看護師 実地指導者向け(後編)『新人看護師のやる気を引き出す関わり方』

※BRAIN NURSING 2011 vol.27 no.10メディカ出版社に掲載されたものです。

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研修直後のアンケート結果のとらえ方
私の研修の満足度は? 理解度は?

アンケート協力:山口県厚生農業協同組合連合会周東総合病院

研修直後のアンケート結果のとらえ方

本特集の冒頭で「やる気を引き出すかかわり方ができた」と評価するのは新人サイドであると書きました。
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それは研修講師である私にも言えることです。
研修で「やる気を引き出すかかわり方」を伝えたら「よくわかった。よし、やってみよう!」
と受講者が答えてくれなければ伝えたことにはなりません。
伝わったことが伝えたこと』なのです。
理解度や満足度が低いということは、つまり講師の力量が足りないわけです。
ドキドキしますが、私は研修直後のアンケートをどこの病院研修でもくまなく見せていただくようにしています。
良い評価も良くない評価も講師としては全部受け止めていくべきだと思うからです。
今回も研修直後に周東総合病院の教育委員会でとってくださったアンケートを見せていただきました(図)。
参加者の皆さんにとても高く評価していただいて本当にありがたく感じています。

 

満足度が高い病院の特徴

研修の満足度が高い病院にはじつは共通した2つの特徴があります。
1つ目の特徴は「研修時の受講者の反応が早くて多い」ということ、
2つ目は「研修担当者と教育委員会が一生懸命」ということです。

1.研修時の受講者の反応が早くて多い

1つ目の「研修時の受講者の反応が早くて多い」という特徴があると、講師はとても研修がやりやすいものです。
やはり講師も人間なので、反応が多いとリラックスできて、何倍もの力が引き出されます。
また、講師になるような人はもともと「教え好き」な人が多いので、
ノッてくるとドンドンほかの研修のネタなども話したりしてしまいます。
結局のところ「反応上手は引き出し上手」なのであって、講師へのホスピタリティが自院の研修の満足度を高めることに直結します。

2.研修担当者と教育委員会が一生懸命

2つ目の「研修担当者と教育委員会が一生懸命」という姿勢は講師にバッチリ伝わります。
研修を担当する方々がどんな気持ちで研修を企画して受講者にどんなふうになってもらいたいと思っているのかが
明確で純粋であればあるほど、講師の側も本気でがんばろうと思います。
なので、事前の打ち合わせや準備にも力が入ります。
反対に研修担当の方が「毎年研修をやっているので例年通りにいけばいい」と思っている場合はそれも伝わってくる
ので、こちらもあまり熱くなれません。

結局は、研修担当者と教育委員会の方々の「本気」が講師の「本気」をも引き出すのだと思います。
そしてその「本気」は受講生にこそ伝わっていて「こんなに一生懸命に準備してくれてありがたい、一生懸命に学ぼう」と研修時の反応の良さにつながり、ひいては研修の高い満足度を生み出すもとになっている気がします。
そしてアンケートなどで受講者の高い満足度を知って、さらに研修担当者と教育委員会が満足し、
もっといい研修を企画しようと成功のサイクルが回っていく。
研修の満足度が高く出る病院にはすでに「高くなるだけの風土がある」と、私は感じています。

そして研修直後に受講者のやる気がとても高まったのは何よりもうれしい結果でした。
「やる気を引き出すかかわり方」の研修を受けて受講者が「難しい」と思うようなら、その研修は失敗でしょう。
「やる気を引き出すかかわり方」というタイトルならば、まずは受講者自身のやる気を引き出せるのが
第一関門だと私は思って努力しています。

 

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フローモデルを用いた研修効果測定アンケート作成

有限責任事業組合ビジネスリサーチラボ
伊達洋駆(だて・ようく) 中本龍市(なかもと・りゅういち) 山本圭樹(やまもと・けいき)

 

研修の教育効果はいつ、どのように計るのがいいのか?
~専門家による研修効果測定方法を専門誌上初公開!!

