効果的な「問い」で新人の考える力を引き出す
ワンランクUPポイント
- 新人が考えられないのは、考える時間や機会が与えられていないから。
- 「なんでかな」という疑問があると、その解をみつけるべく能動的に現象をみるようになる。
- さまざまな問いかけをして新人の考える力を引き出そう
これまでにも何度か取り上げた「新人が身につけるべき20の行動」のうち、今回は「10.考える」について、私が大切だと思っていることについて書きます。
社会人基礎力(*1)の3つの能力として取り上げられている「考え抜く力(シンキング)」。基礎力とは言われてはいるものの、社会人歴が数十年のベテランさんでも、できていないことがよくあります。
ではこの「考える」とはいったいなんなのか、また「考える力」は仕事をしていく中でどうやって身に着けていったらいいのか、一緒に「考えて」みることにしましょう。
(*1)参考:経済産業省 人生100年時代の社会人基礎力
目次
新人が「考えない」のは「考えさせる時間」をつくっていないから
研修担当者のトレーニングなどで「今どきの若い看護師は、ぜんぜん「考えない」「振り返りもできない」どうしたらいいんでしょうか」とよく相談されます。
そんなとき私は、「若い看護師に考えさせる時間をどのくらいとっていますか?」と質問するのですが、ほとんどの方がびっくりした表情で「えっ?」と沈黙してしまいます。
結局のところ、新人が「考える」ことができるようにならないのは、指導者が「考える時間」や「考える機会」をつくっていないからではないかな、と私は思っています。私の質問によって、それに気づいたときに、指導者は沈黙してしまうのではないでしょうか。
「見て覚えろ」は「考える」ことを促進する
数十年前には、私にも新人看護師と呼ばれる機会がありました(今は潜在看護師です!)。
当時は今のように新人研修が充実しておらず、看護師教育は「見て覚えろ!」の世界でした。就職した日の午前中に、法人の理事長か誰かの講話がちょっとあって、そのあとは元CAの接遇研修(患者さんにはこんな対応が望ましい、とか)なんかがあって、午後からは部署に配属され、オリエンテーション後にすぐ業務、そんな時代でした。プリセプター制度もしっかりできておらず、OJT担当の先輩の後ろをただ黙ってついていく。トイレまでついて行ってしまい「どこまでついてくんの?」と怒鳴られた、なんていうことがたくさんあった時代です。今なら考えられませんよね。
その後、看護師として5年ほど勤務をして看護教員になり、今の会社を立ち上げて現場の教育支援をするようになった私は、逆に当時の「見て覚えろ」の時代に「考える」という習慣を新人が手に入れていたのではないかと思うようになりました。
人は誰かの仕事ぶりを見るとき、「昨日の先輩はこっちの乗務からやっていたのに、今日の先輩は順番が違う。なんでかな?」というふうに、考えながら見るのが普通ではないかと思うからです。もし、映像しか見ていない人がいたとしたら、先輩につかせるまえに「今日1日が終わったとき、最低3つは先輩に質問をするようにしましょう」と声をかけたり、質問用紙を配ったりするのがおすすめです。
「問い」があるとき、人間は能動的に現象を見るようになります。何よりアウトプットが前提にあるとき、学習定着力はアップします。新人が数日間、先輩の後ろにビタッとくっついていたかと思えば、あれよあれよという間に即戦力とされていた時代は、教育としては批判されることが多いですが、もしかすると「考える」が自然にできていたのかもしれない、とそんなふうにも思うのです。
「考える」を促進するオンライン研修
近年は感染症がはびこり、私自身も2020・2021年はオンラインで研修をせざるを得ない状況となりました。参加者と目の前でやり取りができないことに悩み、この打開策としてZoomとGoogleフォームのアンケート機能をミックスさせた形式で、研修をするようになったのですが、このやり方は参加者の「考える」を促すとてもよい機会になったと今は思っています。
例えば、オンラインでの接遇研修では、まずはZoomでクレーム場面の動画を流し、参加者に「どんな対応が望ましかったのか」を考えてもらったり、自分自身がクレームをもらった場面を振り返り「何があったらクレームを予防できたと思うか」を考えてもらいます。そして、その答えを、あらかじめ連絡しておいた研修用のGoogleフォームに各自で入力してもらいます。
講師である私のパソコンの画面上には、研修参加者の回答が続々と集まってきますので、それをリアルタイムで全参加者に画面共有し、見られるようにしています。5分ほどそれらの回答を映し出しておくと、だんだんとブラッシュアップされていき、質の高い「考え」や「意見」がたくさん出てきます。
SNSなどではタイムリーに不特定多数の人々の意見(!?)やコメントがアップされますが、それを研修で応用してみたら、とても効果的で驚きました。
新人が公の場で自分の意見を発表することはまれですが、だからといって「何も考えていない」わけでもありません。方法を工夫すれば意外と簡単に「考える」を促進することができるのだと私自身も学びました。
効果的な「問い」で「考え」を引き出す
実際に私が研修で使用している「問い」や研修参加者の回答の一部をご紹介します。
これは私が学研やエルゼビアジャパンのe-learningに提供している「問い」です。かなり「考える」を促すものではないかと思っています。実際に、この研修を受けた病院の参加者の接過が向上したり、患者満足度が上がったりしたなどの具体的な成果も上がっています。
こちらは、実際の「問い」と、それに対する研修参加者の回答の一部です。仕事で失敗をしたときなど、同じ間違いをくり返さないためにインシデントレポートを書くなどして振りかえることは大事ですが、失敗から学び、再び一歩を踏み出す(アクション)ために前向きに現象を捉えなおすこともまた、重要です。
失敗をしてしまったときなどは、自分を責める気持ちが強かったりして、他の人から励ましてもらったりしてもなかなか前を向けないこともあります。やはり自分自身で前向きに「考える」のがいいのですが、ひとりで失敗と向き合うとなかなかうまく行きません。そんなときは、こんなふうに失敗を捉えなおす、つまり「考える」機会を作ると効果的です。
新人にはさまざまな問いかけをしよう
私が研修時に活用しているGoogleフォームの「問い」と「回答」の一部をご紹介しましたが、あらためて「問い」を作成しなくても、指導者の立場にある方は、普段のOJTの場面で、口頭試問(指導の場面で質問すること)で様々な「考える」を引き出す問いかけをしてあげることで十分だと思います。
「ねえ、〇〇さん。自分の存在が役に立ったのかも!っていうエピソードを教えて。」
「患者さんからお礼を言われた場面のこと、教えて。」
「先輩からほめれられてるところは?」
なんていう「問い」をどんどん投げかけてあげましょう。
新人だという立場の人は、これらの質問に自分で答えを書いておきましょう。