管理者教育のポイント(No.2)| 訪問看護ステーションで「人がいない」と嘆く管理者の本音とは?

これまで私は、いくつかの訪問看護ステーションを持つ法人で、教育支援や人材紹介に携わってきました。病院付属の訪問看護や、経営者が看護師ではない異業種参入のステーション、そして看護師自身が起業し、経営者と管理者を兼任しているステーションなど様々です。

そこで頻繁に耳にするのが、「人がいないから新規利用者を増やせない」という声です。この訴えのほとんどは、病院付属か異業種参入の訪問看護ステーションの管理者からのものです。(看護師自身が経営者のステーションの管理者は、このようなことを言いません。自分の法人なので、休みを返上してでも新規利用者を引き受けて経営を回そうと考えるからです。)

「人がいないから新規利用者を増やせない」の裏側

「人がいないから新規利用者を増やせない」と言う管理者の言い分は、ケアマネジャーから新規の利用者を紹介されても、余剰人員がいないと既存スタッフの訪問件数が増え、負担がかかるため「結果として、今のスタッフが辞めてしまうから受けられない。スタッフが増えたら新規もたくさん引き受けられる」というものです。

それならばと、紹介会社経由で高額な紹介料とともに人材を採用しても、「そもそもあの人のキャラはうちには合ってないし、いりません。ここは前のところよりも待遇が悪いって言ってましたよ」と、あっさり3カ月で退職させてしまうことがあります。「つい先週、紹介料、払ったばかりだぞ!管理者ならせめてあと、3カ月は引き止めてくれよ(泣)」と経営層が嘆いても、どこ吹く風で一向に響きません。

人材紹介料は年収の25~30%くらいが相場ですから、看護師ひとりを採用すると100~120万円ほどが飛んでいってしまいます。「それでもしばらく定着してくれるんなら、『よし』とするか」と泣く泣く紹介料を支払っている経営層の気持ちを、コスト意識と帰属意識の低い管理者はそもそも理解できません。

このような管理者に私が、「看護師さんをひとり紹介会社経由で採用したらいくら支払うことになると思いますか?」と質問しても答えられません。「わかりません」というならまだいいのですが、「自分には経営の数字とかはオープンにされてないので」と、開き直ってくる人も多いので不思議です。一般企業ではあり得ないこうしたことが平気で起こるのが医療の現場です。以下は、こうした管理者との私の会話のつづきです。

採用コストを理解しない管理者との攻防

私: 「管理する上で必要だから、できる範囲で経営の数字を教えてほしいと経営層に頼んでみてはどうでしょう」

こうした管理者: 「前の管理者もやってないし、自分の役割じゃありません。」

あえなく終了。・・・・・チーン・・・・・(静)

私: 「管理は、『ヒト・モノ・カネ』って、管理者研修とかで、聞いたことないですかね」

こうした管理者: 「自分は管理者研修に出してもらってないんで。行かせてほしいって何度も言ってるんですけどね。」

私: 「そ、そうなんですね、、、。(汗)(それはあなたが、すぐ辞める、辞めるっていうからですけどね、、、)腰を据えて管理者としてやっていきたいから管理者研修にもう一回、行かせてほしいと言ってみてはどうですかね。私も援護しますから。」笑顔でガッツポーズ

こうした管理者: 「いや、自分はここに腰を据える気持ちはないんで行かなくていいです。」————-真顔———-

私: ・・・・・・。

外罰的管理者の「3大くれない言葉」

「教えてくれない」「行かせてくれない」「わかってくれない」。こうした管理者がよく使う「3大くれない言葉」です。「いつ辞めるかわからないような管理者」に、高額な研修に喜んで行かせる経営者はどこにもいません。組織から給料をもらいながら「腰を据えるつもりはない」と言い放つ管理者の元で、帰属意識の高いスタッフが育つわけもありません。

こうした管理者の「人がいないから新規利用者を増やせない」という訴えの本音は、「スタッフが増えたら新規利用者を受けなきゃならないから訪問件数も増える。給料が一緒なら別に現状維持でいいし」なのです。

「人がいないから新規が取れない。人が増えたら新規ももっと取れる」と表向きには言いながら、「訪問件数を増やしたくない派閥」を作り、そこに属せない人には辞めてもらう。そして今度は「定着しないのは待遇が悪いせいだ。このままじゃ自分達も辞めますよ」として、自分達の給料を引き上げようとする。(これらの本音を見抜く必要があります。)

