
後編【中村秀敏氏×奥山美奈対談】20年間人材紹介会社を使わないマグネットホスピタルの秘密
小倉第一病院が誇る、高い定着率と職員間の絆。後編では、浮いた採用経費をいかに教育投資へ回しているのか。10週間のIT研修、4年目のハワイ、そして離職率を激減させた「配属の妙案」について、中村院長と奥山美奈が語り合います。
対談者紹介
中村秀敏 小倉第一病院 理事長・院長
奥山美奈 TNサクセスコーチング株式会社代表取締役·教育コンサルタント
目次
紹介料は「教育」へ。20年間、看護師の人材紹介を使わない誇り
奥山 中村先生、後編もよろしくお願いします。先生の病院ではもう何年間も人材紹介を使わずに、直接採用なさっているのですよね。
中村 看護師に関しては、私が来てから20年、人材紹介を使っておりません。例えば、薬剤師などは3人部署ですし、1人部署であればすぐに採用しなくてはならないので、そういったピンポイントの部署には紹介会社のお世話になることはありますが、看護師、臨床工学技師、事務のクラークといったところには全然使っていないですね。
奥山 研修や旅行で職員同士にラポール(信頼関係)をとらせるというような考えに、他の組織ではなかなか行きつきません。他の病院や組織で理事長や院長に提案しても「いつまで働いてもらえるかわからないのに、そんな経費はかけられない」となるんですよね。職員の離職率が高ければ高いほど、そう考えてしまうようです。 看護師の紹介は関東であれば120万ほどかかりますから……。でも、何回も紹介で入れていると、いつしかそれにも慣れてきてしまうようです。直接応募で採用できるようになったら300万、400万は軽く浮き、その分を教育投資に回せるのではと思うのですが、職員を大切にする、成長させたいという願いが根底になければ、やはりそうはならないんだと思います。なので先生のところは本当に素晴らしいと思います。そもそも先生は、どれくらいの時期から新人の研修を充実させようとお考えだったのでしょうか。
中村 ITリテラシー研修も、新人の多職種同時の研修も、私が来た時にはすでにできていました。ですから、そこに何かを加えたいということで、岡田先生の「古武術介護」を入れたり、奥山先生にコーチングの教育をしていただいたりしました。私はそういった追加でボリュームをちょっと増やしただけで、先代のころから「新人教育を手厚くしよう」という考え方があったので、その流れを継承して膨らませたという感じです。
全職種・中途も同期に。「10週間のIT研修」が生む最強のネットワーク
奥山 先生の病院の特徴は何といっても研修が本当に充実していますよね。研修という共有の時間を一緒に過ごすことで、新人同士のコミュニケーションが活性化して定着につながっていらっしゃる。そのあたりのお話をいただけますでしょうか。
中村 ありがとうございます。最初の1週間が座学での学習になっていまして、それが終わった後も週1回の「ITリテラシー研修」が10週間あります。計10日間ですから、研修のボリュームとしては一般的な病院より多く、長くとっているのではないかと思います。 そのITリテラシー研修というのは非常に特徴的で、カリキュラムの中にWord、Excel、PowerPoint、インターネット、最近ではChatGPTといったところまで手を広げて教えています。単に操作を学ぶだけでなく、Wordでポスターを作って発表したり、PowerPointで自分のことをプレゼンテーションしたりと、何かを作成してプラスでプレゼンをしてもらっています。
この設計が面白いなと思うのが、PowerPointを学びながら自分のことをプレゼンするので、同期の新人さんたちにお互いのことを分かってもらえる、相手のことが分かるということです。普段接しているだけでは分からなかったことをお互いに分かり合えるということを2ヶ月半ぐらい続けるわけなので、かなり同期が仲良くなるんですね。しかも全職種、そして中途採用・経験者採用の人も4月から「同期」として入りますので、非常に同期のネットワークが強くなります。そうすると他職種の人にも「同期だから」ということで質問できたり、経験者の人に新卒の人が教えてもらったりなど、新人にとってはすごくいい環境を提供できているのではないかと思います。
奥山 本当にそう思います。新人の時に他部署を知り、他部署で働く人の気持ちに触れることは、実はものすごく効率的ですよね。もう何年も勤めてから他部署を知るというのは、すごくもったいないですし、管理職研修で何時間か一緒に過ごしたからといっても、それほど仲良くはなれないと思います。
中村 そうですね。当院では絆が深まる新人教育を提供していますし、それができる病院規模というのは確かにあるかもしれません。毎年の採用人数が15~20人ぐらいなので、一堂に会してできるメリットがあり、フットワークも軽くできます。それにより多職種で仲が良くなると、横の関係だけでなく部署間の縦の関係や委員会活動など、いろいろな関係性が組織の中で構築されます。例えばある部署では居心地が悪くても、同期と一緒だとストレスも還元できる。そういうことが定着につながるのではないかなと期待しているところです。
絶妙なタイミング設定。「4年目のハワイ研修旅行」の秘密
奥山 研修は1年目が手厚くなっていますが、2年目、3年目の職員に対してのものはいかがでしょうか。
中村 2年目の研修は特にありませんが、奥山先生のプリセプター研修が、例えば3年目から4年目から、人によって違いますけれども入ってきます。あとは4年目から7年目ぐらいで学会発表、委員会活動も活発ですね。感染委員会ではアメリカやイギリスまで勉強に行ってもらったりしていました。
奥山 何年目かで同期でハワイに研修に行く、というのもあったかと思うのですが。
中村 そうですね。これはもう正直、研修ではないです(笑)。全日本病院協会が企画している研修に合わせて行くのですが、私どもは全部遊んでいます。「4年目になるとハワイに連れて行くよ」ということを実は先代が始めて、私は継承しているだけなのですが、「4年目のハワイ」とは父はよく考えたなと思います。ちょうど4年目ぐらいになると、女性に関しては結婚、妊娠、出産というイベントが重なる時期なのですね。「1年目、2年目で結婚なんてしないでよ」とは言えませんが、「4年目になったらみんなでハワイに行こうね」という目標があることで、その4年という設定が絶妙だったなというふうには思っています。
新人全員を「透析室」へ。リアリティショックを防ぎ、自己効力感を高める
奥山 職員の定着率を支えるために、他に工夫なさっているところはありますか?
