すべてをリソースにして進もう!コロナ禍での研修の実際と新人育成のあり方

ワンランクUPポイント
1、病院の仲間として育て上げるために、コロナ禍でも新人に教育の機会をつくることは重要。
2、ZoomやGoogleフォー厶を活用し、今だからこそできる研修を工夫。
3、ストレス値を見える化し、共有することで、支え合うチームをつくる。

なかなか収束の兆しが見えないコロナ禍。
「見通しのつかない不安な状況をどう捉えて進むのか」こうした課題が今、私たちに突きつけられています。
しかし、こうした状況を受け入れ、力強く歩んでいる方々もいます。

私はコーチ育成をしていますが(これまでのコーチ認定合格者は280人です)、身につけてもらう「コーチングスキル」の課題の中に「この出来事をどんなリソースにしますか?」という質問があります。

リソースとは「資質、財産や使えるもの」の総称ですが、ピンチを乗り越えていく人や組織は、この状況をどう「リソースにしていくか」という前向きな姿勢がある、そんなふうに思います。

今回は、この状況をうまくリソースに変えて進んでいる北九州市にある小倉第一病院の取り組みをご紹介します。

コロナ禍でも、研修旅行
ピンチの中で素早いトップのリーダーシップ

小倉第一病院さんには、多部門の研修やコーチ認定トレーニング等で関わらせて頂いており、早いもので10年になります。

中村秀敏院長がめざすのは「学習する組織」。海外研修や学会参加はもちろんのこと、院内外の研修や勉強会参加の機会が豊富な同院は、新型コロナ感染者が増えだし、多くの病院や組織で研修を見合わせたころから、いち早くソーシャルディスタンスを取り、感染対策を徹底して研修を続行されていました。外出自粛要請が出てからはZoomでの研修を導入されています。

同院の教育システムや研修の充実ぶりは全国的にも有名であり、多くの新人が卒後教育をしっかり受けられる病院だと、その教育システムに期待して就職してきます。病院の大きな強みでもある教育研修をコロナ禍の中でどう押し進めるのか、病院としても悩まれたことと思います。

感染面だけを考えれば中止するのが安心ですが、コロナ禍でも例年通りに新人は育てなければいけません特に新人に教育の機会を作ることは重要です

研修でお邪魔する病院の中にも新人の集合研修はほんの数回で、あとは現場のOJTのみというところもあります。そうした病院はやはり新人の離職率が高く、質も担保されていないことがほとんどです。

私は外部講師の研修は年に1度きりという病院にその貴重な1回を依頼してもらい研修に伺うこともありますが、こうした病院の新人は「あいさつ」も「表情管理」もできないということが多々あります。「なぜこの病院に就職したのですか」というアンケートの項目にも「学校で勧められたから」とだけ記載し、「この病院でどんな看護をしたいですか」の項目には「特にありません」。

新人というフレッシュな時期にこんなふうであれば、その後も看護に対するやりがいも、病院への愛着を感じることは難しいと思います。

また、新人として入職してきた者同士は同期といっても最初はただのグループに過ぎません。「たまたま偶然に同じ病院に就職した人」から、教育を通して「同期のチーム」に、ひいては「病院の仲間」に育てあげていく必要があります。

Zoom研修+Googleフォーム:タイムリーなアンケート聴取で理解度をアップ

現在、同院での私の研修はZoomと個人の携帯電話を活用し、Googleフォームのアンケート機能で研修の理解度を確認しながら進めていますが、もしかすると対面時よりも個人の「考える力」や「自分自身に向き合う力」が養われるのではないかとも思います。ある意味、こんな時代だからこそたどり着いた方法だとも言えるでしょう。

以下は、私が同院で新人の接遇研修の理解度を確認するために聴取しているアンケートの質問と回答の一部です。私にとってZoom研修では常ににパソコンの前にいるのでアンケートの回答がタイムリーに確認でき、とても便利です。

