2021年度新人のコミュニケーションを育てて患者・家族に向かわせよう!

教える側も、教えられる側もみんな戸惑っている

2021年4月春、いよいよ「実習も講義もweb受講」という前代未聞の新人が就職してきます。「昨年度の新人も、集合研修ができなくて育てるのが大変でした。 いくらコロナ禍といっても、人の命を預かる専門職の実習がwebっていいの?あり得るの?」と、指導者側は大混乱しています。そして、当の本人(2021年度新人)たちも、大きな不安を抱えて入職してきます。 思うように実習ができず、患者さんやご家族とかかわる機会が少なかった2021年度新人ですが、患者さんからみれば国家資格をもつ看護師です。ですから、しっかりと患者さんやご家族と向き合うことができるプロ フェッショナルに育てたいものですよね。
今年も集合研修などは最小限となるかもしれませんが、世界が新型コロナウイルスと戦っています。われわれも、こうなったら現場のOJT力をアップして、新人を立派な看護師に育て上げていこうじゃないですか!
今回は、新人のコミュニケーションにおける不安を緩和しながら、双方の混乱を少しでも軽減できればと、 私が研修や新人指導で行っている指導法をご紹介します。

コロナ禍、危機的状況におけるコミュニケーションのあり方とは?

具体的な指導法の話の前に、コロナ禍や危機的状況におけるコミュニケーションのあり方、看護とは何かということについて、あらためて読者の皆さんと考えてみたいと思います。
私事で恐縮ですが、義母が2021年1月にクロイツフェルト・ヤコブ病と診断されました。100万人に1人の発症率の難病。治療方法はなく、余命は半年から2 年といわれるこの疾患は、認知症の進行が速いのが特徴とは聞いていたものの、発症してまだ数か月だというのに、今では義母は要介護4となりました。
コロナ禍で面会もままならず、確定診断を受けたときと、急性期病院から医療療養型の病院へ転院するときの2回しか義母に会うことはできていません。長男である夫は、母親と離れて暮らしていることもあり、疾患の受け入れがなかなかできずにいます。
急な認知症の進行と、長くても2年でお別れがやってくるというのに、面会すら許されないという現実。これまでこれといった親孝行もできていない遠くに住む長男夫婦としては、在宅でみることや近隣の病院に転院してもらうことも考えました。クロイツフェルト・ヤコブ病の典型的な転帰をたどるなら、まだ少しお別れまで時間があります。
でも、よかれと思って義母を東京に連れて来て、新型コロナウイルスに感染させてしまったら、も う二度と会えないかもしれません。依然、新型コロナウイルスが蔓延する東京へ地方から義母を転院させるのは、リスクが高すぎると諦めざるを得ませんでした。
義母はもう、電話をかけることも、取ることもできなくなりました。そんな義母に毎日電話をかけては、「またかからなかった」と落ち込む夫。私は看護師さんに、「治療方法がないのならば、せめて1日に一度でいいので声を聞かせてほしい」とお願いしました。
「食べる」という行動が止まってしまう義母には、食事介助が毎回必要。なので、食事のときは看護師さんか看護助手さんが近くにいます。お昼の時間にビデオ通話をかけるので、スマートフォンをタッチしてもらえないかと私は看護師さんに頼んでみました。しかし、確定診断をされた病院には2か月ほど入院していましたが、ただの一度も電話がつながることはありませんでした(スマートフォンは充電されていない状態でベッドに置かれたままでした)。
「看護」ってなんだったろう? 私はとっさに思いました。ヘンダーソンは、患者の基本的欲求を満たす手助けをすることが「看護」だといったのではなかったか。患者の意思を伝達したり、欲求や気持ちの表出を助けたり、レクリエーション活動を助けるのが看護ではなかったのだろうか。 「治療も何できないのなら、せめてスマートフォンを 押すくらいしてほしい」「食事介助は毎日行っているはずなのに」というのが家族の本音です。面会もできず、「難病で、いつどうなるかわかりませんから覚悟しておいてください」と言われている家族にとっては、せめて顔くらい見たい、と思っています。それが最後のお別れになるかもしれないからです。
仕事で病院に出入りしている私は、現場の医療者からコロナ禍の現状も聞いているので、医療側も大変なのは十分わかっているつもりです。でも、看護師さんが、「コロナ禍で面会もできずに家族もつらいだろうな。しかも難病で長くはないし」と少しでも思ってくれたなら、その思いを一度でもいいから、「電話を取る」 という行動につなげてほしかったと残念でした。 IADL(手段的日常生活動作)の低下を補うのは、介護士の名称独占業務ではないはずです。
新人には職場や地域社会でさまざまな人々と仕事をしていくために必要な力である、「社会人基礎力を育てなさい」といわれています。(表1)。社会人基礎力とは、主に「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チー ムで働く力」の3つの項目のことですがコロナ禍では新人ばかりではなく私たちも、あらためてこの「考え抜く力」が求められているのではないでしょうか。
未曾有の事態で現場は混乱し、十分な教育もできない、受けられない環境かもしれません。でもそんなときだからこそ、「看護とは何か」を考え抜き、その考えや アイデアを行動に移せる看護師を育ててほしいと、患者家族になった私は心から願います。