実は、こうした管理者は、法人の利益が上がろうが、下がろうが自分が給料を払うわけじゃないので、本当のところ、痛くも痒くもありません。「なんなら利益が出ている他部門から自分たちの赤字を補填すればいい。同じ法人なんだから」とすら思っていたりもします。(これは私が関わってきた管理者のそのままの言葉です。泣)また、こういう本音を平気で口に出したりもします。(逆に、看護師が立ち上げたステーションの管理者は経営者でもあるので、コスト意識が高い人が多いのですが、、、。)

人事評価制度と目標管理の重要性

こうした管理者は、「訪問の件数が増えないよう自分が経営陣からみんなを守っている」とアピールし、スタッフを味方につけて、現状維持派閥を作ってしまいます。

こうならないようにするには、「人事評価制度」をしっかりと機能させ、「目標管理でしっかりと訪問件数をキープまたは増加」させる必要があります。「月に100訪問」などの数値化された目標があれば、利用者さんが減少したときにケアマネジャーや退院調整室に営業に行くなどの行動をとるようになるからです。

「4、5人の小規模ステーションは、まだ立ち上げたばかりで人事評価制度なんてとてもそういう段階じゃないです」などと言う人もいますが、小規模で1人、2人欠けただけでも大問題になってしまうところこそ、人事評価や目標管理がしっかりしていないといけないのです。人数が少ないからこそ、一丸となって利用者獲得をしていかなければすぐに競合に負けてしまうからです。「人がいないから新規を増やせない」なんて言っている場合じゃありません。管理者たるもの2、3年は休みを返上して、自分が毎日待機の電話を持つくらいの覚悟がなければ、小規模ステーションはすぐに経営破綻します。

「動きたくない」と「バリバリ働きたい」のジレンマ

「正直、訪問件数を増やしたくない。けど給料はそこそこもらいたい。」こんなスタッフばかりのステーションに、「訪問件数は多くてもいいからインセンティブがたくさん欲しい」というスタッフが入ってきたらどうなるでしょう?

私は人材紹介もやっているので刺激になればと思い、こういうステーションにバリバリ稼ぎたいという男性看護師を紹介したりしますが、やはり「現状維持派閥」のスタッフになじめずに、定着しません。訪問件数を増やしたくないスタッフや管理者にとっては「もっと働きたい」というスタッフがいることは、残念ながら「自分達もやらなくてはいけなくなるので邪魔」でしかないのです。

「もっとバリバリ働きたい人」は、訪問件数を上げてバリバリ稼げるステーションが似合います。「類は友を呼ぶ」もの。こうして「利益が上がり大規模化するステーション」と「現状維持のそこそこステーション」の組織風土が定着します。

こうならないようにするためにも、コスト意識と帰属意識がともに高い管理者を育成、採用していく仕組みが重要になってきます。

管理者教育の誤解とe-learningの活用

この訪問看護管理者は、「管理者研修受講」=「管理者教育」というふうに理解していますが、大きな誤解です。筆者も訪問看護管理者を育成する団体で8カ月ほど集合研修を受講しましたが、教養科目くらいの内容で経営を回す上では、特に役に立ちませんでした。実際に訪問看護ステーションを立ち上げ、運営した方が何倍も勉強になりました。やはり「事実は小説よりも奇なり」で、現場のマネジメントを実際にしていることの方がはるかにリアルです。

特に、訪問看護ステーションの場合は他のステーションとの競争が激しいので、管理者だけというよりはスタッフみんなが「管理」を学ばないとすぐに赤字になります。いつ辞めるかわからない帰属意識の低い管理者にコストをかけて長期で高額な研修に出すより、私は、職員全体が受けられるe-learningの受講をお勧めします。

実は、コロナ禍でe-learningの質は非常に上がりました。新卒看護師は訪問看護の分野で育てるのは難しいという(基礎看護技術を病棟で経験してこないため)定説がありましたが、e-learningの進化でその常識が覆ったとも思います。

訪問看護ステーションに義務付けられている必修研修を網羅していることや、管理者向けの教材が豊富な会社の教材を選べば、管理者研修に一人出す費用の20分の1のコストで全職員に管理者教育までを受講させることができますので、めちゃくちゃコストパフォーマンスが良いのです。(個人的にはSQ訪問看護というe-learning教材は、月に10,000円でIDの制限なしという破格値で視聴でき、なおかつ管理者研修が充実しているのでお勧めです。)

全職員に管理者ができるほどのマネジメント力が備わっていれば、「自分が辞めたら次の管理者はどうするんですか?やる人はいませんよ。」なんて脅されることもなくなります(笑)。人員基準で看護師が管理者をやるのが必須の訪問看護ステーションの運営こそ、「管理者教育を充実」させておく必要があります。

 

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