本物のチームとは何かを考える【医師とのじょうずなコミュニケーション】その2

本物のチームとは何かを考える 医師とのじょうずなコミュニケーション その2

本当の「チーム」として機能するコミュニケーションの図り方を考える

3月号は接遇委員会の委員長を務める石井先生に「ドクハラ」(奥山命名)医師はなぜチーム医療を共に築く必要のある看護師やコメディカルに威圧的になってしまうのかという医師を代表して石井先生にドクターの本音をお聞きしました。
今回は埼玉県の鳩ケ谷駅前にある医療法人三世会「鳩ケ谷クリニック」の高山健彦院長と山城先生とスタッフの皆さんにご協力頂き、どうすればもっと円滑なコミュニケーションが取れ、本物のチームになれるのかを考えていきます。
鳩ケ谷クリニックさんは私が3年前からチームコーチングで関わらせて頂いている病院で、アットホームな雰囲気を保ちながら患者さん〇〇〇人もの命に責任を持つ、地域の頼れる在宅診療所です。
ドクター2名(〇月には分院を立ち上げる予定)と看護師3名、事務と営業がそれぞれ2名ずつの合計9名。
少数精鋭で日々の診療にあたっています。
訪問診療の終わった直後に「どうすればもっとコミュニケーションが図れ、本当のチームとして機能するのかに関してカンファレンスを実施してもらいました。
皆さんも「鳩ケ谷クリニック」一員でカンファレンスに参加しているような気持ちで読み進めてくださいね。

コーチング導入で風通しがよくなり、チームワークが高まった

鳩ヶ谷クリニックさんは、前からアットホームで コミュニケーション抜群ですが、さらに雰囲気がよくなっているように感じます。濱津さん、ずばり秘訣は何ですか?

濱津さん
濱津さん
そうですね。好きなことを言って、本音でぶつかり合っているからですかね。前から比べると格段に雰囲気がよくなっています
よね! 働いていてそう感じます。


前とは何が違いますか? 以前は濱津さんは新人だったこともあり、反対意見なんて言うはずもない
「忖度の濱津」でしたよね!
高山先生
高山先生
あはははは(笑)、そうそう。「忖度の濱津」! ホント、そうだったよね

濱津さん
濱津さん
ちょっと、笑わないでくださいよ。でも、そうでした。ホントは私、前の職場でもけっこう言いたいことをはっきり言うほうだったんですけど……。以前はここには看護師2人しかい なかったし、言いたいこと言ったら雰囲気悪くなるといけないしと思って、遠慮していました。

林さん
林さん
あっ、「言いたいことを言ったら雰囲気悪くなる」ってコーチング の「先読みの誤り」5番ですよ
(笑)。

高山先生
高山先生
あっ、そうだよ。それ、認知のゆがみ、5番だよね。

濱津さん
濱津さん
あっ! ホントだ。やばい(汗)。

林さん
林さん
最近、陰口ってなくなり ましたよね。前はその人がいなくなると、その人の
ことを憶測で決めつけて陰口を言うこと がありましたけど、今は直接本人に詰めら
れるというか(笑)。信頼関係がすごく深まっていると思います。やっぱり陰で言うのは よくないですよね。

憶測、決めつけは、認知のゆがみの「6番」ですしね(笑)。

林さん
林さん
そうだった。6番です。決めつけはよくない。

林さん
林さん
そういう意味では、コーチングをやっているのはすごく大きいと思います。共通言語ができたので、今みたいに「6番だよね」と陰で言わずに、直接本人に言うことができるようになりましたフィードバックできるようになってチームワークがよくなってきたと思います。

みんなの価値観(大切にしていること)を知って尊重したり、目標が目に見えるところに貼ってあったりするので、そこに向けて一丸となれています(鳩ヶ谷クリニックでは、目標やチームの価値観や「認知のゆがみ=よくない思考の癖」を大きな紙に書いて掲示してあります。これは効果絶大です)。
高山先生
高山先生
そうだよね、コーチングの導入はチームワークをよくするのには効果絶大だったね。忙しいけれど、やっぱり月に何度かはみんなで同じ方向を向くような勉強をするのって大事だよ。

ミーティングは月に1~2回、何かあれば随時話し合う環境

感染症が話題になっている世の中ですが、スタッフ間のコミュニケーションをとる時間は積極的に設けていらっしゃるんですか?

