相手が受け入れやすい メッセージの伝え方

ワンランクUPポイント

    1. 主語が「あなた」のYOUメッセージは、主語を「私」にしたIメッセージに言い換えると受け入れられやすい。
    2. 主語が「私たち」のWeメッセージは、受け手のモチベーションを高めるのに効果的。
    3. 意識的な「可能性の動機づけ」の活用が、コミュニケーションの好循環を生む。

いくら指導される立場でも、指導者に「上から目線で評価される」のは嫌なものです。特に、自分 よりも年下の相手から「評価される」のは嬉しくな いですよね。でも、臨床現場では自分よりも年上の 患者さんに対して「頑張っていることを褒める」こ とはよくありますね。こんなとき、皆さんはどんなふうに伝えておられるでしょうか。

今回は、相手に「評価されている」と感じさせずに、自分の気持ちをうまく伝えることができる「Iメッセージ」や、相手の自己肯定感をグイつと高める「Weメッセージ」の使い方をお伝えします。患者さんにはもちろん、部下や後輩指導の場面でも、相手が受け入れやすいメッセージの伝え方を知っていると、さらに深い信頼関係を気づくことができるのでオススメです。

主語の違いによるメッセージの種別

普段、私たちが相手にメッセージを送るときによく使っているのは「YOUメッセージ」といわれるものです。「あなた(YOU)」を主語にした「〇〇さん、ずいぶん仕事が早くなったね!」といった表現です。

主語を「私(I)」にしてから自分の気持ちを伝えるのは「Iメッセージ」、主語を「私たち(We)」と複数形にすると「Weメッセージ」となります。
私たちは会話中で必ずしも、「〇〇さん」と呼びかけたり、主語を言うわけではありませんが、文脈や場の空気から、そのメッセージが自分に発せられたものかどうかを受け手が判断することによって、コミュニケーションは成立しています。

YOUメッセージやIメッセージ、Weメッセージの使い分けはコーチングの分野では一般的ですが、そんなことは意識したことがないという方もいらっしゃるでしょう。主語を意識して活用すると対話相手とよりよい信頼関係が築けます。IメッセージやWeメッセージをコミュニケーションにうまく取り入れていきましょう。

「評価された」と感じさせてしまうYOUメッセージはIメッセージに変換

Youメッセージを上下関係が存在するときに活用しても特に疑問を感じませんが、メッセージを送る相手が年上だったりするときには、失礼な人だと思われてしまう可能性があります。Youメッセージは、「あなたは〇〇だ」と「評価している」ニュアンスを相手に与えるものだからです。

例えば、リハビリテーションを頑張っている高齢の患者さんに、実習生が「〇〇さん、だいぶ歩けるようになりましたね」と声をかけているシーンを想像してみましょう。自分の孫くらいの歳の若者が人生の大先輩を褒めている…。あまり感じが良くないですよね(笑)こんなときにIメッセージが役に立ちます。

図表1の例文に倣って、「私は〇〇さんがだいぶ歩けるようになってとても嬉しいです。私も何か頑張らなくちゃって思います」のように、Iメッセージを活用できれば、好感度はぱっちりですね。

私は看護学校や介護福祉士の学校の講義で、学生にもこのメッセージの使い分けを教えています。

「実習で1メッセージを活用し、患者さんに声かけをするように」と課題を出すと「患者さんの顔がパッと明るくなった」「『実習指導者に素敵な声かけができてすごい。私も見習いたい』と褒められて嬉しかった」という感想が寄せられます。学生時代からこんなメッセージのやりとりができるとコミュニケーションをはかることに自信がつきます。ぜひ活用法を実習生にも教えてください。そして皆さんも、年上や目上の方を承認したいときにご活用ください。Iメッセージを上司・先輩が部下や後輩に向けて使えば、評価のニュアンスをやわらげることができ、相手は受け入れやすくなります。

私は指導者研,でよく「Iメッセージで新人を褒めるセリフを3つ以上記入してください」と課題を出し、研修時間内でGoogleフォームに記入してもらっています。(図表2)

一度思い浮かべたことのある言葉を繰り返すのは簡単ですから、「研修翌日に、このセリフで褒めたら新人がうっすら涙を浮かべていた。もっと普段から新人を褒めてあげたらよかったなと反省した」などの感想をもらうことがあります。

