看護2022年3月表紙

返事をしない・メモをとらない・確認しない新人対策

ワンランクUPポイント

  1. 1.返事や反応がない新人には、返事の言葉を具体的に教えるとよい。
  2. 2.メモの必要性の有無を指導者があらかじめ伝えておく。
  3. 3.指示を出すときは、依頼系の言葉ではなく、「〜します」という表現で相手の行動を促す。

1年はあっという間で、もう新人が入ってくる時期となりました。昨年度もこの時期にお伝えした「新人に身につけさせたい20の行動」(図表1)の中から今回は「返事をする」「反応する」「メモをとる」「確認する」をどう新人に身に着けさせたらいいのかについて考えてみたいと思います。

「新人が身につけるべき20の行動」

自己主張が苦手な「反応できない」と、あえて「反応しない」を見抜く

毎年のことですが春先に教育支援で病院に伺うと、実地指導者や教育担当者から新人の反応がなくて「わかっているのか、わかってないのかがわからない」「新人が返事をしない、全然、話さなくて困る」という相談を受けます。

10数年前から増えだした「反応しない」「返事しない」「話さない」問題。近年のそれは10年前のものとは質と程度がかなり異なると私は感じていますが、皆さんはいかがでしょうか。10年前は内向的でなかなか自己主張ができないという人たちが多いように感じましたが、(この場合は発信する機会を増やすことで行動変容します)最近は悪意を含んだ静けさを放つ新人もいて、関わることで指導者側が切なくなってしまうこともあります。

研修で発言を促すと黙っているのに、研修のふり返り用紙には組織の批判などを延々と書いてくるような人のことを私は「悪意を含んだ静けさ」と呼んでいます。こうした新人の「反応しない」「返事しない」は「あの時、わかったって言ってたよね?」とか「同意したと思われたくない」とかの理由だったりします。(研修アンケートで「反応しない」「返事しない」理由として書かれたもの)

こうした理由による「反応しない」は10数年前にはあまりいなかったように思います。デジタルネイティブのZ世代と呼ばれる新人は生まれたころからスマホやSNS、2チャンネルや5チャンネルに囲まれてきました。不祥事を起こした芸能人のSNSのコメント投稿欄にはさまざまな人が誹謗中傷を書き込んだりまたそれを拡散したりという中を生きてきた人々。面と向かったコミュニケーションは不得意でそれこそ反応しなくても、これらSNS等の影響からか批判力はやたらと高いという人々が近年の新人の中には存在しています。中にはモラルハラスメントの域に達している人もいます。そして、そのわずか数人の人々の言動が指導者側のやる気を思いのほか奪ってしまう・・・という状況が起きています。

「2. 返事をする」「3. 反応する」を身につけさせる

こうした昔とは質が変わった自己防衛からのあえて「反応しない」「返事しない」が出現していると現場にいて肌で感じます。指導者側は内向的で「反応できない」のか、あえて「反応しない」のか見抜き、それぞれのタイプにあった指導をします。まずは、どちらのタイプであっても「どう反応したらいいのか」を教えましょう。何か言われたら「はい」と声にだして返事をすること。(不思議と声をださない人もいるので)「わかったのなら頷き、『わかりました』と声にだす」「わからないのなら『すいません、もう一度よろしいですか』と尋ねる」と言った具合にです。

新人研修で「反応ができない」と思っている新人たちになぜ反応できないのかを尋ねると、「なんて言ったらいいのか最初の言葉が浮かばないから」とじつに多くの人が回答します。語彙が少ない。敬語に自信がない。ということが理由の場合、実際に「こういう言葉を使うんだよ」と「最初の第一声」を教えるとスピード解決することが多いです。指導者の立場の方はぜひ、一日の勤務のタイムスケジュールを思い浮かべてこの時間帯にこういうことばを使いますよ。ということを書きだしてみて教えてみてください。これは私も研修でやっている方法ですが、「新人の反応が多くなった」「声を出すようになった」「話しかけてくるようになった」とすぐに変化がわかるのでオススメです。

新人がどんな場面でも「お疲れ様でした」1本で済ませるというようなとき、「行ってらっしゃいませ」「ご足労おかけします」(先輩に会議に出かけるとき)「お帰りなさいませ」(先輩が会議から帰ってきたとき)「お先に頂戴いたします」(先に食事休憩に入るとき)「お先に頂きました」(休憩から帰ってきたとき)「いつもお世話になっております」(業者の方へのあいさつ)など場面に合った言葉を教えると効果的です。

「4. メモを取る」を身につけさせる

「メモをとらない新人」も毎年のように各地の病院に現われます。これを予防するのは簡単でOJTで新人に初めて関わるときにはまず、①「今から大事なことを言うのでメモをとって聞きます」と言って新人がメモを取り出すまで間を取ります。ここで「あ、すいません。もってません」という人がでてきますので、明日までにメモを準備するように話し、翌日もってきたことを報告するように言っておきます。最初の関わりで「指導者が話す」→「メモを取る」と行動をパターン化しておくとその後がスムーズなのです。