林さん
林さん
うちはすごくコミュニケーションとっていると思います。ミーティングが月に1〜2 回。あとは何かあれば随時。通常1〜2時間かけてやっています。

―NGワードの貯金箱を実行されていたと思いますが、どうなりましたか? 高山院長が一番最初にNG ワード出しましたよね。「でも」「できない」「難しい」「忙しい」など、聞くとモチベーションが下がるような言葉を言ったら100円入れるシステムでしたね。
林さん
林さん
もうあれ、みんな気をつけてその言葉を全然言わなくなっちゃったんで、お金入らなくなったんですよ。もういらなくなりました。


―前に濱津さんが自分の考えを言えずにいたとき、高山先生から「忖度してんじゃねーよ。いろいろ思っているんなら、血で血を洗うくらいの覚悟で自分の考え、言えよ(怒)!」って詰められましたよね。そこからずいぶん濱津さん、いい方向に変わったな、と思います。自分の考えを言うのを止めていたものは何だったんですか?(コーチングの質問)

濱津さん
濱津さん
あっ、二重の輪のコーチングだ。そうですよね。言いたいことを言ってしまったら人間関係悪くなるかもって先読みしていたんですけど、それで自分もつらくなっていて……。でも勇気を出して言ってみたら、みんなちゃんと聞いてくれて。今は言いたいことが言えるようになって、自分の意見も通るようになってすごく楽になりました。
高山先生
高山先生
あったねー、そんなこと。

―「忖度してんじゃねーよ(怒)」って高山先生の言葉が効きましたね。高山先生の言葉ってストレートで重みがありますよね。血で血を洗えってのはアレですけど(笑)。

林さん
林さん
高山先生は正しいことは正しい、間違っていることは間違いだとしっかり言ってくれます。正しく接してくださるので、安心してついていけるんですよね。
濱津さん
濱津さん
高山先生は怒ることもあるんですけど、それでいて高齢者施設で働いているヘルパーさんから「先生、〇〇さんのお薬、△△にしたらどうかしら?」とか言われたとき、「ああ、そうだよね~」とかホントに変えちゃうんですよ(笑)。そういうフランクなところがいい。医師に対してもヘルパーさん*に対しても、誰に対しても態度が変わらないっていうところが信頼できます。
林さん
林さん
そうなんですよね。今日も他院の医師の診療に同行する場面があったんですけど、なんか一線引かれているって感じがするんですよね。下に見られているわけではないのかもしれないですけど、何かそう感じるときもあります。特に医師の場合。

―高山先生は、誰に対しても接し方が変わらないですよね。話しやすいです。基本的に言葉遣いもあの……、フランクですよね(笑)。

高山先生
高山先生
あまり敬語を使わないようにしているかな。「何でも言っていいよ」っていう雰囲気をつくるようにしていて。基本、タメ口なんだよね、誰に対しても。前にすごく偉い部長クラスの教授に「なるほどね」って言ったら、すんごい怒られて大変だった。でも、あまり変わってないかな。

―部長に「なるほど」とは! さすが先生(笑)。心臓 外科の医師ってすごく怖いイメージが私にはあるんで すけど、訪問診療をするようになってから今のような 気さくなスタンスになったんですか?

高山先生
高山先生
いや、前からかな。前も好きなようにやっ ていたから。漫画『呪術廻戦』(集英社)の 五条先生がモデル(笑)。

―フランクなあり方を保つために何か、高齢の患者さんと接するときに気をつけていることはありますか?

高山先生
高山先生
いろんな人と付き合うようにしているか な。医者って医者とだけとつながっている ことが多いけれど、僕は仕事も趣味もいろ んな立場の人と付き合うようにして、視野が狭くなら ないようにしてる。心臓外科勤務のときもそうだった けど、術野しか見ないというのもダメだし、今は患者 さんを高齢者として見るだけではダメだと思ってい て、「いろんな経験をしてきた人生の大先輩」としてか かわるようにしてる。お宅に伺うと写真があったり、 いろんな調度品があったりするから、そういうのを見 てこういう人生を送ってきた人なんだな、って想像力 をはたらかせるようにして。想像力がないといい医療 はできないと思う。ボーっとしているんじゃないから ね。ちゃんとお宅に伺って意図的に情報収集している んですよ、僕は。

しっかり仕事をしたうえで、はっきり意見を言うのがコツ

―関さん、先生方と接するときに工夫していること を教えてください。

関さん
関さん
先生方の性格に合わせて接するようにして います(笑)、診療方針に沿うように。高山 先生も山城先生も外科の先生って感じで す。外科っぽくサバサバしているのでかかわりやすい し、言いたいことを言って好きなようにやらせても らっているのでやりやすいですよ。 少し気をつけているのは、しっかり仕事をして、やる ことはやってから、先生方に文句を言うようにはして います(笑)。患者さんのところには2週間後にしか行 けないので、そこでいろいろ先生に文句を言われても、 患者さんのところでは黙って受け入れるようにはして 先生方を立てて。後からちゃんと文句は言いますけどネ。

高山先生
高山先生
(うなずく)

山城先生
山城先生
(うなずく)

