座談会「燃えるチーム」のつくり方 後編

日本看護協会出版会「看護」連載「相手も自分も責めないコミュニケーション術」では現在進行形でお伝えする「燃えるチーム」のつくり方1現在進行形でお伝えする「燃えるチーム」のつくり方22回わたりにをお届けしました。

今回は特別編として、組織内・地域内で多職種が参加する燃えるチームをつくりあげ、在宅医療に貢献する2人の医師をゲストに迎え、その理念や工夫について掘り下げました。
座談会「燃えるチーム」のつくり方 前編はこちら

参加者:高瀬 義昌(医療法人至高会 たかせクリニック理事長)
佐々木 淳(医療法人社団悠翔会 理事長・診療部長)
司 会:奥山 美奈(看護師・TNサクセス・コーチング株式会社代表取締役)

組織としての発信

佐々木先生
佐々木先生
髙瀬先生のクリニックのように知名度が高かったり、うちのように規模が大きくなってきたりするとあそこは商業的じゃないかって言われることもあるんですよね。
佐々木先生
佐々木先生
でも、患者さんがたくさん集まっているのは、1つひとつの診療を積み重ね、地域の事業所や病院からご紹介いただいた結果です。
佐々木先生
佐々木先生
昔の一部の老人ホームのようにペイバックして患者さんを買っているわけではない。だから、うちでは患者さんとのやりとりや、心のつながりなど丁寧な積み重ねが在宅医療なのだときちんと発信しています。
佐々木先生がFacebookなどでコロナに関しても非常に真摯な内容を書いていらっしゃるのはそういった真の在宅医療のあり方を伝えるという思いがあってのことなのですね。
奥山
奥山
佐々木先生
佐々木先生
純粋にこれ以上感染が広がったら困るので、ちょっとでも気を付けてくれる人が増えればという切なる思いもあります。
佐々木先生
佐々木先生
ただ法人としてどう考えているかはきちんと伝えていく必要はあると思っています。
私もSNSとか雑誌の連載とかで発信をしていますので、そういった活動で期待値が膨れ上がってしまうようで、実際に合ってがっくりされてしまうことも……。
奥山
奥山
発信はすべきだと思うのですが、発信の仕方とか内容は気を付けないといけないなと思っています。髙瀬先生はいかがですか。
奥山
奥山
高瀬先生
高瀬先生
僕がいま一番興味を持って情報発信しているのはポリファーマシー対策かな。現場を見ている中で、この状況を皆に知ってもらい、変えていったほうがいいよね、ということを紙媒体や講演などで発信しています。
高瀬先生
高瀬先生
講演は全国でもやっていますが、地域での発信も大切にしています。でも僕のファンは、開業している医師とか、看護師さんでも訪問看護ステーションや施設を運営している上の立場の人が多くて、スタッフの募集にはつながっていないかな(笑)。

仕事に対する姿勢

私がコンサルタントとして伺っている病院でも、対外的な発信や取り組みを余計な仕事だと思って抵抗するスタッフがいます。先生たちのクリニックでは、抵抗はありませんか。
奥山
奥山
佐々木先生
佐々木先生
仕事とは何かという定義が必要だと思います。僕らは保険医療機関だから仕事として保険診療をしていますが、保険診療が目的ではなく、人をしあわせにするための手段の一つとして保険診療をしている。
佐々木先生
佐々木先生
経営を継続するために保険診療でお金は稼がないといけないんですが、お金を稼ぐために仕事をしているわけでもない。いま在宅医療は非常に高い評価をいただいているので、仕事のすべての時間を保険診療にあてなくても十分ご飯は食べていけます。
佐々木先生
佐々木先生
なので、今僕らは職員の拘束時間のうち8割は保険診療、残りの2割は保険ではカバーできないけどかかわる人を幸せにするために誰かがやらなければならないことをやろうと決めています。
たとえばどんな活動ですか。
奥山
奥山
佐々木先生
佐々木先生
2割を自分の勉強時間や地域の人たちとの勉強会にあててもいい。あるいは8歳の誕生日を迎えられた脳腫瘍の患者さんの家で誕生日会をやってもいい。お金にはならないけど、家で暮らせてよかったと本人や家族が実感できるとしたらやってみていいんじゃないかということですね。
佐々木先生
佐々木先生
クリニックの経常利益も5%は「楽しいことにお金を使う」ことにしているんです。「地域連携を深めて、患者を増やすための啓発活動にお金を使う」と言ったらつまらなくて誰もやらないけど、患者さんの家で、イチゴをぶら下げてみんなでイチゴ狩りやっちゃおうよっていうとワクワクするじゃないですか。
佐々木先生
佐々木先生
そうしたらおいしいイチゴを探しに行く人、家族とのスケジュール調整をしてくれる人、幼稚園の先生に声を掛ける人と、みんなが動いてくれます。
佐々木先生
佐々木先生
老人ホームで家族がいなくて誰も外に連れて行ってくれないというおばあちゃんがいたらタクシー呼んでみんなで銀座に行ってコーヒーを飲もうとか、夜の時間にみんなで中華料理食べに行こうとか、みんなが楽しくやることがカギですね。
それだとドクターの下請けみたいな感覚にならないですね。私は髙瀬先生の診療に同行させていただいたことがあるのですが、診療自体がボランティアみたいな感じでした。
奥山
奥山
高瀬先生
高瀬先生
何かやれることをやってあげたいなと思って。プラスアルファで何かできることがあればと常に考えています。自然発生的ですね。
佐々木先生
佐々木先生
こんなときにこんなことをやってあげたらいいと思ったら、それを言いだすことができる、それが許される文化をつくる必要があります。
高瀬先生
高瀬先生
今までの医療は患者と医師という点と点だったのですが、在宅医療や訪問看護だと、空間と空間、面と面になる。問題解決に1対1じゃなく、面対面で介入していってよりハッピーな状態にする。家族療法ではシステムズアプローチと言うんですけど、そういう時代になったんだと思います。