そして、メモしなくてもいいときは②「ここはメモしなくてもいいですよ」と声をかけますからね、と予告しておけばメモを取る必要があるかどうかの主導権は指導者側になります。
さらに「指導がどう伝わったか」「正確に聞き取れているか」をこちらが確認するためにもメモが必要なんですよ。とメモを取る目的に関しても伝えておくと効果的です。「うちの新人、メモ取らないんですよぉ」と言う人は早い段階で「メモを取る」と言う行動の主導権を新人に渡してしまっているだけです。③「正確に聞き取り確認し、安全な医療を提供する」ことが看護師の仕事ですから、話を聞くときは病院ではメモを取って聞きます。と、シンプルに教えればよいのです。

「5. 確認する」を身につけさせる

こんな場面に遭遇したことはないでしょうか。
指導者「〇△〇△の薬もらってきて」
新人「はい。わかりました」
~数分後~
指導者「えっ!? これじゃないよ」

こんなやりとりを予防するには、
指導者「〇△〇△の薬もらってきて」
新人 ④「はい。わかりました。〇△〇△ですね」メモを見せながら伝え返す(確認する)
~数分後~
指導者「あ、これ、これ。ありがとう!助かったぁ」

この「はい。わかりました〇△〇△ですね」メモを見せながら伝え返すというひと手間をかけることでミスコミュニケーションをかなりの確率で予防できます。

プリセプター研修で新人のインシデントに関してふり返りを行うと「なんであのとき一回、新人に確認してあげなかったんだろう」と言う後悔の言葉をよく聞きます。それは忙しかったからですね。
看護師さんは基本的に優しいので「確認してあげなかった」と自分を責めることが多いですが、新人よりもあきらかに仕事を抱えている指導者がすべて新人の仕事を確認するのは難しいことです。なので、
④のように新人「はい。わかりました。〇△〇△ですね」メモを見せながら伝え返す(確認する) →伝え返す(確認する)は新人の側からさせるということが重要なのです。

私はコーチングをやっていますが、すべてのクライアントさんの行動計画を確認するのは大変です。ですから、行動計画の最後に「〇日〇時に奥山に報告する」と入れて約束しておき、相手側から報告が上がってくるようにしています。これならクライアントを何百人と抱えても大丈夫になります。自分を責めずに、新人には早い段階で自分から「確認する」という行動を新人に身に着けさせるようにしましょう。

指示を出すときは、依頼系の言葉は禁忌

レポートの提出期限を守れない新人も全国の病院に現われます。これも指示する言葉の語尾をちょっと意識するとうまくいくことが多いです。

レポートの提出が遅れがちな新人に対して

⑤指導者「次のレポートは月曜日まで出してくれるかな?」
新人 「・・・・じつは土日に親せきの法事があって実家に帰るので無理かもしれません」
指導者「・・・・・・」

この場合の指導者の⑤「次のレポートは月曜日まで出してくれるかな?」という言葉は「依頼系の言葉」といいます。患者さんやご家族や目上の方に依頼系の言葉を使うのは、丁寧で優しい表現となりオススメです。

看護師「少し右を向いてもらえますか?
患者 「あ、右肩が痛くてちょっと無理です」
看護師「わかりました。私がそちらに回りますね」

皆さんも上記のような場面で依頼系の言葉を使っていますよね。「~してもらえますか?」という依頼系の言葉は、相手が主体的に「はい」か「いいえ」を選べるので相手を尊重していることを伝えられていいのですが、逆には相手に「選択権」を渡す言葉でもあります。なので、指示を出すときにはあいまいな表現として相手に届きます。

⑤指導者「次のレポートは月曜日まで出してくれるかな?」の表現は、「レポートは出してもいいし、出さなくてもいいですよ。あなたが選んでいいんですよ」となってしまいます。
指示を出すときは、依頼系の言葉を止め、⑥看護師「レポートの提出期限は月曜です。期限が過ぎたら受け取れません」と指示する方が相手は行動をとりやすくなるのです。似た表現で「月曜日までレポートだしてください」というのもありますが、お願い系の表現も指示するときは相手に選択権を渡してしまうので、適しません。

相手がどう行動したらいいのかを先取りして表現する「~します」

① 「今から大事なことを言うのでメモをとって聞きます」
③ 「正確に聞き取り確認し、安全な医療を提供する」ことが看護師の仕事ですから、話を聞くときは病院ではメモを取って聞きます。

上記のセリフの語尾は相手がどう行動をとったらいいのかを表していますね。小学生のころを思い出してみるとこんなふうに先生が「おわりの会」で連絡をしていましたよね。

「金曜日はお弁当を持参します
「今日は絵の具を持ち帰ります
「朝は元気よくあいさつします
「日直は黒板を消します
「2時間目は体育館に集まります

この表現は命令口調でなくそれでいて相手に行動を促すことができるとても素敵なものです。小さいころに聞いた言葉が皆さんの記憶にもたくさん残っていると思います。無意識にこんなふうに表現していたという方もいらっしゃることでしょう。今度は意識的に指導場面で活用して新人の行動定着に活かしてみましょう。

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