看護学校教員を1年で退職したSさんのケース(前編)
※看護展望 2015-2 Vol.40 no.3掲載、ブログにするにあたりメヂカルフレンド社より許可を頂いております。
目次
看護学校教員を離職させないために
看護教員が教育実践上で「どのような問題でゆきづまり感を感じたか」という調査があり、これによると
第1位「教員間の人間関係」
第2位「学生の能力差に対応すること」
第3位「問題学生の指導」
第4位「適切な発問をして学生の思考を発展させること」
第5位「学生に基本的な学力を定着させること」
だそうです1)。
引用・参考文献 1) 佐藤道子,石塚淳子:看護教師の「辞めたい思い・ゆきづまり 感」に関する調査,看護教育,51(11):946,2010.
この結果を見たとき、元看護教員である筆者は「やっぱりな」と思い、
そして原稿を執筆することにしました。
ここでは看護専門学校(以下、看護学校)を退職された方のケースをご紹介し、
上記の調査結果と照らし合わせながらどんな対策やサポートがあれば
離職に至らなかったのかを現場目線で考えていきたいと思います。
某看護学校教員を1年で退職したSさんのケース
Sさんの臨床経験は11年。
恩師に近況報告をしようと久しぶりに母校を訪れた際、「教員をやってみないか」と誘われた。
病棟で学生担当をしていたSさんは学生指導も好きだったので、
“教員もいいかな”
という軽い気持ちで新年度である4月から母校に入職することを決めた。
しかし、入職してみると教員という仕事は思っていたほど甘くはなかった。
学校現場は何もかもが初めてであったSさんは、
新人看護師のときのようにしっかりと先輩が付いて業務を教えてくれるものとばかり思っていたが、
必要最低限のオリエンテーションの後は、「卒業生なんだからだいたいわかるでしょ」と放り出されたという。
1年間実務を経験して教員が続けられそうなら教員養成課程に進む予定でいたSさん。
自分なりに業務がこなせるようになりたいと必死にがんばった。
授業の設計や準備も参考書を購入して猛勉強したが、イメージがつかめなかったので先輩教員に
「参考にしたいので授業を見せてもらえないか」と頼んでみたところ、すべて断られた。
さすがに教務主任は授業を見せてくれたが、主任が教えている科目は看護管理で、
Sさんが教える成人看護の講義とは少し違うようであり、あまり参考にならなかった。
授業で配るプリントや補助教材もどういうものを作ったらよいのかわからず、先輩教員に
「参考のために見せてほしい」と頼んだが、「こういうのは自分で試行錯誤して作るべきでしょ!」と一喝された。
その後は、見よう見まねで授業を行いテストも問題作成・採点をしたが、
いつも“自分の教え方はこれでいいのだろうか?”という不安が消えなかった。
そして、学生の授業評価は最下位。
すっかり講義の自信がなくなり、学生の前に立つのもしんどくなっていたとき、
国家試験担当を任されることになってしまった。
受験から十数年が経つSさんにとって、国試講義の準備は身を削る思いだった。
それでもなんとか教壇に立ったが、猛勉強している学生からの鋭い質問にはなかなか答えられず、
落ち込む日々が続いた。
“実習指導をしていた頃は学生に発問したり、うまく教えることができていたのにどうして?