ここまでは研修直後のアンケートのとらえ方について書きました。
ここからは「研修内容が現場で活用されているのかどうか」つまり、研修の効果測定の実際を公開したいと思います。
専門誌で研修効果測定の結果が公表されるのは今回が初めてのことだと思います。
たいていの講師は効果測定を嫌がるからです。
今回誌面で公表するにあたって、私にも「自分の研修の効果がないと証明されたらどうしよう…」という葛藤もありました。
「でも、そうだとしても講師としてしっかりと改善点を見いだす機会にしなくては」という気持ちが強かったので、
チャレンジしてみようと決心しました。
研修から3カ月後に「現場で研修内容がどのくらい活用できたか」というアンケート調査に周東総合病院の受講者の
方々に協力していただきました。
結果は上々で内心私は「よかった~」とホッと胸をなで下ろしました。
3カ月たっても私が研修で伝えた内容を受講者の皆さんが「現場で実践して効果があった」と
高く評価してくれたのです。

以下は調査の専門家が私の研修の効果測定に使用したアンケート内容と結果、そして分析内容の実際です。
教育担当者や教育委員会の方は、このアンケートのとり方と項目を生かして自院のものを作成すれば容易に
効果測定ができるようになりますので、ぜひご参考ください。(奥山美奈)

 

フローモデルとは

通年で実施されている研修は、しばしばなぜそれが継続的に行われているのか明確になっていないものがあります。
そもそもそれは効果が測定されていないことが原因です。

フローモデルは、学者が調査に基づいて考案した研修効果測定のモデルです。
フローモデルでは、“訓練”、“試行”、“反復”、“共有”という4つのフェーズで研修の効果を捉えようとします1~3)
簡単に言えば、“訓練”とは研修直後に測定し、“試行”、“反復”、“共有”は研修が終わって受講者が職場に戻ってから測定します。

フローモデルの特徴は、おもに以下があります。

①質問紙を作成していくなかで研修の学習目標を明確にできる
②それが研修の見直しに通じる
③研修で伝えたことが実行されているかどうかを長期的に追跡できる
④効果の測定によって問題点を把握・研修の改廃を検討できる
⑤効果の測定結果を受講者側と講師側が共有することによって、よりよい研修をつくりあげることができる

研修とは別の議論になるため、フローモデルでは研修で教わったことが実際に組織成果につながるかどうかは検証しようとしていません。
ゆえに、フローモデルは、研修で教わったことを実行しているか否かだけをチェックする禁欲的なモデルだと言えるでしょう。

 

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研修における学習目標の設定

フローモデルで研修効果を測定するために、まず学習目標の設定を行いました。
奥山氏の研修は、伝えるべきノウハウが明確に決められていたため、フローモデルの始まりである
学習目標の設定は容易に進めることができました。
しばしばフローモデルで研修効果の測定を行う際に問題が生じるのは、学習目標の設定です。
言い換えれば、学習目標があいまいであったり、問われていない研修がきわめて多いのです。そ
の際、学習目標を講師側に尋ねていくことになりますが、この過程が意外に時間のかかる工程です。

奥山氏の研修では、すでに20個程度の学習目標が設定されていたため、このうち回答者に負担がかからないように
重要なもの、講師として絶対に継続してほしいものを4つ選んでもらいました。
それが、「でもでも会話をやめる」、「傾聴する」、「質問が尋問にならないようにする」、
「しかるときはあいまいな表現でなく具体的な表現にする」です。
もちろん、時間と労力が大量にあればすべての学習目標について質問したら良いのかもしれません。
しかし、現実的には数個の最重要な学習目標について受講者が職場に帰っても忘れずに伝わったスキルが
実施されているのか、その効果を問うことになります。

 

効果の測定範囲の決定

これら4つの学習目標についてどの範囲で測定するのかを決定しました。
先に述べたようにフローモデルには、訓練、試行、反復、共有の4つのフェーズがあり、それぞれその4フェーズに、
5つの要素が入っています(図1)。