地域のチームにも理念を

よく訪問看護師は地域のハブになれと言われるのですが、地域のチームにおけるナースの役割をどのようにお考えですか。
奥山
奥山
佐々木先生
佐々木先生
まず、僕らが法人の中で理念を共有しているように、地域の中でも理念が共有できないとチームみたいな協働はできません。
佐々木先生
佐々木先生
患者さんにとってのベストは何かを皆で考え続けるとか、共有できる明確な理念がないと、困ったら病院や施設に頼ろうとしてしまいます。
佐々木先生
佐々木先生
こういった地域の中でナースに期待するのは、真の意味でのソーシャルワーカーの役割かもしれません。生活は人と人とのつながりの中で成り立つものだから、ベッド上で患者さんをピカピカにするだけじゃだめなんです。
佐々木先生
佐々木先生
患者さんには、もともと地域にご近所さんがいたはずで、元同僚や友達だっている。
佐々木先生
佐々木先生
どうやったらこのコミュニティの中に患者さんの居場所と役割をもう一度見出すことができて、そこに生きがい見つけられるかをきちんとキャッチしつないでいくトータルコーディネーターみたいな人が日本には絶対に必要なんです。
佐々木先生
佐々木先生
これは、本来ケアマネジャーの仕事かもしれないのですが、今のケアマネジャーは給付管理係になっていて、地域のことを見る暇も余裕もなくなっている。
佐々木先生
佐々木先生
訪問看護師だけに限らないのですが、その地域に根付いて地域に密着したサービスを提供できる看護師が医療と福祉と介護と地域の社会資源をうまくつないで、患者さんの最期まで、生活のトータルコーディネートをやってほしい。それができれば看護師さんとのかかわりそのものが、その人にとってのACPになると思います。
高瀬先生
高瀬先生
やっぱり僕らの仕事ってハピネスの追求と共有だと思うんです。その中でナースのみなさんがやれることって実は潜在的にもいっぱいあるんだけど、もう少しいろいろな勉強が足りていない。
高瀬先生
高瀬先生
やっぱり一番大事なのは奥山先生が教えているようなコミュニケーションとかリーダーシップの力。ナース版の佐々木先生が日本にいっぱい出てくることだよね。
高瀬先生
高瀬先生
もう一つ、まちづくりっていうところでは行政の人たちともつながっていきたい。虐待症例とかネグレクト症例なんかは、僕が言えば行政も動いてくれるんだけど、それはたまたま僕の患者さんになった人だけ。
高瀬先生
高瀬先生
佐々木先生が提言したトータルコーディネートができるようなナースならきっと行政も動いてくれるはずです。
高瀬先生
高瀬先生
さらに、そういうことを国の行政の仕組みを考えている人たちとも一緒に考えていかないといけないんだろうな。
高瀬先生
高瀬先生
1つの困った事例を見ているだけでは、解決できなかったら仕方ないで終わっちゃう。そうじゃなくて、それを解決する仕組みが今ないんだから、今までの経験や知見を集めて仕組みづくりをしていかなければいけないなと思いました。
私もできることから手掛けていきたいなと思いました。本日は貴重なお話をありがとうございます。

関連記事一覧