中村 実は、私どもは定着率が抜群とまでは思っていなくて、どうしてもハワイが終わるぐらいまでに退職してしまう。4、5年目ぐらいまでの定着がちょっと弱いなと思っていたのですが、そこが解消できているようなことが最近起こっています。 これは当院の特殊性もあるので、他の病院にはできないことかもしれませんが、当院は外来透析部門と病棟部門があり、新人さんを全員、まず透析室に配属するということを5年前から始めています。 病棟ではどうしても1年目でたくさんのことを覚えなくてはいけない。そうすると夜勤がある、患者さんが亡くなる場面に直面する、急変で何もできなかったというような、いわゆるリアリティショックを受けて退職につながっていたように思います。
そこで、新人全員を透析室に配属しました。透析室だとルーチン業務が多く、目の前で患者さんが亡くなることもありません。準夜勤はありますが、日をまたぐ夜勤はない。ここで1年3ヶ月間、2年目の7月までじっくり成長してから病棟に行きます。当院は透析病院ですから、透析患者さんの名前を全員覚えてから病棟に行けると、入院してくる患者さんは知っている人が多くなります。
奥山 なるほど!素晴らしい工夫ですね。
中村 入院患者さんの半分以上の方は、自分がよく知っている人ということになるので、情報も得やすくなります。この仕組みを始めてから、今の5年目の代は4年目の途中まで誰も辞めませんでした。これは私が来てから初めてのことでした。
奥山 毎年、研修で自己効力感について調査しているのですが、5年前ぐらいから調査結果が下がらなくなりました。やはり、そうした工夫が関係していたのですね。医師側にとっても、ある程度のことができるようになってから病棟に来てくれるのは、はるかに助かりますよね。
中村 医師側にとってもそうなんです。また、定期的に新人が送り込まれてくることで、受け入れ側の透析室も教えることに慣れ、対応が優しくなったと感じます。
人の「成長曲線」は違う。愛を持って育む組織のあり方
中村 あとは、「人の成長曲線は違う」ということを意識したほうがいいと思います。それほど魅力的ではないと思っていた人が、5年目や10年目にして、すごく花が開いてきたなということが最近はいろいろなシーンであります。昨日も若手スタッフと飲みに行った時に「僕には何も特技がないから、学ばせてください」と私に熱く語ってくれて、大変嬉しかったです。新人の頃のイメージでずっと見ていてはダメだなと思っています。
奥山 先生の教育投資の賜物ですね。早く効果を出そうと焦る組織が多い中で、先生は成長曲線が緩やかな人を抱えることもできる。そのお考えのきっかけは何だったのでしょうか。
中村 最初からそう思っていたわけではありません。一つ言えるのは、私にリーダーシップがすごくあって何でも自分でできるのであれば、何でも自分でしてしまうのでしょうけれど、自分はそれができない人間なので、いろいろな人に頼ろうと思っています。教育も奥山先生にお願いしていますし、そのように誰かにお願いしようという意識が、結果的に「今は無理でも、ゆくゆくはお願いできる人になるだろう」と期待するところにつながっているのだと思います。
奥山 素敵です。ぜひ、愛を持って育てていきたいと思います。中村先生、あらためて職員を大切に育むという「あり方」に触れることができ、幸せな気分になれました。本日はありがとうございました。
本記事は対談内容の一部を公開しています。
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【書籍案内】
『採用してはならない看護師 ―採らないためにできること、採ってしまったらやること―』 著:奥山 美奈 / 特別対談:中村 秀敏