結果が棒グラフで可視化でき、この結果を参加者に画面共有できるのも魅力です。以前、私は携帯電話を使う別のアンケート使っていましたが、使用料が結構かかっていました。Googleフォームは無料でアンケートやテストが作成できるので活用しない手はないと思っています。
質問1.表情管理とはなんですか
質問2.なぜ大事だったのでしょうか

そのあとに続く「質問3.自分自身の表情管理力ついて答えてください」は自身の表情管理力に関しての自己評価です。(図表1)

質問4は自身のアイコンタクト度の自己評価、「質問5.自分自身のあいさつや発信についてお答えください」は「あいさつや発信源の自己評価」になります。(図表2)

同院では接遇研修後の振り返りとして、このアンケートを行っています。同院にうかがうと、廊下で私を見つけた新人さんが近づいて来てくれて元気に、そして爽やかに「あいさつ」をしてくれます。

社会人基礎力の中にも謳われている「発信力」は大抵の病院の新人は弱いものですが、第一病院の新人においては、入職時にしっかりと「発信力」が身についていると実感しています。

今年は接遇研修もZoomだったため心配していましたが、対面でない上に今は感染予防のためにマスクを着用しているので、意思疎通するためにオーバーリアクションが必要で、例年よりも逆に「発信力」や「反応力」が磨かれているようにも思います。

ライフイベントごとのストレス値にも注目

近年はストレス性の疾患の予防のため、新人研修にも「ストレスマネジメントの視点」を盛り込むように推奨されています。

ですから、私も研修内容に「ストレスとは何か」「ストレス・コーピング」「適応機制」などを入れています。特に研修の中で、ここ数年の「ライフイベント」を振り返り、それがもたらすストレスの度合いを社会的再適応評価尺度に則ってはかることに力を注いでいます。

社会的再適応評価尺度とは、ライフイベントがもたらすストレスの重みを点数化し、その合計によって自分のストレス度合いをはかるものです。

「配偶者の死」のストレス値を100点とし、「結婚」50点、「転職」36点、「住居の変更」20点など43項目のストレス値が示されています。

するという箇所に力を注いでいます。以下は、同院の研修参加者である新人の近年自分に起こったライフイベントによるストレス値の加算を比べたものです。図表3は、同院の研修参加者である新人に、ストレス値を点数化してもらった結果です。

研修時に参加者に加算した値を発表してもらうようにしていますが、これは他の参加者である同僚のストレス状況を把握し、関心を持ち配慮することができるようになるためです。休憩時間にストレス値の高かった同期に仲間同士で「大変だったね」などの声をかけているところもよく見られます。

他には、研修の理解度アンケートに「あなたの病院の理念は何ですか」「その理念をあなたはどんなふうに行動化しますか」などの問いも入れて、「自分の力で考える」ことを促しながら、少しずつ病院の仲間になれるように仕掛けています。

図表3

新人が「病院の仲間」になっていく仕掛け

同院の新人研修は80時間のICT研修や、由布院での宿泊研修、外部講師によるものも盛りだくさんで、ほぼ年間を通して行われます。

「共有の時間」、「共有の空間」、「共有の体験」という「3つの共有」を通して人と人の絆は深まると言われますが、同院では同期が「チーム」になり徐々に「病院の仲間」になっていく仕組みが「教育研修」という機会によりしっかりと構築されています。

中村院長の大切にしている「学習する組織」の基盤がこの時期にしっかりと作られていると思います。

組織に大切に育てられた新人は、自己肯定感が上昇し、自分も人も大切にすることができるようになっていきます。

コロナ禍中で教育を優先できない病院が多い中、学習の機会の提案し続ける同院の揺るぎない信念は新人に伝達されていて、某ドラマではありませんが、その効果は「新人の素早い成長」という姿で「倍返し」されていると思います。

同院の10年の歩みを拝見していて、そんなふうに私は感じます。

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