すでに周東総合病院が、研修後すぐに研修の満足度などをアンケート調査していました。
これは、訓練のフェーズのデータにあたるため、今回のフローモデルでは、職場に帰ってから研修で教わったことが
試行されているのかという試行のフェーズ、研修で教わったことを何度も活用しているのかという反復のフェーズを
測定のメインのターゲットにしました。
共有のフェーズは、いわゆる組織学習に近いものですが、このフェーズは質問紙が膨大になってしまうことと職場の
単位が小さめなことから今回は測定しませんでした。

 

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設計と工夫

フローモデルは、一般的に1~4の4件法で回答をお願いします。
5件法で行わないのは、どちらでもないという回答が集中してしまうことを避けるためです。

今回の研修効果測定で用いた具体的な質問項目を表に示します。
質問項目は、「学習目標」と「各要素の質問文」からなります。
たとえば、Q3は、活用意思を聞く項目ですが、学習目標は「でもでも会話をやめる」です。
一方で「各要素の質問文」とは「実際に使ってみようと思いましたか?」です。
このように、研修効果測定は学習目標と各要素の質問文を組み合わせてつくっていくシンプルな方法です。

ふだんは4件法のみで回答をお願いしますが、今回は少人数のサンプルでかつ協力的なリサーチサイトであったこと、
受講生の実体験の具体的な場面を入手したかったことから、一部に自由回答を導入しています。
回答者の負担を減らすべく、講師である奥山氏と重複していると考えられる要素の質問項目は統合し回答数をできる限り減らしました。

 

測定の実際の結果

実際に奥山氏の研修の効果を見てみましょう。
回答者は9名でした。図2に、4件法でグラフ表示が可能なものを示しました。
このグラフは、研修の効果がどのように変動しているのかを示すもので、効果フローと呼んでいます。

図2を見ればわかるように、奥山氏の研修の特徴はフローモデルの後期に至っても得点の平均値が2を割り込むことが
なく、得点は3を中心に上下で変動しています(例外は、「でもでも会話をやめる」というノウハウ1の説明可能の段階)。
このように、活用意思(研修で教わったことを活用する意思)が高く、
その次の内容試行(研修内容を試行する態度)も高いまま維持されており、
その波に乗って、成功満足(研修内容を試行して成功したことに対する満足度)も、
説明可能(研修で教わったことの他者への説明可能性)も高い得点で推移しています。
つまり、効果の高い研修であったことが推察されます。

このほかに、自由回答として試行成功(研修内容を試して成功する)を聞いています。
たとえば、「傾聴する」というノウハウでは、「傾聴の時間を長くとることで、相手の思いを聞いてあげられて、それ以降話しやすい雰囲気をつくることができるのではないかと思う」という受講者の声がありました。
また、継続意思・文脈発見(研修内容を試行して成功し別の機会にも継続使用したい)についても、自由回答で聞いています。
たとえば、「質問が尋問にならないようにする」というノウハウでは「プリセプティが失敗したとき」にこのノウハウを再度使いたいという回答が得られました。

このように、受講者は研修内容によくなじんでおり、研修を離れて職場に帰ってからも研修内容を試しに使い、成功し、今後も使いたいと考えていることがわかりました。

 

おわりに

奥山氏の研修は、効果が持続し受講者にも役立っていることが測定結果からもわかりました。
今回の測定のケースでは、どのような場面で研修内容を活用しているのかを具体的に記述してもらったため、
講師側も受講者がどのように知識を使いどのように成功しているのかをより具体的に知ることができるきっかけになったと言えます。
それによって研修内容をさらに研ぎ澄ますことができ、講師と受講者ともに、さらに実りのある研修とコミュニケーションが可能になっていくと思います。(伊達・中本・山本)

前編はこちら

引用・参考文献
1) 伊達洋駆。跳躍から軌跡へ、期待から追跡へ、カークパトリックモデルからフローモデルへ。有限責任事業組合ビジネスリサーチラボ ディスカッションペーパー#1。2011。
2)  伊達洋駆ほか。研修効果に関するフローモデルの開発:研修受講者に対する質的調査に基づいて。有限責任事業組合ビジネスリサーチラボディスカッションペーパー#2。2011。
3)  伊達洋駆ほか。効果測定モデルの構築と導入:研修業界の構造的変革を志向して。第62回日本情報経営学会予稿集。2011。

 

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