―楽しそうですよね。
関さん
関さん
いろいろぶつかることもありますよ!この前も高山先生に「関さん、コーチング習っているんだから、ちゃんとやってよ」って言われて、「先生だって習っているじゃん!」とか言い合ったりして(笑)。それと先生方と働いて、コスト意識がついてきました。 病院だってボランティアでは存在できないので、収益 のことも考えることができるようになりました。今、 私は主任なのですが、やっぱり経営のこととかもきち んと知っておく必要あるなと思っています。前は、自 分が考えなくても誰かが考えるでしょ、というスタン スでした。小さなクリニックなので、収益に関しても、 サービスの質に関しても、みんなで考えるという習慣 ができていていいな、と思います。

―山城先生も心臓外科の先生ですよね。以前の病院 等と比べると、働きやすさとかどうでしょうか?
山城先生
山城先生
すごくやりやすいです。鳩ヶ谷クリニック では、看護師さんから医師に向けてしっか り意見を言ってくれるところがいいなと 思っています。前のところでは先生、先生ってみんな言ってくれているけど、なんだか「1人で走っているって感じ」で結構、孤独でした。 でも今は違う。看護師さんが患者さんに対しても違う見方を結構、言ってくれるんで「一緒に動いている感じ」がして、ラクでいいです。前は山の頂上にはおい てもらっているんだけど、なんか1人ぼっちで医療を やっているような感覚だったなって。選択も責任も1 人で抱えているっていうか……。「絶対失敗したらい けない」って気持ちもすごく強くて、今思えば気負っていました。 今は、高山院長のコミュニケーションの輪の中に入れ てもらっている感じがあります。新しく分院ができる んですけど、自分もこんなふうなクリニックをつくっていきたいなと、ここに来て目標ができました。

 

同じ目標に向かって業績を残すことができるのが「チーム」

鳩ヶ谷クリニックは、弊社が主催するコーチング 2019年大会の「クレーム予防分野」で見事、優勝されました。この大会では最初にクレームの内容が掲示され、どうするかをチームで相談して代表者が対応するというものです。そのときも見事なチークワークが発揮されていました。営業の林さんが「何かあれば随時ミーティングを開く」と言っていましたが、こうした習慣があってこそ、有事のときにさっとチームで動 くことができるのだと思います。
「チーム」と「グループ」は違います(表1)。
たまたま 同じ職場で働くことになっただけの人々は「グループ」です。メンバーが同じ目標に向かって少数精鋭で高い 業績を残すことができるのが「チーム」です。PTAの役 員などをイメージしてもらえばわかりやすいかもしれません。
小学生の子どもをもつ保護者5人がPTAの役員に なったとしましょう。
「会計監査は責任が大きいし、数字が苦手な人も多い から、持ち回りでやりましょうよ」というローカルルールがあるとします。でも、この5人のなかに元銀行員 という人がいたらどうでしょう。会計監査はその人に やってもらうのが合理的ではないでしょうか。子どもの行事は大好きだけど、朝が苦手なお母さんなら行事係がいいかもしれません。
こんなふうに5人のメンバーそれぞれが自分たちの 「強み」や「弱み」をよく知り合って(forming:形成)いれば、適材適所で効率のよい役割ができますね。相手のことをよく知り、そして率直に自分の意見を言い合い、ときには葛藤も起きる(storming:混乱・対立)。 けれどもそれによって「あの人はここまで言うとキレる」など、さらにメンバーへの理解が深まり(norming:統一)、個々のメンバーのパフォーマンスが上がる(performing:機能)。この状態にある人たちを 「チーム」と呼びます(図2)。
鳩ヶ谷クリニックのミーティングの様子から推測す ると「高山院長は『率直』ということを大事にしていて、 陰口を言い合う文化が嫌い」なのだと思います。なの で、濱津さんに「忖度してんじゃねーよ」というスト レートな物言いになったのでしょう。あまり敬語を使 わず、相手の肩書に左右されず、「何でも言ってもい いよ」という雰囲気をつくり出すという部分にも、高 山院長のこの価値観が行動になって表れているのだと 思います。  そして、その価値観にスタッフも共感していて「陰 で言わずに本人に直接言うようになった」。つまりス トーミング(storming:混乱、対立)が起こり、「言っ ても結構大丈夫だった」という結果からノーミング (norming:統一)に移り、高い目標を達成した(鳩ヶ 谷クリニックでは現在患者さん500人を診ています。 私がお伺いし始めたころ、患者さんは380人でした)、 パフォーミング(performing:機能)の状態が起きた と言えるでしょう。

自分の「認知のゆがみ」をつかむシート(日記)

院内コーチ認定・研修についてはこちら

TNサクセス・コーチング研修一覧

認定コーチ(個人)についてはこちら

TNサクセスコーチング Magazine

メルマガ登録する

【月刊】エキスパートナース2021年4月号「これからのナースに必要な力を伸ばす連載」より

関連記事一覧