新人の主な不安は「人間関係」と「コミュニケーション」

図1は、2020年度に卒業する学生に対して行ったアンケートの一部です。  皆さんの看護学生時代をちょっと思い出し、比べてみてください。リモート実習の経験だけで看護の世界に入るなんて、ちょっとゾッとしませんか。看護技術は結局のところ、実習で経験するのは基本的なことばかりなので、実習が少なかったといっても実務的にあまり影響はないと思います(看護学校の先生が見ていたらごめんなさい)。
それよりも、実習で得られることをあらためて考えてみると、それは「コミュニケーションの多様性を知ること」「自分自身の課題に気づくこと」ではないでしょうか。一口に“患者さん”といっても、学生を受け入れてくれる人もいれば、「学生はつけないでください」という人もいます。さまざまな年齢の方とのかかわり方や難しい患者さんとのかかわり方、実習指導者や医師、多職種とのやりとりの仕方などを肌で学ぶことができるのが実習です。
逆に実習でこのような体験ができなかった新人には、これらの課題をクリアさせる指導力があればいいわけですね。指導力というと気が引けるという人もいるかもしれませんが、じつは、人に教えることは一番、 自分が育つ機会でもあります。
学生時代、「人に教えるように勉強しなさい」と言われたことがあるかと思います。「人に教える」というこ とは学習定着率が90%と高率なので、教えた人の学習 のほうが進みます(図2)。「うろ覚えだったことを新人に教えるために調べて教える」という行為そのもの が、自分自身の学習定着率を高める、まさに「教えることでともに育つ」一石二鳥な方法が新人指導なわけ です。2020年度卒業の新人は国家資格をもった実習生、「学びの途上にある人たちなんだ」というとらえ方でいけばうまくいきます。「指導なんて!」と肩肘張らずに、「自分も勉強になるしな」くらいに気軽にかかわっていきましょう。
また、同アンケート内で、「新人看護師として勤めるとき、どんなことが不安ですか」と質問すると、ほとんどは「先輩との人間関係」や「実際の患者さんにかかわれるのか」といった「コミュニケーション」に関するものでした。
ですからまずは、新人が患者さんやご家族、そして同じ場所で働くスタッフや多職種とうまくコミュニ ケーションがとれるようにしてあげることが急務です。新人の定着という観点から見ると、もしかすると実務を教えることよりも重要なことなのかもしれません。

「発信力」を鍛え、他者へ「働きかける」ことができるように育てる方法

社会人基礎力について前述しましたが、近年の新人を見ていると、この社会人基礎力のなかのアクション、つまり「発信力」「働きかけ力」「実行力」が毎年低下してきているように思います。さらに実習で実際に患者さんとかかわる機会が少なかった今年の新人は、特にこの能力が不足していると予測されます。
私はこれらの能力を高めるために、新人に自分のことを語らせる機会をつくることをおすすめしていま す。図3は、私が研修で使用している自己紹介シート(別名セルフコーチングシート)です。これを事前課題として記入してもらい、新人がOJTの担当者 (プリセプターや実地指導者)に自分のことを語る機会をつくります。語る時間は5〜10分あれば十分です。 指導者が自分のルーツを書いたセルフコーチングシー トをモデルとして渡せば、指導者の自己開示にもなり、 新人が心を許す関係性がつくりやすくもなります。
新人が自分を語る場面をスマートフォンなどで撮影 し、新人のプレゼンテーション能力を評価してあげるのもおすすめです。集合研修ならば、新人同士でグループをつくり、そのなかで発表させるのも発信力を鍛えるよい方法です。
このコーチングシートは、実際に私が個別コーチングでも活用しているものでもあります。番号順に書くだけで過去と現在がつながり、自己理解を深めながら未来を考えられるように意図して作成してあります。 また、表の中に「他者からの欠点のリフレーム」という部分がありますが、ここはOJT担当者から自分の欠点を別の見方で伝えてもらい、それを記入していくという項目です(研修なら隣同士の新人でお互いに欠点を リフレームさせると、その新人同士は打ち解けます)。「自分の欠点はこんなふうにとらえることもできるんだな」と、他者とかかわることで枠組みが広がることを実体験させ、積極的に他者とかかわりをもつことの 大切さを悟らせるように設計しています。
こうなると新人指導は、「自分の欠点を人から気にしなくてもいいんだよ」と言ってもらう機会になります。なので、「気持ちが軽くなった」「自分は自分でもいんだと思えた」「がんばれそう」などの感想を引き出すことができ、新人の自己肯定感を高めることができます。
新人が考える「自分の欠点」は大抵、表2のような内容です。例年こんなところですから、これらの欠点に関しては、一言でもののとらえ方が変わるような “極上のリフレーム”の言葉を準備しておくのがよいでしょう。よく「最近の新人は反応しない、話せない」という人がいますが、このシートを事前課題にしてから発表してもらうと、しっかり話せます。「反応しない」「話せない」の多くは準備不足がほとんどです。
ですから、こんなふうに、「どんなことを話そうか」 とじっくり考る時間をつくってあげると、メンタルリハーサルにもなり、今どきの新人でも饒舌に話せるようになります。新人が患者さんや家族に働き続けることができるように、お役立てくださいね。

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