」と、もっと強い風を吹かせると、今度は旅人がうずくまってしまいました。
次は太陽の番です。
太陽がポカポカと日を照らすと旅人は再び歩き出しました。
太陽がさらにサンサンと照らすと旅人はいとも簡単にコートを脱いでしまいました。
勝負は太陽が勝ったのです。

……と、こんなお話でしたね。

 

そのうえでもう一度、よりよい患者指導のあり方について話し合います。
“自分のしようとした指導は北風か、それとも太陽か”を考えるのです。
このあたりでSさんはきっと、今までの自分のクラスメートに対する接し方が北風であったことに気づくと思います。
人は、他人から言われると認められず反発することも、自分で気づいたことは自ら改めようとするものです。

 

Sさんほどではないにせよ、クラスには“北風予備軍”の学生がたくさんいます。
その人たちも物語を読むことで、
「もしかして私、北風になってるかも。このままではいけないな、太陽のようにならなくっちゃ!」
と思うことでしょう。
クラス全体が太陽のようになれたらとってもステキですよね!!

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Aくん、参考になりましたか?
報告のおたより待ってます!
Sさんが気づかせてくれたんだってことを
忘れないようにね
Sさんがいなかったら
みんな“北風”だったんじゃないの?
人は批判されることを嫌うが、
自ら気づいたことは
すぐに正すことができるものじゃ
“罪を憎んで人を憎まず”じゃな

物事を見るときは、ミクロとマクロの視点が大切です。
今回のことをミクロの視点だけで見ると“Sさんが悪い”と見えるだけです。
でもこんなふうにクラスで事例を検討して“太陽”のような人を多くすることができたとしたら、
これほどすばらしいことはないですよね。
こんなふうに、全体としてどうなるのかを見るマクロの視点も重要なのです!

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