Iメッセージの最上級、Weメッセージは相手のモチベーションを一気に引き上げる

Iメッセージをマスターしたら、次はWeメッセージにチャレンジしましょう。このメッセージもとても簡単です。

図表1に倣えば、「ご家族の皆さんも○○さんがこんなに歩けるようになって本当に嬉しいっておっしゃっていました」と言うのがWeメッセージです。Iメッセージも本人の心が伝わってきて嬉しいものですが、Weメッセージは複数の人々の心を伝えられるので、受け手のモチベーションを一気に引き上げることができます。学会発表の後、「あなたの発表を病院全体で喜んでますよ」とか「あなたの発表は関東を代表するような発表だったね」などと言われると、とっても嬉しいですよね。Weメッセージは一瞬で相手を喜ばせたり、勇気づけたり、癒やしたりできるのです(図表3)

Weメッセージは強力なだけに、ネガティブな内容に使うと、一言で相手に圧力をかけるメッセージにもなり得ます。

例えば、「今年の新人は元気がないってみんな言ってるよ」「あなたには指示を出しにくいって先生たちが言ってたよ」なんて言われると、一気にモチベーションが下がりますよね。「みんな」や「先生たち」と言われると、「あの人が言ってたのかな?この人かな?」「人なんてニコニコしてても陰でなんて言ってるかわからないな」といった具合に疑心暗鬼になりがちです。強力なメッセージだからこそ影響力が大きいので、Weメッセージは褒めるとき限定で活用しましょう。

不安の動機づけを止め、可能性の動機づけをする

「お薬を飲まないと血圧下がりませんよ」のように「~しないと~にならない」などの不安をあおるような表現を「不安の動機づけ」といいます。逆に「お薬を飲むと血圧下がりますよ」などの「~すると~になる」という表現は、相手の可能性を広げる「可能性の動機づけ」です。

不安の動機づけをされた人は、自身の力で「可能性の動機づけ」に変換する機会をつくることが大切だともお伝えしました。丁寧な言葉を使うのは大事なことですが、どんなにきちんとした言葉でも「不安の動機づけ」をされれば、人のモチベーションは下がります。

私は新人研修や指導者研修で、先輩や上司に言われて傷ついた(「不安の動機づけ」をされた)言葉を書いてもらいますが、耳を疑う記述が続々と出てきます。これを研修参加者同士で「よく耐えてきたよね、こんなこと言われて」と分かち合い、「自分たちはこうした表現をしないように気をつけようね」と志を新たにします。

「時代はくり返される」とか「虐待された人は虐待するようになる」とよく言われますが、どこかでこうした負の連鎖を止めなければいけないと私は思います。2020年6月から改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が施行されました。「不安の動機づけ」をしていないか見直すちょうどいいチャンスではないでしょうか。

「可能性の動機づけ」の好循環を起こす

「不安の動機づけ」をされたことがなく、「可能性の動機づけ」をされてきたという幸せな人もいます。私が長年、研修でかかわらせていただいている病院には「可能性の動機づけ」の連鎖が起こっています。可能性の動機づけをされて育った人は、自分にも患者さんにも後輩にも可能性の動機づけをするようになります。「これを全部食べられると、早くお家に帰れますよ」と言いながら食事介助をする先輩に育てられた後輩は、やはりこうした声がけをするようになるものです。職場の風土とはこうしてできあがり、循環していくものなのでしょう。

自分のストレスを減らす環境整備も重要

言葉は自身の気持ちを反映しています。不安の動機づけをしたくなるときは、実は「自分が不安を抱えているとき」です。

例えば、忙しい認知症病棟で、「早くこの部屋の患者さんに薬を飲ませて、14時までに隣の部屋の与薬も済ませないと、時間内に業務が終わらない」と不安を抱えて仕事しているときに拒薬があれば、患者さんに薬を早く飲ませようとついつい「不安の動機づけ」を口にしたりします。

このときに重要なのは、自分の不安を解消することです。「すいません、○号室の与薬をお願いできませんか」と同僚やスタッフに依頼し、まずは自分の不安を解消することが大事です。自分自身のストレスマネジメントが上手くでき、そこにIメッセージやWeメッセージ、可能性の動機づけなどの知識が存在するとき、コミュニケーションの質が高まります。

知識を持っているだけでは不十分で、言葉は私たち自身の心を反映しているという前提に立ち、ストレスを減らせるよう環境を調整していくことも重要です。

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