こんな自分に教えられる学生はかわいそうだ。自分は教員には向いてない……”と葛藤する日々が続いた。
しかし、“担当した学生の国試が終わるまではなんとかがんばろう”と自分を奮い立たせて教員の仕事を続けた。
結果は、Sさんのがんばりとは裏腹に2名が不合格だった。
かわいい学生の不合格を自分のことのように悲しんだSさんの耳に、
「国試担当の指導が不十分だったせいで2名も不合格になった」というほかの教員の陰口が聞こえてきた。
愕然としたSさんは“もう限界だ”と感じ、担当学年の卒業を待って退職する決心をし、3月末で退職の運びとなった。
※本稿は元看護教員だったSさんへのインタビューに基づいて構成しました。
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Sさんの今の見解
ちょっとやってみようかなっていう軽い気持ちで看護学校に就職してしまったんですよね。
今となっては、なんでそんなに教員が不足しているんだろうとか、
もっと真剣に考えればよかったと後悔しています。
でもいろんな思いはありますが、すべては自分自身の動機の甘さが原因だったと思っています。
すべてが自分のせいだと反省しているSさんのケースですが、
一体何が問題だったのか、
Sさんは、また学校側はどう対処すればよかったのかを改めて検討してみることにしましょう。
教員として就職する前にできること
Sさんの学校現場への入職の動機について
Sさんの入職の動機が甘いと思われる方もいらっしゃるでしょう。
ですが、こうした経緯で入職される方は案外多くいらっしゃいます。
また、Sさんは実際に臨床現場で学生指導を経験されて、学生も好きだと思っていたということですから、
ある意味かなり適性はあったのだと思いますし、動機としては悪くないと思います。
しかし、入職前にもっと知っておけばよかったと思われることは、やはり教育体制のことでしょう。
新人教員を迎え入れる学校現場の教育体制を確認すること
看護師として入職する病院を選ぶ際は、だれもが、
新人研修の充実度やプリセプターシップを取っているかどうかなど、教育体制についてしっかりと調べたはずですが、
Sさんも振り返っているように
「新人看護師のときのようにしっかりと先輩が付いて業務を教えてくれるものとばかり思っていた」
というあたりの先入観が邪魔をして、今回の就職の際に最も大切なこれらのことを聞き逃してしまっています。
私の知る限り、看護学校において「入職後1年間はしっかりとした初任者研修がある」
などといった教育体制をとっているところはまずありません。
教員の人数が常にかつかつで、新しい人が入ったらとにかく授業や実習の引率をしてもらわないと回らない
という学校がほとんどなので、新人教員の教育システムをしっかりと構築するまでに至っていないのが現実です。
ですが、看護師と違って学校現場の業務は、授業にテスト作りに採点、評価、実習の引率に学校行事の運営と学生指導
というように、看護とはかけ離れた業務のオンパレードなので、
上司や先輩からしっかりと教えてもらえるかどうかは重要です。
病院の教育体制が整っているからといって学校現場もそうであるとは限らないということを念頭におき、
入職を決める必要があります。
個人ベースで学校へ入職する前に確認しておくとよいと思うことは、
担当する教科と授業数、授業設計、実施、評価に関して相談できる人はだれか、
テストの作成、評価に関して相談できる機関や人はいるかどうか、
担任制を取っているかどうか、
取っている場合は何年目くらいに担任を任されるのか、
また、学生指導を教わる場所、および教員は足りているのかどうか、などでしょう。
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看護教員の育てられ方の現状
授業の設計や講義の仕方、評価の視点、教材作りなどを先輩教員が新人に教えない
Sさんは「先輩教員に授業や教材を見せてほしいとお願いしてもすべて断られた」と言っていました。
悲しいことですがこういったことも現場では多いというのが現状でしょう。
私が教員の頃も、看護科の先輩に授業の仕方を教えてもらったことはありませんでした。
高校教師の頃は、看護科の先輩教員からではなく、同じ学年を担当している
ベテランの先生方から授業の設計から講義の仕方、評価の視点などを教わりました。
後は初任者研修のときに設計や講義の進め方などを教わったのと、
定期的な授業研究の機会にこれらのことを学んでいました。
ほかの教科の先生方は筆者の講義力が上がったことを見て、
「わかりやすくなったよ。ずいぶんしっかり準備してるね」などと喜んでくれていましたが、
看護科の先生方はそうではありませんでした。
なぜそうなるのか考えてみるのですが、結局のところ看護教員の育てられ方に
起因しているのではないかと私は思っています。
看護教員の養成機関においても、新人教員として学校現場に入職してからも、授業設計、講義の仕方、
評価、振り返り、教材研究の機会が量的にも質的にも不足していることが原因だと思います。
私の看護教員を対象とした講義力アップの講演やセミナーに来てくださる先生方は、
新人教員ばかりでなく副校長や教務主任の方々やベテラン教員の皆さんもいらっしゃいますが、アンケートには、
「これらのことをしっかりと学ぶ機会がなかった。明日からやっと自信をもって授業に臨めます」
という記載が多くあります。
これらのことからも、授業設計や講義の仕方、評価の視点などを納得いくまでしっかりと教わる機会が
不足していることがうかがえます。
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